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「NRF Retail's Big Show APAC 2024」で見えた日本の現在地と弱点
2024年6月11日~13日、「NRF Retail's Big Show APAC 2024」が、シンガポールで初開催された。同イベントは、NRF(全米小売業協会)が毎年米国で開催する流通小売業界のイベント「Retail's Big Show」のアジア太平洋版で、約7,000人が参加したという。同イベントに参加した逸見氏は、「米国のトレンドに注目が集まりがちだが、APACでも様々な発見があった」と話す。
「登壇した企業に共通していたのが、『顧客起点』の考え方です。各社が、顧客満足度を上げるために、データやシステムを活用しています」
その例として逸見氏が挙げたのが、NTUC(シンガポール全国労働組合会議)が展開するスーパーマーケットチェーン「FairPrice」だ。高級食材も販売する「FairPrice Finest」や電化製品なども幅広く取り扱う「FairPrice Xtra」をはじめ、複数のコンセプトの店舗を展開する同チェーン。FairPrice Finestの一部店舗にバーカウンターを設けるなど店内の作り込みに注力しながら、デジタル化を推進している。
「FairPriceでは、顧客が専用アプリでバーコードをスキャンしながら商品をかごに入れ、そのまま自身のスマートフォンで会計できる『Scan&Go』の仕組みを、一部店舗で採用しています。また、ネットスーパーを通じた購入はもちろん、アプリで商品を事前に注文し、店舗受取することも可能です。
2023年時点のシンガポールの人口が約590万人なのに対して、FairPriceのアプリの月間利用者数は100万人にものぼると聞いています。アプリは屋台での決済にも利用でき、ポイントも付与される仕組みのようです。シンガポールの国内回線以外ではインストールできないため、次回の訪問時にはアプリを準備して実際に体験しようと思っています」
APACに目を向けるのは、日本の現状を理解する上でも意味がある。逸見氏は、現地で実感したシンガポールと日本との違いについて、次のように説明する。
「たとえば、日本で総合ディスカウントストアとして親しまれている『ドン・キホーテ(DON DON DONKI)』は、現地で『良質なスーパー』と認識されています。店内で調理された総菜が並び、人気を集めているのです。シンガポールでは自炊しない人も多いため、現地のドン・キホーテも、中食の需要に合った形となっています」
日本でも、女性の社会進出は進んでいる。2021年時点における女性の労働力率は、20代~50代までで70%超にのぼる。加えて、60代でも平均で50%を超えている状況だ。こうした事情を踏まえると、家事の手間を減らすネットスーパーや中食の需要は高いといえるだろう。ところが、「日本の小売はライフスタイルの変化に十分対応できているとはいいがたい」と逸見氏は続ける。
「日本の小売は、いまだに生鮮三品(青果、鮮魚、精肉)の販売にこだわる傾向がありますが、生鮮三品をネットスーパーで販売するには、厳しい鮮度と温度管理が必要な上に、売れ残ると廃棄するしかありません。店舗受取も海外に比べて導入事例が少なかったり、到着時に電話が必要だったりするなど、便利とはいえない環境です。近年、需要が高まりつつある冷凍食品のSKU数を増やすなど、顧客の生活実態に合った実店舗へと進化する必要があるでしょう」