海外勢に押される日本メーカーを救うデジタルの力
2024年4月、デジタル技術を活用した日本製鉄の新規事業が誕生した。中小BtoBメーカー向けオンラインプラットフォーム「KAMAMESHI」だ。
同プラットフォームは、会員に対して商品製造設備に使われる部品の在庫管理システムを提供し、会員間での予備品の売買取引を推進している。会員になったメーカーは、社内で保管している部品の在庫を写真とともに登録すれば、不要となった際に公開ボタン一つで出品できる。出品一覧の中から不足部品の購入も可能だ。取引が成立すると、宅配便での配送もしくは直接納品、販売元へ出向く形で部品を手に入れられる。
「部品の過不足をメーカー間で補える上、在庫管理・出品・購入が一つのシステムで完結します。2024年4月の正式ローンチ後、同月末までに10社が導入しているほか、既に約100件の問い合わせが入っている状況です」
KAMAMESHIは、日本製鉄の社内起業制度を通じて立ち上げられた。その立役者である小林氏は、新卒で新日本製鉄株式会社(現:日本製鉄)に入社。営業時代に目にした製造現場の課題から、新たな挑戦へと突き動かされたという。
「日本の製造業界を支えているのは、多様な技術をもつ中小メーカーです。実は、そうした中小メーカーが保有する設備は、老朽化がかなり進んでいます。主力設備が故障すれば、出荷するはずだった商品の製造が止まり、経営に大きな影響を及ぼします。最悪の場合、倒産するリスクもあるのです。日本製鉄が長年取引している中小メーカーのサポートをしたいと思ったのが、立ち上げのきっかけでした」
本来、日々の点検や保全活動を通じて、設備が故障する前に部品交換や、補修をすることが望ましいだろう。しかし、リソースやコストの負担となり、故障してから原因を調査、修理を試みるケースは少なくない。中小メーカーの経営にかかわる設備保全を支援するサービスが必要だった。
「中国やインドの新興メーカーの発展は、目を見張るものがあります。『日本の製造業界はこのままで大丈夫なのか』と危機感を覚えるほどです。多様なニーズに対応できる技術をもった中小メーカーを守れるかが、日本の製造業界の未来を左右します」
中小メーカーにとって、在庫管理システムなどデジタル技術の投資開発は大きな負担となる。また、これまで活用してこなかったシステムの導入に消極的な面もあり、小林氏は「今まではアナログなやり方での現状維持が無難だった」と振り返る。
しかし、近年は製造現場の代替わりが進んでいる。新たなデジタル技術に抵抗がなく、むしろ人手不足への対応や業務効率化を重視する中小メーカーも現れ始めた。風向きが変わり、KAMAMESHIが受け入れられやすい状況が整ったといえよう。