長年百貨店として愛されてきた株式会社高島屋は、近年のデジタルシフトに伴い、EC戦略の構築と遂行が求められます。強力な実店舗のブランドとネットワークを持つ同社では、デジタルをどのように活用しているのでしょうか。
この記事では、そんな高島屋の実店舗力を活かした独自のデジタル活用戦略について、同社のビジネスモデルや新しい取り組みとともに紹介します。
株式会社高島屋の企業情報・事業内容の概要
まずは、株式会社高島屋の基本的な企業情報や、事業の内容について確認しましょう。
株式会社高島屋の企業情報
以下の表では、株式会社高島屋の基本的な企業情報を掲載しています。
社名 | 株式会社高島屋 |
---|---|
本社所在地 | 大阪府大阪市中央区難波5-1-5 |
設立年月 | 1919年8月 |
代表者名 | 代表取締役社長 村田 善郎 |
株式公開 | 東証プライム市場上場 |
資本金 | 660億2,500万円 |
おもなグループ会社 |
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株式会社高島屋の事業内容
株式会社高島屋は、全国的な百貨店業を展開し巨大な企業へと成長しました。現在も同社では8割の売上を百貨店業が占めるなど、国内有数の百貨店企業であるといえます。
グループ全体としては、ショッピングセンター開発・運営事業や、ファン顧客向けに展開する金融事業なども展開中です。ほかにも、設計・内装事業、食品・レストラン事業など多角的に展開し、安定したグループ経営を実現しています。
このような取り組みによって、国内の顧客獲得はもちろん、国外でも同社ならではの店づくりを展開し、ファンの獲得とファンとの絆の醸成を進めているのです。
さらに、デジタルシフトが進む今日においては、ECを活用した新たなタッチポイントの創出にも注力し、新しい顧客獲得やさらなる顧客満足度の向上に努めています。
株式会社高島屋の沿革
以下の表は、株式会社高島屋の沿革をまとめたものです。
年 | 沿革 |
---|---|
1831年 |
高島屋創業(京都烏丸松原上ル) 初代飯田新七、京都で古着木綿商を始める |
1919年 | 株式会社高島屋呉服店設立 |
1930年 | 商号を「株式会社高島屋」と変更 |
1951年 | 百貨店で初めて北海道主催による北海道物産展を開催 |
1960年 | 各銀行発行のクレジットカードによる信用販売を始める |
1993年 | シンガポール高島屋S.C.開店 |
2008年 |
経営理念に5つの指針を設定 企業メッセージは「‘変わらない’のに、あたらしい。」 |
2009年 | 日本橋店本館が百貨店建築としては初めて国の重要文化財に指定 |
2012年 | 上海高島屋開業 |
2017年 |
「タカシマヤゲートタワーモール」オープン (ジェイアール名古屋タカシマヤ) |
2018年 |
新・都市型ショッピングセンターとして「日本橋高島屋S.C.」誕生 タイ・バンコクの大型複合施設「ICONSIAM(アイコンサイアム)」の核テナントとして「サイアム高島屋」オープン |
19世紀創業の高島屋のあゆみには、日本の百貨店の歴史が濃縮されているといっても過言ではありません。京都発祥、大阪を拠点に全国的な百貨店の開業を進めてきた株式会社高島屋は、今では百貨店の代名詞ともいえる北海道物産展を初めて手がけるなど、独創的な企画を数多く展開してきました。
また、60年代には金融業にも参入し、90年代には海外出店を果たすなど、積極的に百貨店の在り方を創造し続ける姿勢が伺えます。
歴史ある百貨店ということもあり、同社が有する建築物も世界的に高く評価され、日本橋店本館は国の重要文化財にも指定されました。国内外で大規模な商業施設プロジェクトに携わるに足る、歴史とノウハウを有する企業であることがわかります。
株式会社高島屋の強みやEC戦略について
株式会社高島屋の、事業としての強みはどのような点にあるのでしょうか。ここでは同社の事業戦略やビジネスの強み、そして現在採用しているEC戦略の特長について、解説します。
おもな事業戦略と強み
株式会社高島屋では、同社の成長戦略として以下の4つを掲げています。
- 「まちづくり戦略」
- 「街のアンカーとしての役割」
- 「館の魅力最大化」
- 「お客様づくり・売り場づくり」
