「やさしい日本語」とは
意識的に単語を選択し、規則的に話すこと。日本人が外国人の日本語に合わせていく姿勢を言う。もともとは、1995年の阪神淡路大震災後に作られた防災・減災のための日本語。
参考: 「インバウンドやるなら外国語で、は思い込み 「やさしい日本語」東海大学・加藤教授に聞く」
今回のアテンド
美唄市の経済観光課で2019年4月から地域おこし協力隊として働く、オーストラリア人のジェイムズ・マッキンタイアさんがアテンドした。
参考:「北海道美唄市の地域おこし隊に外国人採用 「やさしい日本語」とセグメント集客で深みのあるインバウンドへ」
美唄市の新しい観光資源は、「やさしい日本語」を使った地域住民の交流力
ーー今回、美唄市に東海大学の留学生が訪れたそうですね。
ジェイムズ はい、そうなんです。美唄市が行っている「やさしい日本語」を商品化するという取り組みの一環で、モニターとして東海大学の学生さんが3泊4日で美唄に来てもらいました。美唄市の皆さんと「やさしい日本語」を通して交流してもらいながら、観光スポットを巡りました。
具体的には「安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄」「美唄市 郷土史料館」「青の洞窟温泉ゆ~りん館」「西川農場」などに行ったり、日本文化体験(茶道、書道、トールペイント)を行ったりしました。また美唄の方の自宅に招いてもらってお食事会も開かれました。美唄市の皆さんも外国人の方と「やさしい日本語」で実際にコミュケーションを取ったことで良い経験になったと思います。今回は日本人の学生さんも参加していますが、外国人の留学生さんも普段、中々話すことのできない人たちと話すことができて、日本語の理解も深まったかと思います。
ーーそれでは今回、参加した5名の学生さんにお話をうかがいます。
ハイリュウ(中国から:シンさん) 以前もこのECzineのインバウンド連載に登場させていただきました(笑)。あの時は、大学生でしたが、今は大学院生になりました。今回、美唄市に来させてもらって、西川農場で食べたラム肉は臭みもなくて本当に美味しかったです。北海道は自然の中にいる熊、鹿などの動物の印象はありましたが、羊の印象はなかったので。
食事中、美唄市の方とお話することができたのですが、初めの方は「やさしい日本語」で気を使いながら話してくれたのですが、段々、僕が日本語を話せることがわかってくると、複雑な日本語が出てきて……少し困りました(笑)。新しい日本語にチャレンジできる機会ですので、いろいろ日本語でお話ができてよかったです。北海道と言えば、札幌とかの印象が強くて、美唄のことは知らなかったですが、来てみて外国人も住みやすい町だなと思いました。
今後の目標ですか? 私の個人的な話になりますが、大学院を卒業して、日本語を教えるというより、日本文化を教えたいと思っています。
NUMKIATSAKUL KULAPORN(タイから:ミントさん) 2年前にタイから来ました。今は大学院生です。今回、美唄での経験は本当に貴重な経験でした。美唄の町はとても綺麗でした。西川農場さんにはアスパラを食べさせて育てている羊がいて、それをバーベキューで食べました。実はラム肉は、食べる前に抵抗があったんですけど、食べたら美味しかった。タイでは羊は動物園にいるから見たことはあったんですけど、食べたことはなかったんです(笑)。私はまだ日本語がそこまで得意ではないのに、美唄の人達が優しく話しかけてくれたことが嬉しかったです。
実は昨年、1度タイに戻ったらコロナの影響で日本に戻れなくなって、ようやく2021年の5月に戻って来ました。タイにいた時はオンラインで大学の授業を受けていたので、それ以外はあまり日本語を使わず……。これから「やさしい日本語」もそうですが、日本語をもっと勉強して、タイの大学の日本語の先生になりたいです。
韓超(中国から:カンさん) 今、東海大学大学院の修士1年生です。2年前に日本に来ました。今回、美唄に来て、本当に美唄の方たちが優しくて、理解しやすい日本語でお話をしてくださいました。「安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄」はとても綺麗な美術品があって驚きました。美唄市はせわしなくなくとてもリラックスできる町で、気持ちが穏やかになりました。ストレスを感じていらっしゃる方は、ここに来ればストレスを解消できるのではないかと思います。
美唄市の人たちと会話をさせてもらって、「やさしい日本語」は、外国人と日本人のコミュニケーションを円滑にする言語だと思いました。私自身、もっと「やさしい日本語」を学んで、今後、中国人に対して、「やさしい日本語」を使って効果的な日本語教育をしていきいたいと考えています。
