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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

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「検索同様、決済も世代で変わるかもしれない」PayPal新カントリーマネージャーに訊く「新しい決済」

 オンライン決済サービス「PayPal」の日本におけるカントリーマネージャーに、曽根崇さんが就任。日本人としては初である。2015年7月にはeBayから分社化、FinTechやインバウンド観光・越境ECも追い風になり、その動向に注目が集まっている。日本市場における今後の取り組み、ビジネス戦略について話を聞いた。

2ケタ成長のPayPal、日本の新カントリーマネージャーが就任

 2016年12月6日、オンライン決済サービス「PayPal」の日本におけるカントリーマネージャーとなった曽根崇さんが、就任会見を行った。

 EC市場の成長、インバウンド観光客の増加、越境ECブームなどが追い風になっているのに加え、昨今はFinTechの老舗企業としても注目を集めている。そんな同社では、グローバルでのミッションとして「カスタマーチャンピオン」を掲げている。「常にお客様を中心に据え、お客様に満足いただけるサービスをリリースしていきます」(曽根さん、以下同)。

PayPal Pte. Ltd. カントリーマネージャー 曽根崇さん

 曽根さんは改めて、PayPalの仕組みを解説した。消費者と販売者がそれぞれPayPalにアカウントを開設。販売者がECサイト等にPayPalボタンを設置し、消費者はそのボタンからPayPalにログインして決済を行うというシンプルなものだ。

 消費者から見れば、PayPalアカウントにすでにクレジットカードを登録してあるので、買い物をするたびに、カード番号や有効期限を入力する手間が省ける。販売者としては、顧客のクレジットカード番号を保有する必要がなく、PayPalの不正検知によってリスクが軽減できるほか、消費者の手間が省けていることでカゴ落ち対策にもつながる。

 「Eコマースにおけるグローバルスタンダードであると自負しています」と曽根さんが言うとおり、世界200以上の国を含む地域、26の通貨(日本では22種類)に対応。アカウントを持てば、消費者は海外のさまざまなサイトでショッピングができ、販売者はグローバル市場でビジネスが行えるわけだ。

 2015年7月にはeBayから分社化。その動向が注目されたが、グローバルでは業績は順調に推移。直近の第3四半期(2016年7月1日~9月30日)は、取扱高・アクティブアカウント・決済件数ともに、2015年の同期と比較して2ケタ成長となっている。

  2015年第3四半期 2016年第3四半期 成長率
取扱高 697億4,000万USドル 870億USドル +25%
アクティブアカウント 1億7,300万 1億9,200万 +11%
決済件数 12億2,000万件 15億件 +24%

 日本国内でも、採用する販売者数が2ケタ成長で推移。その要因として、3つの大きなトレンドがある、と曽根さん。「中小スタートアップの増加、モバイルシフト、インバウンド観光客の増加です」。それぞれ詳しく見ていこう。

PayPal、日本国内でも好調な3つの理由

中小スタートアップの増加

 昨今増加するスタートアップ企業は、グローバル展開を視野に入れ、決済手段に当初からPayPalを採用することも多い。2016年に限っても、スキルシェアサービス「ANYTIMES」、プロに縫製を依頼できる「nutte(ヌッテ)」、キャッシュバックアプリ「CASHb」、イベント管理・チケット販売「Peatix (ピーティックス)」などがPayPalを採用した。

 そもそもPayPalは、中小事業者支援をミッションのひとつに事業を展開している。情報に敏感で、自ら探してPayPalにたどり着ける事業者以外にもその有用性を伝えるべく、啓蒙活動にも取り組んでいる。2016年5月には、ジャパンEコマースコンサルタント協会「JECCICA(ジェシカ)」と『中小EC企業向け2016年EC戦略白書』を発表。2万人の消費者と1,000社超の中小EC事業者を対象にした調査で、スマホでのEC利用が進む昨今、カゴ落ち対策のひとつとしてモバイルID決済の有効性を導き、白書としてまとめた。

