自社ならではのデータが生成AI活用の鍵を握る
NRF 2024のテーマは、「Make it Matter」だった。伴氏は冒頭で、「『it』はITや生成AIを指すのだろう。私はイベントテーマを、『ITや生成AIの活用を意味のあるものにしよう』だと捉えている」と語った。
実際、NRF 2024で行われた講演は、生成AIの話題で持ちきりだった。Salesforce, Inc.(セールスフォース)をはじめ、様々な活用事例が紹介された。同社の会長/CEOマーク・ベニオフ氏は、基調講演で「『GUCCI』がコールセンターの質疑応答に当社の生成AI機能を導入し、ほぼ一晩で収益を約30%上げた」と明かしている。
「生成AIは既に民主化されており、マーケティングツールなどに組み込まれています。これまで誰かに聞くか自ら調べる必要があった課題を、容易に解決できる世界になる。問題は、民主化がコモディティ化につながることです」(伴氏)
ここで伴氏は、2024年1月9日~1月12日に開催されたテックイベント「CES 2024」の内容に触れた。
米国の小売大手であるWalmart Inc.(ウォルマート)は、CES 2024で七つの新施策を発表している。たとえば、再生可能エネルギー活用の加速。同社は、必要な電力を自社のソーラーパネルでまかなうなどの取り組みを続けてきた。2024年中に、顧客向けにEV自動車の充電サービスを本格展開する予定だ。
「小売店の立地を生かして、電力まで販売する時代となっています」(伴氏)
「小売の次の戦略としてリテールメディアが取り上げられますが、ウォルマートのような新ビジネスを生み出せる企業は、なかなかありません」(奥谷氏)
アバターに洋服を着用させて友人と会話しながら買い物できる「Shop with Friends」も興味深い。これにより、ウォルマートは購入前の顧客がどのような相談をしているのかをデータで把握できる。
中でも伴氏が注目しているのが、生成AIを活用した検索機能だ。従来型の検索では「顧客の欲しいもの」に対する答えしか返せなかったが、生成AIを用いた新たな検索であれば、細かなニーズまで把握可能となる。
たとえば「10歳の子どもに初めてスマートフォンを購入したい」といった利用目的に合わせて、注意点やほかに必要な商品などを提案すれば、顧客の満足度も上がるだろう。つまり、ウォルマートは生成AI活用を通じて、顧客からの情報収集と競合他社との差別化を両立しているのだ。
伴氏はNRF 2024に話を戻し、個性的な事例を解説した。
郊外に立地し、農業に必要な資材などを販売するTractor Supply Co.(トラクターサプライ)は、独自性の高いデータ収集に成功している。
同社の従業員は、生成AI機能が搭載されたヘッドセットを装着し、顧客からの「鶏の健康に良い餌はどれか」といった専門的な相談に対応する。接客時にわかった「北部の鶏があまり育っていないようだ」などの地域別の課題を、データとして蓄積。課題に合わせて品ぞろえを最適化するなど、様々な施策に活用している。
「顧客を深く知るには、『ヒト・モノ・カネ』以上にデータが重要です。データ収集・分析を強化すれば、リテールメディアにも応用できる上に、他社との差別化にもつながります」(伴氏)