プロンパンパ二サラァ(タイ、日本生まれ育ち:パニさん) 東海大学観光学部の3年生です。私は両親ともタイ人ですが、日本生まれ日本育ちです。なのでタイ語はあまり得意ではありません(笑)。今、ホスピタリティ研究のゼミで異文化についてなど学んでいるのですが、たまたま「やさしい日本語」の本に出会い、読んでみて、「やさしい日本語」も立派な観光資源になることを知りました。また、「やさしい日本語」を通して異文化理解を図ることができると知り、今、学んでいます。
今回、美唄に来て、都会に比べて時の流れが遅く感じ、スローライフというか、「非日常」を味わえる場所だなと。また美唄市は、外国人観光客や異文化に対して住民の皆さんは理解があると感じました。町の中も英語表記が多く見られ、他の地域に比べて、外国人対応が進んでいました。住民の皆さんは、交流している時に「やさしい日本語」だけでなく、難しい言葉をかみ砕いて話してくれました。言葉を簡単にしても伝わらない時も、頑張ってわかりやすく説明しようとしてくれる姿勢に非常に好感を持てました。
デービット・アトキンソン著『新・観光立国論』では、観光立国になるための4つの条件は、「気候」「自然」「食」「文化」であると書いてあります。日本自体はこの4つの条件が整っている国で、美唄もこの4つが整っていると思います。ただそれを本州の人達に伝える機会がまだまだ少ないのかもしれません。美唄の最大の観光資源は、美唄市に住んでいる地域住民の優しさであると思います。美唄でいろんな体験をさせてもらいましたが、「観光地」「食」も素晴らしかったのですが、今回、出会った皆さんは本当に素晴らしかった。だから住民の皆さんに会いに、美唄にもう1度訪れたいです!
今回、交流会で美唄に訪れ、美唄のことをもっとたくさんの人たちに知ってもらいたいなと思いました。北海道であれば、函館や知床など有名な場所が取り上げられてがちです。今回のように、他の大学のフィールドワーク先などで取り上げられたらいいんじゃないかなと思いました。現在はコロナ禍で難しいかもしれませんが、私は将来、観光産業に就きたいと考えています。そして、今回美唄市を訪れてみて、地域の町おこしに興味を持ちました。
佐藤駿(日本) 東海大学医学部物理を専攻している3年生です。実は副専攻というものがありまして、それで日本語教育の授業を取り始めたことがきっかけで、日本語に興味を持ち、今回参加させていただきました。元々、独学で英語なども勉強した中で、言語にも物理のような広がりがあることを感じました。少し難しい話になりますが、僕が物理を好きになったのはアインシュタインの相対性理論に興味をもったからなんです。物理には時間に関することがあり、言語にも時間に関する概念が存在し、ある種、共通するアプローチを見つけたんです。
すいません、話を美唄の話に戻します(笑)。今回、僕は日本人でもあるので、ある意味、美唄の皆さんと留学生がどういうやり取りをしているのか、俯瞰することができました。 「やさしい日本語」で会話はできますが、やはり多少の日本語力は要ることもわかりました。ですから、観光地と連携して、観光ガイドにも「やさしい日本語」を掲載すると、初めて日本に旅に来た外国人も理解しやすいかと思います。西川牧場でラム肉をご馳走になった時に美唄の人たちから「羊って宗教に関係なく食べられる」と聞き、美唄の人達は外国人に対する意識が違うなと思いました。美唄の人たちは外国人に対して壁がないのも感じました。
僕の今後ですが、元々、理系の世界に生きてきて、理系だからこそ日本を見ると気づけるものがあるんじゃないかと。理科と日本語をマッチングさせる何か、そういう仕事に就けたらと思っています。
ーー学生の皆さん、ありがとうございます。最後にジェイムズさんの言葉を。
ジェイムズ 来てくれた外国人留学生は、日頃、自分の同じ年代の日本人としか話すことができなかったと思いますが、「やさしい日本語」や「普通の日本語」を通してさまざまな年齢の美唄の人たちと話すことができて、良い経験になったと思います。
やはり「やさしい日本語」というのは、まったく日本語を知らない外国人は対象にならないため、大学などで日本語を学んでいる留学生を中心に利用されていくと思います。僕自身も「やさしい日本語」に出会い、こうして美唄市で働かせてもらうこともできました。任期が2022年3月までですから、それまでは美唄市における「やさしい日本語」の発展に頑張ろうと思います。今後、どうするかは未定ですが、日本に残る予定です。いずれ起業したいと思っていますが、投資してくれる方がいっらしゃいますかね(笑)。