ひとつ目の「まちづくり戦略」とは、同社の強力な実店舗の集客力とブランド力を活かした、グループの総合戦略です。流動性が高く、多様化が進む消費者ニーズを確実に捉えられる満足度の追求はもちろん、出店地域の特性を活かした、サステナブルなコミュニティ構築を推進します。
ふたつ目の「街のアンカーとしての役割」は、集客力のある百貨店の設置によって、街に活気を与える拠点としての役割を担う取り組みです。国内における代表事例としては、重要文化財髙島屋日本橋店を含む街区一帯の開発である「日本橋二丁目地区第一種市街地再開発事業」を推進してきました。
海外店舗も例外ではなく、ベトナムにおける「ホーチミン高島屋」を核テナントとする大型複合施設「サイゴンセンター」は代表事例といえます。「百貨店」「不動産」「商業施設運営」の3事業を統合した運営を取り入れ、大規模な街づくりプロジェクトの一角を担いました。
3つ目の「館の魅力最大化」は、百貨店を中心とした独自の商業施設開発プロジェクトを指します。
ショッピングセンターへの出店をはじめとした店舗開発や、高島屋ファイナンシャル・パートナーズ株式会社設⽴のような金融ビジネスの強化などを通じて、顧客のあらゆるニーズを解消できる施設づくりを推進してきました。
4つ目の「お客様づくり・売り場づくり」は、同社が注力してきた重要な戦略です。上質性、時代性といった視点を踏まえた「特徴化マーチャンダイジング(MD)」や、百貨店の魅力をオンラインでも体験できる独自EC事業「高島屋オンラインストア」などは、その代表例といえます。
特に特徴化MDについては、次世代ビジネスマンをターゲットとして、高感度で高品質な商品を手軽に自分好みにカスタマイズできる新感覚のショップ「タカシマヤ スタイルオーダーサロン」を立ち上げるなど、ほかの百貨店やオンラインショップでは味わえない、独創的な体験の提供に注力しています。
展開しているEC戦略の特長
同社では中期経営計画において2024年2月期までに「ネットビジネス売上高500億円」の達成を掲げています。同社では2021年2月期において、前期比60%増の297億円を達成しているものの、目標達成には届いていないのが現状です。
実店舗主体の百貨店企業としては高い目標にも思えますが、現在同社ではこの目標の達成に向け、多様なEC施策を展開しています。
代表的な取り組みとしては、EC事業部のバイヤーによるネット専用商材の拡充や開発が挙げられます。実店舗と同様にEC事業部にもバイヤーを配置することで、本格的なネット専用商材を充実させ、EC集客の強化を進めました。
ECで購入される商品については、店頭在庫と別に専用在庫を確保することで、店頭の売れ行きに依存しない、独立した流通網を確立しつつあります。在庫確認や在庫切れに伴う損失を回避できるため、さらなるEC売上の強化が期待できるでしょう。
また稼働させる倉庫については、横浜市内にある同社物流センターの1フロアをEC専用に改修し、流通網の強化を進めています。現状はコスメ商材に特化しているものの、今後ECで展開予定のリビング商材や食料品も同倉庫で保管・発送するということで、迅速な発送や在庫の確保も期待できます。
株式会社高島屋の近年の動向
ここでは、株式会社高島屋による近年の大きな動向について、ニュースをピックアップして紹介します。
2023年秋に「京都高島屋S.C.」が誕生
高島屋京都店の隣接地で増床工事中の区画に、百貨店を専門店からなる商業施設「京都高島屋S.C.」をオープンさせることを発表しています。
同社の成長戦略のひとつである「まちづくり戦略」のもと、地域社会や顧客ニーズにより幅広く対応できるよう、専門店ゾーンの導入が決定しました。
「アート&カルチャーを発信する館」として、「京都 蔦屋書店」を初展開するなど、百貨店の顧客に加えて新たな顧客の取り込みにも注力するとしています。
JR名古屋高島屋、売上過去最高ペースを記録
2000年に開業し、JR名古屋駅とも直結のJR名古屋高島屋は、2022年11月時点で「売上過去最高ペース」を記録しています。
総売り場面積約8万7000平方メートルを誇る同店舗では、ラグジュアリーブランドの増床や2017年のゲートタワーモールの開業によって、百貨店が弱かった20〜30代の若い女性客を取り込むことに成功しました。
2022年度上期(3〜8月)の売上高は、前年同期比約24.5%増の約799億円で、コロナ前の実績を約0.4%上回り、過去最高の売上となっています。
