セルフレジ、キャッシュレス決済導入など、コンビニエンスストア(コンビニ)の店頭にテクノロジーが導入されている姿は、日常生活の中で身近な光景となりつつある。人口減少、少子高齢化が進む日本では、店舗DX推進による小売業の現場改革が喫緊の課題となっている。24時間365日の営業が基本となるコンビニにおいては、働き方改革や人材確保の文脈においても、省人化・無人化が有効な解決策となり得ることは想像に容易い。そこで、新たな店舗形態として無人決済システムを用いた店舗の開発に取り組んでいるのが、日本国内に1万6,600店以上の店舗網を有するファミリーマートだ。今回は、そのミッションを担う同社のライン・法人室で副室長を務める太田裕資さんに、店舗DX実現の舞台裏と今後の施策展開について聞いた。
レジ接客の業務負荷を解消 マーケット開拓と店舗DXの関係性
2021年3月、東京・丸の内に無人決済店舗の第1号店「ファミマ!!サピアタワー/S店」を出店、その後西武新宿線中井駅、東武アーバンパークライン岩槻駅、川越西郵便局と駅ナカ、郵便局内へフォーマットを拡張し、すでに計4店舗の出店に成功しているファミリーマート。これらの店舗の特徴は店内で商品を手に取り、出口でタッチパネルの表示内容を確認して決済するだけで買い物が完結する─つまり、人の手を介することなく、顧客自身で商品選択から購入までをコントロールできる点にある。このような省力化・無人化に着手した理由を太田さんに聞いたところ、このような答えが返ってきた。
「ファミリーマートに限らず、世の中の多くの企業が『人手不足の解消』を経営の重要課題として挙げています。当社としても、いかに店舗オペレーションを省力化していくかは注力すべき課題であり、実現するためのステップとして無人決済店舗の展開を開始しました」
コンビニの店舗オペレーションには、レジ接客などの業務と、商品陳列、発注・在庫管理、清掃などの業務の2種類が主に存在するが、太田さんは「業務の3割近くを占めるのがレジ接客」だと説明する。同社はこれをテクノロジーに置き換えることで、大幅な省力化が実現できると考えた。
「単純に人の作業を削るのではなく、テクノロジーで代替できるものは替えていき、創出できた時間を使って店舗環境を整えるなど、お客様の利便性向上につなげたい。そう考えています」
同社が新形態の店舗展開を重視する理由は、人手不足の解消だけに留まらない。太田さんが省力化・無人化に挑む理由は、ライン・法人室が持つミッションとも大きくかかわっている。とくに今後の事業の鍵を握るのは、大学や企業のオフィスや工場、病院などといった特定施設内を商圏とするマイクロマーケットであるととらえ、同社のみならず、コンビニ業界各社がさまざまな形で出店を推進している状況だ。
「創業以来、当社は商圏内において一定数の来店が見込める立地を対象に出店を進めていました。従来の店舗フォーマットで開拓できるエリアもまだ存在しますが、店舗数が増え、エリアを網羅するにともない、それだけで成長曲線を描き続けることは難しくなりつつあります。
しかし、当社としてはフランチャイズオーナーやお客様にメリットを感じていただけるよう、成長を続けなくてはなりません。そこで、これまでの出店のやりかたでは成立しない立地にも、商機を見出す必要があると考えました」
コンビニ運営において、人件費は大きな割合を占めるため、人材の確保と人件費を賄うだけの売上を生み出せるかどうかは、出店の判断を大きく左右する。テクノロジーの力で双方を解消した店舗展開ができるのならば、これまで出店が難しかった場所や、そこにいる人々にもコンビニの利便性を提供することが可能だ。技術活用で新たなマーケットを獲得し、出店スピードや各店の収益性を上げていく。マイクロマーケットの開拓には、こうした視点が欠かせない。