コミュニケーションコマースに強みを持つ空色が語る 変化する顧客の接点と行動
2013年に設立された空色は、代表取締役の中嶋氏が西日本電信電話株式会社でコミュニケーション領域の事業開発を約5年経験した後、チャットを通じた新たなコミュニケーション事業に取り組むために立ち上げた企業だ。購買に注力したオンライン接客事業を黎明期より展開している。
同社は、2015年にチャットコマースアプリである「PRIMODE」をリリース。スタイリストとユーザーをマッチングし、チャットを通じて接客を行うサービスであったが、中嶋氏は「当初はなかなか購買につなげることができなかった」と振り返る。
「この経験から、リアル接客とオンライン接客でコミュニケーションの取りかたに明確な違いがあることを認識しました」(中嶋氏)
PRIMODEで得た経験を基に、同社はデジタルコミュニケーションから購買につなげるために必要な機能やノウハウを体系化し、2016年に「WhatYa」というサービスをリリースした。同サービスは、AIチャットボットとオペレーター(人)を組み合わせたハイブリッドチャットツールとなっており、空色はプロダクト提供に加えて、チャットボットのチューニングやオペレーション設計、会話ログデータ解析によるコンサルティングも提供。OMO推進とLTV(顧客生涯価値)向上の支援を行い、現在アパレルなど小売業を中心に、DXを推進する金融機関や鉄道会社などへ導入が進んでいる。
「新型コロナウイルス感染症の流行により、数年後に来ると予想されていたDXの未来が半年、もしくは1年以内と非常に速いペースで押し寄せています。私たちはこれに対応していかなくてはなりません」(中嶋氏)
続いて中嶋氏は、コロナ禍で劇的に変化した顧客接点と顧客行動について、データを交えながら解説を行った。
2020年3月以降、EC利用率および支出額は大幅に伸長し、2019年以前よりも高水準を記録し続けている。年代間によってギャップはあるものの、10代~60代までのすべての年齢層でEC利用率は増加。コロナ禍を機に消費者のEC利用は定着化しつつあると言える。
一方で、実店舗の客数は2020年以降大きく減少しており、もっとも数値が回復した2020年10月でも、前年比2割減となっているのが実情だ。
このようにコロナ禍で消費者行動の変化が加速し、行動起点がオフラインからオンラインへと移る中、多くの企業がOMOへと注力せざるを得ない状況になっている。ここで重要になるのは、「オンラインで顧客接点を作りながらオフラインへの行動を促していく、トータルでの体験設計である」と中嶋氏は強調する。
「顧客接点のすべてをオンライン、もしくはオフラインのみで賄えるわけではありません。体験ごとに切り分けながらも、トータルで体験設計をしていく必要があります。オンラインが体験提供できる領域は年々広がっていますし、顧客の行動や習慣もオフラインからオンラインへとシフトしている時代です。この動きを踏まえ、今後はデジタル活用の領域をしっかりと拡大していく必要があります」(中嶋氏)
オンライン接客に取り組む前に踏まえるべきポイントは?
