位置情報を活用してユーザーのリアルな行動を捕捉する
シナラシステムズ(以下シナラ)では、通信キャリアの持つ膨大なデータを独自技術により匿名化して利用可能とし、高精度な位置情報を活用したデータ分析や広告配信サービスを提供している。
「従来は見えなかったユーザーのリアルな行動を捕捉できるのが、位置情報の大きな強みです」と強調する。
通常のウェブマーケティングで使われるウェブ行動データ(ウェブ上の行動をトラッキングしたデータ)には、たまたま見た興味のないサイトなども含まれてしまう。また、当然ながらオフラインのユーザーの動きはウェブ行動データではわからない。これに対して、ユーザーが物理的に移動した結果として得られた位置情報は、強い興味・関心や社会的な関わりを示すことが多く、習慣的行動や無意識的な行動も捉えることができる。
シナラでは、こうした位置情報やデモグラフィック情報に検出頻度や時間帯などを組み合わせて、1,000以上のユニークなセグメントを作成しているという。たとえば、全国のオフィス街で平日22時以降、週に2回以上検知されているユーザーを「残業続きのビジネスパーソン」として定義。居住エリアが千葉、埼玉、神奈川で、検知エリアが東京都心部の「都道府県またぎの長時間通勤者」というセグメントもある。
WiFiで位置情報取得 来店計測の精度を高める独自の仕組みも
ユーザーの位置情報は、全国数十万箇所の店舗や施設に設置された通信キャリアのWiFiアクセスポイントで端末を検知した際に取得している。測位はWiFiアクセスポイントのデータを利用するので、端末側でGPSや特定のアプリを起動する必要もなく、WiFiさえオンの状態なら(スリープモードが解除されている前提で)検知可能だ。
また、ユーザーの「来店」という行動を計測するために、計測精度を高めるシナラ独自のロジックを取り入れているという。
「電波強度、検知回数、検知時間帯の3つをフィルターとして用いることで、通行人や隣接する店舗への来店者などを除外しています」
電波強度
一定レベル以上の電波強度のユーザーのみ来店者とみなす。
検知回数(滞在時間)
最初に検知されてから5分経過後(業態により異なる)に、もう1回検知されたユーザーのみ来店者とみなす。
検知時間帯
営業時間内に検知されたユーザーのみ来店者とみなす。
カスタマージャーニーの実態~ジム用ウェアを購入するまで
続いて、実店舗とECサイトの両方にまたがる「カスタマージャーニーの実態」をテーマに掲げて解説。まず、実態とは異なる例として、販売者側で想定しがちなパターンを2つ挙げた。
1つは、広告接触→サイト訪問→来店といった流れで、サイトから店舗に誘導するケース。シナラシステムズによれば、これは「昔のO2O発想」であり、今日ここまでストレートなジャーニーを描くユーザーは非常に少ないという。
もう1つは、ECサイトと実店舗それぞれ別ルートながら、広告接触→サイト訪問(または店舗訪問)→購入と、どちらも同じように直線的な誘導しか想定できていないケースで、「いまだに多くの企業に見られる縦割りマーケティングの姿」と評した。
「実際のカスタマージャーニーは、そう単純ではありません。皆さんも普段の自分の購買行動について考えてみてください」
そう呼びかけて登壇者は、自身がアディダスのジム用ウェアを購入した際の行動を次のように振り返った。
- 六本木ヒルズのアディダスショップへ行った。その1週間ほど前に、アディダスのモバイル広告を見た気がする。
- 気に入った商品はあったが、その日は飲みに行く予定があり荷物がかさばるのが嫌だったので、買わずに店を出た。
- やはり気になっていたので、後日スマートフォンでアディダスのサイトを閲覧。スマホの小さい画面では、店で見たときに欲しいと思ったパンツがどれなのかよくわからなかったので購入に至らず。
- 結局、その2日後にまたアディダスショップまで行って商品を購入。
- トップス1点とパンツ3点、シューズ1点で総額5万円ほどの買い物。意外とたくさん買ってしまった。
「あらためて思い返すと、なかなか面倒なカスタマージャーニーです。とはいえ、このように複雑なジャーニーを経たうえでユーザーがようやく購入に至っているケースも、実際に多いのではないでしょうか」
ECサイト向けの広告であっても、広告接触がもたらす行動がサイト訪問とは限らない。実店舗に行く場合もあるだろう。そして、ECサイトと実店舗のいずれかを訪問したあとに、サイトから店舗、あるいは店舗からサイトへと向かうことも多い。これが、現実のカスタマージャーニーだ。
シナラの計測技術で複雑なカスタマージャーニーを見える化する
登壇者は、アディダスショップでの購入時、アプリやバーコードを提示していないし、ポイントカードも作っていなかった。つまり、アディダス(企業)側で管理している購買履歴がなく、行動を計測しづらいユーザーだ。
仮にEC部門から計測可能な範囲で行動を見たとすると、最初のIMPスルーと、その14日後(7日後の来店は計測できない)のサイト訪問はわかるが、そのあとは「何も購入せずに離脱」ということになってしまう。
一方、リテール部門から見ると、購入日や費目、金額もわかる。しかし、何がきっかけで来店して購入しているのかわからない。
これを、ウェブ行動データと位置情報に基づくリアル行動データを組み合わせたシナラの技術を使って計測すれば、IMPスルーから7日後の来店、さらに7日後のサイト訪問、その2日後の来店まですべて捕捉できる。ECサイトと実店舗それぞれのチャネルを横断したカスタマージャーニー全体を見える化できるのだ。
「正確にいうと、位置情報ベースなので『購入』まではわかりません。測定できるのは、あくまで店舗に入ったことまでです。一方で、購入まで至っていない層も含めた人たちの行動履歴がわかるのは大きな強みといえます」
見える化で得られた結果をふまえて打つべき手とは?
カスタマージャーニーを見える化するメリットは、その結果に基づいて適切なアクションや改善が可能になることだ。その一例として「モバイル広告の総合的な評価」を挙げた。
「モバイル広告の評価指標は多くの場合、オンラインの獲得人数です。オフライン(実店舗)の獲得人数も合わせて見える化することによって、オンラインのコンバージョンであまりパフォーマンスがよくないと評価していた媒体が、実は店舗送客に大きく寄与していたことがわかるケースもあります。オンラインだけの評価でムダ打ち(に見える広告)を削減すると、来店者数を大きく減らしてしまうことになりかねません」
オンライン/オフライン誘導の最適化にも役立つ。たとえば、商品ごとに来店前後のサイト訪問比率を分析した結果を活かして、閲覧されるタイミングによってコンテンツ(商品ページ)の役割を検証し、改善を図っていくことができる。
「来店後のサイト訪問が多い商品なら、購入の後押しにより重きを置いてカートのボタンを大きくしたり、来店前のサイト訪問が多い商品なら、店舗誘導(来店促進)を重視して店舗検索や店舗ごとの在庫確認ボタンを目立つように配置したりするなど、さまざまな工夫の余地があるはずです」
最後に「見える化自体が目的になってしまわないように」と注意を促し、セッションを締めくくった。
「カスタマージャーニーの見える化は確かに面白いのですが、決してそれ自体が目的ではありません。『何のための見える化なのか』を意識して、得られた結果を先に述べたようなさまざまな対策に活かしていくことが重要です」