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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

ECホットトピックス

イトーヨーカドーネットスーパーアプリを9ヵ月で立ち上げ 10Xが技術力で小売業界にもたらす変革とは

 約13兆円の市場規模がありながらも、EC化が進まずにいたスーパーマーケット業界。同業界に変革をもたらしたのは、社員わずか13名のベンチャー企業10Xである。ネットスーパーアプリを垂直立ち上げできるプロダクト「Stailer」の概要と、同プロダクトを用いて6月15日より本格運用を開始したイトーヨーカ堂の「イトーヨーカドーネットスーパーアプリ」開発秘話を代表取締役CEOである矢本真丈さんに聞いた。

ネットスーパーの立ち上げを容易にし市場拡大に貢献

――ネットスーパーを垂直立ち上げできる「Stailer」について、概要と開発に至った経緯を教えてください。

矢本(10X) Stailerは、ネットスーパーを事業化するために必要なデータベースやAPI、UXの高いアプリ、データ分析ツールなどを統合して提供するプロダクトです。「開発不要でネットスーパーが立ち上げられる」というところをキーにしています。

 当社は、従来より「タベリー」というtoC向けの献立アプリを開発しています。同アプリには、提案した献立に必要な食材をネットスーパーで頼むことができる「オンライン注文機能」を搭載しているのですが、Stailerは同機能を発展させる形でスタートした経緯があります。オンライン注文機能の着手から考えると、2018年9月頃から開発がスタートし、Stailerとして動き出したのは2019年10月頃になりますね。

――なぜネットスーパーという領域に着目したのでしょうか。

矢本 10Xは、社名に「10倍」という意味を込めており、これから10倍に、非連続な成長ができることにチャレンジしようという企業です。僕らができることと企業として目指していること、そして市場の現状と課題点が上手くマッチしたのがネットスーパーという領域でした。

 日本の消費財の中でも、たとえばアパレルはおよそ13%がすでにデジタル上での購買に移行しています。他方で、食品市場は64兆円もの市場規模があるにも関わらず、まだ数%しかデジタルに移行していない状況です。食品を売る最大のチャネルであるスーパーマーケットに至っては、13兆円ほどの市場規模に対しネットスーパーの流通額はわずか1%ほど。10年後、20年後を見据えた際に、大きなポテンシャルがある市場であることは確実ですし、世の中に絶対必要なサービスであると考え、この領域に着目しました。

 僕らは、タベリーを開発していた際に、スーパーマーケットのデジタル化が進まない理由を肌で感じることができました。小売事業者の方々と直にやりとりし、彼らの持つシステムの問題点や、ガバナンスの構造を知り、現在の小売業界はアジリティ(機敏性)がない状態であると感じました。時代の不確実性に機敏に対応し、「顧客に対して価値を提供できる環境」を作っていく必要があると実感したのです。それを実現するために、Stailerというプロダクトを作り、外部からサービス提供することを決めました。

――どこか1社のネットスーパーの開発を受託するという形でなく、汎用性のあるプロダクトとして提供すると決めた理由を教えてください。

矢本 それは主にふたつの理由があります。ひとつめは、僕らが自身のプロダクトとしてStailerを作り上げていくほうが、より早くより良いものができると考えているため。ふたつめは小売事業者の既存システムの複雑さゆえに、僕らがシステムを請け負う側として中に入り開発をするよりも、外部から最適解を作って提示するほうが小売事業者側にとっても都合が良いだろうということです。

 小売事業者の既存システムは店舗中心に設計されており、デジタルの事業を行うにあたりベストな設計にはなっていません。全体像は複雑で、さまざまなベンダーが入り開発を行っています。システムの全容をきちんと把握している人が、ベンダーや小売事業者の中にいることは稀です。システムをひとつ改修するにも、関係者全員に確認を取り、問題点がないか検証を行う必要があり、多くの時間を要します。この延長線上でネットスーパーを運用するのは、顧客に素早く価値提供を行う上で適切でないことは、小売事業者の多くの方が自覚していました。

 また、基本的にtoC向けのシステムは、開発したものを納品するだけでは価値は出ず、顧客の反応を見て改善し成長させることで価値が向上するものです。従来の小売事業者とSIerのような納品型のスタイルだと、納品時点で利益を確定できるSIerには、顧客価値を高めることにコミットする必然性が生まれません。これと同様のモデルでは、市場を10倍にすることには貢献できないと考えていました。そのため、当社はStailerというプロダクトを外部から提供し、月々の運用費とStailer上で生まれた売上の一部をいただくレベニューシェア型のビジネスモデルでサービス提供をすると決めました。こうすることで、当社は「開発コストとリスク」を負うことになりますが、プロダクトをより良くすることに対し強いインセンティブが生まれ、パートナーとしてフルコミットできます。

 実は、僕ら自身がネットスーパーを1から立ち上げようと試みた時期もありました。しかし、規模が小さく歴史が浅い企業は信頼がなく、卸業者との契約を結ぶこともままならなかったり、倉庫を借りるにしても初期コストが実現不可能なレベルであったりと、長年の歴史を持つ小売事業者と同様のアセットを構築する難しさを身をもって体感しました。

 その点、小売事業者は認知度や信頼に加え、数多くの店舗に商品を届けるための物流網をすでに築き上げています。しかし、そうした価値をデジタルにどう置き換えたら良いかはわからない。一方で、僕らはプロダクトをゼロから設計し作ること、作ったプロダクトをファクトベースで利便性の高いものに改善していくこと、そしてその改善を素早く実行できる組織を構築することが得意です。互いの足りない部分を補い合える関係性であると理解し合えたからこそ、Stailerが生まれ、イトーヨーカ堂様とも提携することができたのではないかと考えています。

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この記事の著者

ECzine編集部 木原 静香(キハラシズカ)

立教大学現代心理学部映像身体学科卒業後、広告制作会社、不動産情報サイトのコンテンツ編集、人材企業のオウンドメディア編集を経験し、2019年に翔泳社に入社。コマースビジネスに携わる方向けのウェブメディア「ECzine」の編集・企画・運営に携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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