勤め先の廃業から一念発起 既存の関係を活かすためスピーディーに起業
コロナ禍以前は、京都府内の百貨店でフルーツ販売を行っていた杉下さん。親族である社長が高齢になるにつれ、会社を継ぐことも視野に入れていたが、2020年4月から5月の緊急事態宣言を契機に同社は事業継続を断念。廃業を決めた中でも、杉下さんは「コロナ禍だからこそ、中央市場や生産者、既存の取引先と何らかの形でつながり続けたい」と考えたと言う。
「建設業を営む父の影響もあり、私自身も会社員としてどこかに勤めるビジョンを描くことができずにいました。何か自分で事業を興したい、せっかく起業をするのであれば、これまで培ってきた関係各所との関係性を活かし、フルーツを使ったビジネスを行いたい。そう考え、レトロスペクトを立ち上げたのです」
起業するにあたり、人々の生活行動の変化に適応した販売チャネルを模索した杉下さん。前職では年配・富裕層をターゲットとした百貨店での対面販売を主軸とし、お中元・お歳暮シーズンの売上が大半を占めていたが、「これからの時代はオンラインで販売できる環境を構築しなくてはならないと判断した」と語り、このように続ける。
「扱う商材が高級品である以上、在庫を抱える商売はリスキーですし、コロナ禍がいつまで続くのかわからない状況下で実店舗を構えるイメージはできませんでした。であれば、まずはEC専業でビジネスをスタートし、様子を見ながら事業を拡大するのがよいのではないか。そう考え、オープンに向けた準備を始めました」
百貨店が運営するオンラインショップへの出店や、実家の古民家を民泊施設として貸し出す中で、WordPressを使ったサイト構築や旅行予約サイトでの集客経験はあったものの、EC運営未経験の杉下さんはまずふたつの方向から、伴走するパートナー探しを開始した。
「ECで勝負するなら、テキスト表現に長けた人の力が必要と考えました。『ランサーズ』で協力者を募り、ライティングやブランディング、SNS活用ができる人をふたり見つけ、業務委託として採用。同時にカートの選定も進めました。フルーツは市場に出回る期間が限られた商材が多数存在し、シーズンを一度逃してしまうと次の年まで取引の機会を作ることができません。焦ってはいませんでしたが、つながりを絶やさぬためにもゆっくりしている暇はないと思い、廃業が決まったタイミングから動き始めていました」