中嶋氏は、次にオンライン接客が広がる背景と踏まえるべきポイントについて解説を行った。大きく次の3つに分けることができると言う。
1. 自社ECならではの優位性を考える
多くの企業がECに注力する中、もちろん新規出店も急増しているのが実情だ。大手ECサイトやモールなど、強力なプレイヤーと差別化を図るには、自社ならではの優位性が必要となる。
そこで中嶋氏が勧めるのは、実店舗を活かしたOMOの推進だ。顧客情報をオンラインとオフラインで統合して管理することは、オンライン接客を導入する上でも非常に重要な要素となる。しかし、顧客の把握は今や多くの企業・ブランドが進めている状況だ。差別化を進めるには、オリジナルの体験価値提供が必要となる。中嶋氏は、「なんとなく欲しいと思っているものを、しっかり欲しいと思える体験設計が求められる」と指摘する。
大手ECサイトやモールでは、商品の認知から購入するまでの過程を最短距離で設計し、顧客が欲しい商品をスピーディーに手に入れるための最適化を行っている。
「こうしたECサイトと異なる価値を提供するには、『商品を知る』ところから、商品の存在を『気になる』と感じ、『欲しい』と思って『購入する』までの顧客の心理と行動を分析する必要があります。中でも、商品を知るところから欲しいという気持ちに至るまでの過程の強化が重要です」(中嶋氏)
商品に対する興味を喚起する過程は、本来実店舗が得意とする領域であり、大手ECサイトやモールではまだ提供できていない価値だ。オンライン接客のソリューションは、これらをECで提供すべく広がりつつあると言える。
2. 実店舗企業の強みである接客をECに展開する
ECと実店舗の効果測定を行うと、購入率・リピート率・顧客単価のいずれも実店舗に優位性がある。その理由は実店舗の接客力にあり、オンライン接客でも同等のサービスを提供することが売上拡大の近道と言えよう。
中嶋氏は、接客を通じて購買意欲を喚起し、購入に至るプロセスを楽しむことができる顧客体験を「店舗型CX」と呼び、利便性・効率性・コストパフォーマンスを追求する「EC型CX」と区別する。EC型CXでは、より良い条件のECサイトが出現すればすぐに乗り換えられてしまうが、店舗型CXではファンと呼ばれる顧客を増やすことでLTVや購買単価の向上にもプラスの効果をもたらす。
「店舗型CXを追求し、コミュニケーションを通じて顧客にファンになってもらう。ファンが離れないような体験を実店舗とEC双方で提供する。それが当社からの提案です」(中嶋氏)
中嶋氏は、チャット接客によって購買行動が起きる理由を、より具体的に解説する。たとえば、「黒いジャケットがほしい」と漠然と考える顧客がいた場合、多くの選択肢を与えても、欲しい商品を決めることができず離脱してしまったり、安価なもの、高割引率の商品を手に取ったりと、顧客にとって最適な商品へ導くことは難しい。ここでチャット接客が真価を発揮する。
「チャット接客を導入していれば、ヒアリングをしながら漠然とした顧客のニーズを顕在化することが可能です。これがECサイト上に接客サービスを導入する利点となります」(中嶋氏)
3. 複数のタッチポイントを統合して管理する
顧客とのタッチポイントが増加する現代においては、各チャネルを統合的に管理し、オンラインコミュニケーションにつなげることが重要だ。WhatYaにおいては、すべてのタッチポイントの一次対応をAIチャットボットが担い、会話の内容に応じて実店舗スタッフやカスタマーサポートなどの担当チームへと割り振っている。
「チャットボットと人が担う価値をそれぞれ切り分けながら体験設計を行うことで、コールセンターの負荷軽減や生産性向上につながります。タッチポイントの統合が困難な場合でも、まずは体験の全体設計を行い、ステップバイステップで広げていただければと思います。こうしたバリューを高める体験構築も、当社では支援しています」(中嶋氏)
実例から学ぶ 実店舗スタッフのオンライン移行をスムーズにする方法
ここで、空色が支援する企業・ブランドの事例紹介が行われた。1社目は、「洋服の青山」を展開する青山商事だ。同社は実店舗の体験をECサイトへ拡大すべく、WhatYaの導入を決めたと言う。空色が既存顧客のデジタル移行に向けた支援や、実店舗スタッフがオンライン接客に対応するためのノウハウ提供、運営マネジメント支援などを実施することで、サービス開始初月からECの平均購入単価を大きく上回る成果を獲得。現在は、この成功体験をさらに広げるべく取り組みが進んでいる。
