還元祭りの後の定着がキモ 生き残りのカギは付加価値
いよいよ始まった、消費税増税とキャッシュレス還元。キャッシュレス還元の施策として、高野さんがまず挙げたのがJR東日本のICカード「Suica」だ。もともとSuicaへのオートチャージも可能な「JRE CARD」というクレジットカードがあり、定期の購入や加盟店での利用でJREポイントが優遇されていた。それが、政府のキャッシュレス・消費者還元期間となる2020年6月までのキャンペーンとして、JRE CARD優待店等でクレジットカ ード決済すると5.5%ポイント還元、そして対象店舗で、事前にウェブ登録したSuicaカード、モバイルSuicaで決済すると2%還元を行っている。ユーザーが多いこともありマスメディアでも取り上げられた。
これまでキャッシュレスといえば、デジタルファースト企業による二次元コード決済が話題の中心になっていたが、Suicaでも還元が実施されるというニュースは大きな注目を集めたと言えよう。
キャッシュレス還元施策には、政府も名乗りを上げている。「マイナンバーカードを活用した消費活性化策」だ。民間のキャッシュレス決済手段とマイナンバーベースで取得したIDを紐付け、一定額をチャージした人に対して「マイナポイント」と呼ばれるポイントを付与し、最大25%も還元するという取り組みである。これには高野さんも「どのような形でサービス展開されるのかまだイメージがつかない」という感想だ。
そもそもEC業界においては、楽天スーパーポイントやTポイントなどが購入やリピートのフックになっているのは周知のこと。事業者でも各々ポイントを付与していたが、ポイント訴求の施策が目立つようになるにつけ、統一を求める声も上がっていた。
しかしながら総務省の発表によれば、マイナンバーカ ードの普及率は2019年年7月1日現在で13.5%程度。政府が目標として掲げていた2019年3月末時点で68%という数字には遠く及ばない。マイナンバーカードの利便性を上げたいという政府の思惑もあるのでは、と高野さんは推測する。
「コード決済の利用者数はそれほど多くないので、これから伸びていく可能性は十分にあり、キャッシュレスは一定割合では普及すると思います。東京オリンピックに向けて、キャンペーンはさらに加熱するでしょう。2020年は、キャッシュレス化は進む年になるはずです」
ただし、問題は2021年以降だ。政府のキャッシュレス・消費者還元期間は2020年6月までであり、PayPayをはじめコード決済提供事業者が行うキャンペーンは、あくまで各社のマーケティング費用でまかなわれているもの。ポイント還元やキャッシュバックは、永遠には続かないだろうと予測される。キャッシュレスサービス導入を促進するため一定期間は免除されている決済手数料も、いずれは毎回発生する負担になるだろう。中小零細小売事業者の視点では、現金決済に比べてキャッシュフローが遅くなるなどのデメリットもある。ある種のお祭りとも言える推進期間の後に、どう定着させるかは政府や決済サービス提供者の課題だろう。
「しばらくの間は、コード決済のほうが現金よりもお得だから、という理由で使う消費者が多いはずです。現金を持ち歩かなくて済む、小銭がいらないといった利便性だけで言えば、クレジットカードや交通系ICカードも同様のはず。コード決済はインターネットにつながっているからこそ、たとえば信用スコアに利用できたり、別のサービスが便利に利用できるなどの付加価値がつけられる。そこをどれだけ工夫できるかで、その後の利用頻度などに差が出てくるでしょう」
日本では今年6月にLINEが独自のスコアリングサービス「LINE Score」を発表。
「中国では信用スコアが国民の生活に本当に影響していると感じます。その理由は、Alipayが生活のインフラになっているからです。ECやフードデリバリーだけでなく、医者にかかるといったことまでAlipayで済むようにな っているので、スコアリングの精度も上がるし、そこから導き出される行動の是非も正しくなって、影響力が大きくなるわけです。LINE Scoreがそのレベルまで到達できるかは未知数です」
大型キャンペーンを連発するPayPayの存在は大きく、 LINE Payの日本における影響力は、Alipayと同等とまではいかないところだろう。EC・小売事業者にとっては、導入を検討するサービスが複数あるという状況が続きそうだ。