高い売上を記録する国・地域、反響の大きなアーティスト・作品は?
PONYCANYON SHOPは、現在約80の国・地域への販売に対応している。購入データを見ると、米国、台湾、香港、韓国、カナダ、オーストラリアなどが高い売上を記録しているそうだ(中国は独自販路を別途設けているため、同サイトとは別扱い)。販売数の多いアーティストや商品について聞いたところ、折原氏は次のように語った。
「たとえば、海外公演や全米ツアーを経験しているBAND-MAIDや、昔からアジア圏で根強い人気を誇るw-inds.の作品は、PONYCANYON SHOPで多く売れています。工藤静香のCDも、海外からよく購入されていますね。
また、アナログ盤の人気も高いです。海外でのシティポップブームも相まって、松原みきのレコードはよく売れます。旧作はアーティスト本人が引退している、もしくはご存命でない場合、プロモーションの幅が限られることもありますが、復刻盤の販売時にSNSなどで海外向けにもアピールしてもらうなど、こちらからの呼びかけ方も変わってきました」
アナログ盤需要は、必ずしも旧作に限らない。テレビアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part 2のオープニングテーマ「The Rumbling」が米国のビルボードチャートで1位を記録したロックバンド・SiMは、2022年に同曲のアナログ盤を数量限定で販売。海外向けにも一定数の在庫を確保したが、あっという間に完売してしまうほどの人気だったという。
「ニーズのあるタイトルは、きちんと告知をすれば爆発的に売れます。日本デビュー時にポニーキャニオンに所属していたBTSが、日本デビュー10周年を記念して過去作のアナログ盤をリリースしているのですが、こちらも熱狂的なファンから好意的な感想をいただいています。
また、アニメ作品『オッドタクシー』も海外からの反響を踏まえて、英語字幕つきのBlu-rayをワールドワイド向け商品として販売しました。配信がある時代にアニメのパッケージは売れないといわれがちですが、世界を見るとまだまだ需要はあると思います。そんな手応えを実際に感じられる事例でした」
売り場が成熟して見えた三つの課題 相手国を理解するには何が必要?
着実に実績を重ねながらも、「進めるうちに見えてきた課題もある」と語る折原氏。大きく分けて三つの課題を、折原氏はこう説明する。
「一つ目は『商品ニーズにどう応えるか』です。越境ECビジネスを始めたことにより、海外需要を以前よりも可視化しやすくなりましたが、現状の権利上、難しいものは多く存在します。これを社内へフィードバックしながら、どこまで実現できるかで売り場拡張できるレベルは大きく変わるでしょう。
また、二つ目はマーケット戦略で、今の課題は東南アジアです。アクセスするユーザー数は多く、求められていることはわかっていますが、現状なかなかコンバージョンにつながっていません。『どのSNSが親しまれているか』といったマーケティング・プロモーション文脈では徐々に見えていることがありますが、国ごとに決済やプラットフォームのトレンドも異なります。購入していただくためのアプローチには、まだまだ工夫が必要だと思っています」
こうした磨き込みを進めるには、現地を知る必要がある。コロナ禍以前、中国向けの展開を進めていた際も、折原氏は「現地の事情をよく知る企業や人と手を組めるかで、成果は大きく変わる」と考えていた。これが乗り越えたいと考える三つ目の課題だ。
「その国の常識や国民性は、現地出身の人が一番よく把握しています。たとえば、PONYCANYON SHOPが北米の顧客からどう思われるか私たちにはわかりません。そのため現地のウェブマーケティングを行う企業に依頼し、米国からの目線でコンサルティングをしてもらいました。
また、台湾向けのアプローチはPONYCANYON ENTERTAINMENT TAIWAN, INCの意見を求めたり、独自のSNSであるPlurk(プルク)のアカウント開設を行ったりしています。加えて、中国向けのサービス構築は現地出身のメンバーに任せるなど、スムーズな市場把握と施策が打てるような環境作りに取り組んでいます」
インバウンド客が戻り、日本のアーティストが海外の音楽フェスなどに出演する機会も増えている昨今。同社は今後、この数年で培ったノウハウを生かしながらどのような展開を考えているのだろうか。最後に折原氏に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「すぐには難しいかもしれませんが、作品やグッズの販売、イベント開催時の事前・事後物販など、国とサービス・体験をeコマースでスムーズにつなぐような仕組み構築を目指したいと思っています。
eコマースというと物販のイメージが強いかもしれませんが、ライブチケットの購入やファンクラブの入会など、スマートフォンを介して決済し、体験やサービスを得る行為はすべて“eコマース”に該当するはずです。であれば、ものの提供の有無にかかわらず、顧客が望む体験すべてをシームレスにするのが理想だと考えています。全社が関係するスケールの大きな話になりますが、できるところから一歩ずつ進めていきたいです」