 中小規模のEC事業者が採用しやすいよう、支援事業者ともパートナーシップを契約。ASPカート「カラーミーショップ」、構築パッケージ「ec-being」、物流代行「オープンロジ」などがある。

 「中小事業者を対象とした啓蒙活動やパートナーシップ締結は、今後も積極的に取り組んでいきます」

モバイルシフト

 増加の一途をたどるモバイルでのEC利用に対応すべく、2016年、PayPalではUXの改善に注力した。消費者・販売者どちらにとっても、サインインから決済完了までの時間が短縮されるよう、ボタン配置などを変更、ユーザーのデバイスにあわせて自動的に最適化されるようにした。

 「こうした改善が、コンバージョンレートの向上にもつながっています」

UXを改善したデバイスごとの画面

インバウンド観光客の増加

 海外ユーザーにとって、PayPalは決済のスタンダード。観光客の受け入れは、予約サイトの決済を整えるところから始まっている。PayPalは、ブッキングエンジンのパートナーを昨年の2社から8社に拡大した。また、2016年6月に日本旅館協会と提携。以降、100社以上の申し込みがあったと言う。

 「自社サイトで予約ができる施設様の、PayPal採用が加速。日本を代表するような老舗旅館様にもご利用いただいています」

今後は「チャネルの増加」と「利用率の向上」

 今後の成長戦略として、「オンラインからオムニチャネル、オフラインとチャネルを広げていくこと。そして、ひとつのアカウントにおいて利用率を上げていくことの2軸で考えています」と曽根さん。

 たとえば「ワンタッチ」機能がある。一度PayPalにサインインし、「ログイン状態を保持する」を選択のうえサイトAで決済すると、同一デバイスであれば、サイトBで決済する場合も、改めてサインインせずに行えるようになるというものだ。

 ほかにも、アメリカで発表があったように、Facebook Messenger上でショッピングが行えるようになった裏側では、決済システムとしてPayPalが稼働している。「グローバルではすでに展開済みでも、日本ではまだというサービスもあります。適切なタイミングを見て、順次、日本でも展開していきます」

 記者会見の後、編集部では曽根さんの単独インタビューを行った。次ページから、さらに掘り下げた内容をお届けしよう。

変化するEC、ビジネス。FinTechの老舗・PayPalも変わる

――曽根さんがPayPalに入社した2013年から3年間、日本のECの変化をどのように見ていますか?

3つあると考えています。ひとつは「新しいビジネスモデルが増えてきた」こと。ふたつめが、そうしたビジネスの影響を受け、「大手企業も新しい付加価値を提供し始めている」こと。最後に、あらゆる企業が「自分のフィールドを超えて新しいことに挑戦し始めている」ことです。

まず、「新しいビジネスモデルが増えてきた」についてですが、メルカリさんを代表するCtoCのマーケットや、物販のECではないですがクラウドソーシングのような、従来と違う形で人と人をつなぐビジネスモデルがここ数年で急成長しているなと感じています。ECにフォーカスすると、BASEさんやSTORES.jpのような、誰でも簡単にEコマースを始められるビジネスが急成長していて、「国民総EC販売者」が可能になるような環境になってきています。

次の「大手企業も新しい付加価値を提供し始めている」「自分のフィールドを超えて新しいことに挑戦し始めている」については、2013年のYahoo!ショッピングの無料化に始まり、楽天さんもフリマアプリ「ラクマ」や、新しいポイントアップキャンペーンを始めたりしていますよね。Amazonさんも、ID決済の「Amazonログイン&ペイメント」を始めるなど、自社のこれまでのビジネスの範疇を超えたところで、新しいビジネスを展開されていますよね。

こうした変化を促進する基盤として「モバイル」があると考えていますが、消費者側の利用形態の変化に下支えされながら、大手企業も変化して、新しい付加価値を提供し始めているのでしょう。