高島屋が「売らない店」ショールーミング事業に参入
株式会社高島屋は、商品を陳列して直接販売はしない、ショールーミングストア事業への参入を、2022年3月に発表しました。同社とトランスコスモス株式会社が15年に合弁で設立した、タカシマヤ・トランスコスモス・インターナショナル・コマースが同事業の運営を担うとしています。
売り場にはあくまでサンプルだけを並べ、在庫は抱えないのが同事業の最大の特徴です。ECサイトに客を誘導して購入を促すことを狙いとしており、株式会社高島屋のEC活用をさらに後押しするビジネスとなることが期待されています。
株式会社高島屋の気になるトピックス
そのほか、株式会社高島屋の気になるトピックスを紹介します。
2024年6月19日:高島屋、富裕層向け金融事業強化へ ヴァスト・キュルチュール子会社化で経営ノウハウ・人材を取り入れ
高島屋は、独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)であるヴァスト・キュルチュールの株式の過半数を取得し、子会社化することを決定。IFA市場での事業拡大やIFAに関する経営ノウハウ、人材をグループ内に取り入れることで、金融事業の強化を目指す。
2023年5月22日:高島屋オンラインストア、ソーシャルギフトサービスを開始
高島屋オンラインストアは、住所や姓名がわからない相手にも、選んだ商品をメールやSNSでギフトとして贈ることができる「ソーシャルギフトサービス」をスタート。
2023年1月12日:髙島屋の既存不動産を活用して大阪での賃貸物件を新規開発 あわせて東京近郊の賃貸物件4棟を取得
髙島屋の連結子会社で商業開発業を担う東神開発は、グループ総合戦略「まちづくり」をさらに深化させるために髙島屋の既存不動産を活用し、大阪市浪速区日本橋3丁目に「(仮称)大阪日本橋3丁目計画 賃貸マンション」を新たに建設。また同時に進めている稼働物件の取得において、東京近郊の賃貸住宅4棟を取得した。
2022年11月4日:【髙島屋オンラインストア】ブラックフライデー初開催!/デパ地下グルメや有名ブランド、特別な体験プラン、マイホームまで!
髙島屋オンラインストアでは、クリスマスや年末商戦をさらに盛り上げるイベントとして、「ブラックフライデー」を初めて開催。
2022年11月4日:高島屋とH2Oが資本提携を解消、商品共同開発などの業務提携は継続
高島屋とエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングは、2009年から続けてきた資本提携を解消する。両社は約5%の株式を持ち合っているが、11月4日にそれぞれが立会外買付取引で自己株式を買い取る。
2022年10月27日:【京都高島屋】食品の寄贈運動「フードドライブ」を初開催!
家庭で眠っている食品や、まだ賞味期限があるのに廃棄されてしまう食品が増えていることから、それらの食品を必要とする方々や子ども食堂に届ける橋渡しを行うため、京都高島屋にて「フードドライブ」活動を開催。
2022年10月11日:【横浜高島屋】2022年10月1日「産後パパ育休」制度スタート。仕事と家庭の両立を後押しする「父親育児支援講座」開催!
10月1日から「産後パパ育休」(出生時育児休業)が施行されたことに伴い、横浜高島屋では、横浜市こども青少年局地域子育て支援課とともに、父親育児の機運を高めることを目的とした父親育児支援講座を開催。
2022年10月5日:「衣料品回収キャンペーン」を高島屋の各店舗でスタート!
サステナブルな循環型社会の実現を目指す髙島屋のプロジェクト「Depart de Loop(デパートデループ」の一環として、髙島屋での購入品に限らず、不要な衣料品を店頭で回収する「衣料品回収キャンペーン」を各店にて実施。
まとめ
この記事では、株式会社高島屋の事業の強みやビジネスモデル、そして独自のEC戦略について紹介しました。
同社は強力な百貨店としてのブランドを有効活用しながら、デジタルシフトにも柔軟に対応することで、従来の強力なファン顧客の満足度向上だけでなく、新しい世代の顧客獲得にも成功しています。
ECはもちろん、実店舗においても好調な売上を記録しており、デジタルと実店舗の両立を体現している点は高く評価されるべきでしょう。