ジュエリーブランド「4℃」を展開するエフ・ディ・シィ・プロダクツも、WhatYaを活用しデジタルシフトを進めている。提案型チャットボットと実店舗スタッフによるチャット接客を組み合わせ、顧客の商品検索やギフト選びをサポート。これにより、2020年11月~12月の商戦期における売上獲得と、ECから実店舗への送客を実現している。
なお、2020年12月からはZOZOTOWNにおける実証実験もスタート。出店ブランドの特定ページに実店舗スタッフと顧客がチャットを使って直接対話できる仕組みを構築し、新規顧客やリピーターの獲得とともに、実店舗スタッフの業務領域の拡大にも取り組んでいる。中嶋氏は、「当社はツールの提供だけでなく、接客体験の設計や改善ポイントの提案も行っています」と語った。
オンライン接客で広がる可能性 導入・運用時の注意点を学ぼう
最後に中嶋氏は「失敗しないオンライン接客の始めかた」について、導入・運用時のポイントと空色のサポート内容を6つにまとめて解説した。
1. KPI設計
導入にあたり重要なKPI設計。空色では、企業・ブランドごとに最適なKPIのフレームワーク、カスタマイズを提供している。観測・評価結果は月次で報告するとともに、アクションプランの提案・実施も担うことで、継続的なサポートを行う。
2. AIチャットボットの構築
AIチャットボットの運用にあたっては、AIにどのような会話を学習させるか、どのように改善していくかが鍵を握る。空色は、これまでさまざまな業界・企業との取り組みの中で蓄積してきた接客ログデータを提供し、チャットボットを新規導入する際のハードルを軽減している。すでに導入している場合も、顧客情報・商品情報・在庫情報の3つをAPI連携することでサービス提供範囲を拡大できるため、さらなるOMOの進化とLTV向上を目指すことが可能だ。
3. チャットセンターの構築・運用
オンライン接客未経験のスタッフに向けた教育も、顧客体験向上には欠かせない。空色では、チャットセンター構築・運用のためのフレームワークを用意し、企業ごとの要件定義から導入、その後の運用に至るまでトータルでサポートしている。
4. ログデータの活用
チャットボット導入のメリットとして、貴重な顧客の生の声をログデータとして蓄積できる点が挙げられる。ログデータはオンライン接客の改善に限らず、商品・サービスの新規開発や改善など幅広く活用が可能だ。空色では解析結果をレポートにまとめ、導入企業に提供している。
ログデータ活用事例として、中嶋氏はアパレルブランド「ナノ・ユニバース」の事例を紹介した。チャット接客を利用した顧客から寄せられた質問内容を踏まえ、自社ECサイトの商品詳細ページに、より詳細な、たとえば生地の透け感などが伝わる画像を追加。商品情報を充実させることで返品や問い合わせ数の削減に成功し、購入率アップにもつながっていると言う。このほかにも、「SEO対策などログデータ活用による成功事例は多岐にわたる」と中嶋氏は続ける。
5. コミュニケーションジャーニーの設計
顧客のエンゲージメントを高める上で、重要になるコミュニケーションジャーニーの設計。空色は経験と知見を活かし、チャネルごとの特徴をとらえた上で業界や企業に合わせたサポートを実施している。
6. LTV向上のための改善KPI設定
ここで中嶋氏は、空色が支援する企業の実績を基に、LTV向上に向けた改善KPIを提示した。同社のデータによると、チャット利用者の購買単価および購入率は最大30%向上。そのうちの約4割が実店舗へ来店して購入に至っており、OMOの成果が数字にも表れている。また、利用者のうち最大30%がリピート利用につながっており、オンライン接客がLTV向上に貢献していることもうかがえる。中嶋氏は、「ログデータの解析で得た貴重なインサイトを活用することで、さらに成果を上げ続けることができる」と語る。
オンライン接客を通したLTV向上に向けて、さまざまな側面からサポートを行う空色。中嶋氏は「当社は長期的な関係構築を目指すべく、ツール面・運用面で特徴あるサービスを提供していますので、興味をお持ちの方はぜひお気軽にご相談ください」と述べ、セッションを締めくくった。