――Amazonログイン&ペイメントについては、ID決済という点でPayPalと競合するのではと思うのですが、どのようにお考えでしょうか。

ID決済自体がまだそれほど浸透していないので、競合ではなく一緒に盛り上げていければという考えです。どちらも採用されている事業者さんにお話を聞いても、「どちらかを導入したら済むわけではなく、両方あれば、どちらもそれぞれコンバージョンに貢献する」とおっしゃいます。違いとしてPayPalの場合は、販売者として得たお金を消費者として利用する際に、銀行口座に移したりせず、PayPalのアカウントに留めたまま行うことができます。これができるか否かは、法令的に適応されている業種の違いです。

Amazonログイン&ペイメントは、Amazonさんが自社のサイトで抱えているコンシューマーの基盤があるため、導入すると短期的な売上アップにつながるでしょう。PayPalは決済だけをやってきた老舗企業ですから、長期的な視点でお役に立てると思います。

――海外のユーザーには、どのように利用されているのでしょうか。

インバウンド観光客の決済には、旅前・旅中・旅後と3つのステージがあり、それぞれPayPalの活用シーンが異なります。旅前なら、宿泊施設の予約や移動機関の事前決済。旅中では、「座禅」や「日本料理を作ってみよう」といった、アクティビティの購入にご利用いただいています。旅後では、帰国後の越境ECがありますよね。

PayPalを壊すかも?新たなサービスを買収し、発展を続ける

――今後の成長戦略として、オムニチャネル、オフラインのほうへチャネルを増やしていく、という展望も出ていました。

そうですね。2020年には東京オリンピックも開催され、インバウンド観光客のさらなる増加が想定されます。消費者の利便性を考慮すると、日本の事業者側が抱える解決のために、PayPalができることはまだあると思います。オムニチャネル、オフラインのマーケットが賑やかになってきているのは肌で感じているので、PayPalが提供できる付加価値があると確信できるタイミングがきたら、そういったことも考えていきたいと思っています。

――海外ではすでに展開済み、日本ではまだ……というサービスについて、おもしろいものがあればご紹介ください。

いくつかあるのですが、3つ紹介します。まず「Braintree(ブレインツリー)」。「Stripe(ストライプ)」さんのような、簡単なAPIでつなげ、デバイスごと最適なUXでセキュアに決済できる、決済代行プロダクトです。

次に「Venmo(ベンモ)」。P2Pの送受金のプラットフォームで、わかりやすく日本のサービスに例えると「LINE Pay」のようなものです。PayPalでも、個人間送金サービスを提供していますが、Venmoはより若年層にフォーカスし、SNSやMessenger的な視点を加えています。「Xoom(ズーム)」は国際間送金サービスです。たとえば、アメリカからメキシコに送金する際に、従来よりも早く、簡易に送金ができます。

PayPalはそもそも、代引き、銀行振込、コンビニ支払いなどと並列する、決済手段のひとつです。消費者の方はいずれか都合の良いものを選択しますから、すべての決済をPayPalで占めることはできません。ほかの決済オプションも、PayPalを通じて取引を行っていけるようにしたいというのが、これらのサービスを傘下におさめた理由です。

――将来、今の若者が高額な買い物をするようになったときに、私たちが知っている決済手段がピンとこないということもあるんでしょうね。

だんだん、そういうふうになっていくかもしれないですね。私たちの世代は、何か調べようと思ったらGoogleで検索しますが、日本の若者はTwitterやInstagramで検索すると言われていますよね。「Venmo」の場合も、アメリカの若者の間では「Venmoする」というと、送金することを意味するように、ある行動を表す単語にもなってきているほどです。行動が、ジェネレーションによって変わってきている。決済のマーケットも、違うニーズや手段で、今後発展していく可能性が十分にあると考えています。

PayPalは、自らを自らがディストラクト、破壊する。それを進めていこうと考えている会社です。決済手段として並んでいる、PayPalボタンを破壊する可能性のあるBraintreeを買収したのは、自らPayPalボタンを壊していこうという意思表示です。決済、マーケットが変わっていくのをウォッチし、既存のサービスで対応できないのであれば壊し、新しいものをやっていく。これからもそれが続いていくと思います。

――ありがとうございました。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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