下請けから直販へ 商品開発にこだわる理由
1971年、「大山ブロー工業所」として誕生したアイリスオーヤマ。当時は、プラスチック製品の下請け加工を担う町工場だった。現在は、家電や園芸用品、収納家具など、多種多様なオリジナル商品を販売している。
同社の特徴は、次々に生み出される新商品にある。「売上全体に占める新商品の割合を50%以上にする」がKPIだ。通常、商品開発には時間もコストもかかるが、なぜこのようなKPIを設定しているのだろうか。同社の会長である大山健太郎氏は、『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(日経BP 日本経済新聞出版/大山健太郎 著)でこう語る。
単に規模拡大を目的にしたKPIでは、新陳代謝が十分にできているかどうかは分かりません。顧客に常に新しい価値を提供できてこそ、外的環境の変化に耐える力が蓄えられるのです。ヒット商品やロングセラーに寄りかかることは会社の活力を奪います。(P.79)
同社の商品開発の軸は、消費者の潜在的なニーズを捉える「ユーザーイン」の発想だ。たとえば、人気商品であるクリア収納ボックスは、大山氏が早朝に釣りへ出かけるため家中の衣装ケースや引き出しを開けて、セーターを探し回った経験から生まれた。市場創造のヒントは、日常生活の中に眠っている。
150%の注文にも対応できる体制を整備
予期せぬ事態に対応できる生産体制も、アイリスオーヤマの強みの一つだ。基本的に、生産設備の稼働率を7割以下にしているという。あえて余力を残しておくことで、新型コロナウイルス蔓延によるマスク需要の急激な高まりにも対応できた。
大山氏は、設備稼働率を“7割”に設定している理由について「『100%÷70%=1.42』で、5割増に対応できる(P156)」と説明する。これにより、通常時の150%の注文が殺到した際にも、迅速な対応が可能だ。効率よりも、瞬発力を優先した戦略といえるだろう。
そのほか、本書では同社の新商品が生まれる過程や組織体制の整え方、人材の育て方なども明かされている。競合他社が多く差別化に悩む読者に、おすすめしたい1冊だ。