なぜ今求められるのか ブランディングの本質を理解せよ
破竹の勢いで成長してきたIT業界。アメリカの利上げもあり、その成長にも陰りが出てきています。影響の大きさは未知数ですが、日米共に来年以降の景気後退は間違いないでしょう。そんな中、再びブランディングの重要性に注目が集まっていると感じます。それはなぜか。理由は次のことにあります。
引き続くコロナ禍や景気後退を前に、「今あるものをどう売るか」という戦略がより機動性と即時性を持って求められるようになりました。その結果、「誰に、何を、どうやって売るべきか」を決める「ブランディング」が見直されてきたのです。多くの企業が取り組んでいるDX活動も、実はブランディングなくしてうまく機能しないという背景もあります。
ここでお聞きします。みなさん、ブランディングというとどんなことを想像しますか。
デザイン性の高いロゴやパッケージ、ウェブサイト、バズるSNS運用、独自の世界観の発信などがすぐに浮かぶのではないでしょうか。
しかし、実際のブランディングとは「経営」と密接にリンクした「全体戦略」です。コミュニケーションの領域から商品開発や人事評価制度設計にまで影響する、まさしく「経営」そのものと言えます。ただ、ブランディングをせずとも経営自体は実行可能です。もちろん、ブランディングなしで大きな影響力や資本を持つに至った企業も多く存在します。
そこで連載第1回は、そもそもなぜブランディングが必要なのかを紐解いていきます。
EC普及で比較される商品 自社製品は消費者の記憶に残っているか
ブランディングの実例や成功例を調べると、大手企業の事例に目がいきます。たとえば「Apple」や「コカ・コーラ」、「P&G」などです。なぜこれらの企業がブランディングを必要としてきたか。端的に言うと、常に他社製品と比較されるからです。多くの人々に知ってもらうということは、すなわち類似商品と常に比較されるということです。比較の多くは「価格比較」や「機能比較」。つまり、安くて多機能が勝つ。これではひたすらに価格勝負になってしまうか、常に新しい機能を開発し続けるための継続的な投資が必要でしょう。どちらにしろ、すでに多くの企業努力と技術開発が繰り返されている現代では、ゆくゆくはジリ貧になってしまうことが目に見えています。こうした消耗戦に持ち込まず適切な利益構造を実現するため、大企業ではブランディングが活用されてきたのです。
一方、日本はというと、メーカーや製造業、中小企業の多くは、競合他社に比較される機会が今まで少なかったように思います。高度経済成長期を経て、良い商品を作れば売れるという時代が続いたことがその理由のひとつです。
もうひとつの理由には、日本ならではの特性が挙げられます。「島国」「基本的に単一民族」「総中流階級」であることにより、言語や機能による訴求のみでもビジネスが成り立ちやすいからです。対照的な例がアメリカです。アメリカでは、多民族国家かつ格差も激しく歴史も短いため、多様な価値観を持つ人々が存在します。その中で選ばれるには、明確なスタンスの表明が不可欠です。こういった点から、日本は比較的ブランディングが苦手であると言えるでしょう。
それが今では、インターネットが普及し多くの中小企業がECを開設。国内外問わず商品が売れるようになり、必然的に類似商品と比較される機会が増えました。加えて、このコロナ禍がECの普及を決定的にしました。インターネット上には商品が溢れ、比較されるどころか目にもつかず、タイムライン上で流されるようになりました。そうすると、広告やSEOの効率も悪くなります。CPAは高騰し、価格も下げざるを得ず利益を圧迫。商品開発もままならない。そんな悪循環に巻き込まれたと感じている事業者もいらっしゃるでしょう。
この状況を打破するために有効なのがブランディングです。ただし、ブランディングは医療にたとえると特効薬や外科的手法ではありません。あくまで東洋医学的な、本来有している能力を引き出す手法です。利益を上げる体質を作っていくための指針であるということです。高額な費用を支払ってコンサルティングに依頼するのはずっと先の話と思って差し支えありません。まずは基礎ができていないと、高額な投資も無駄になってしまいます。
では、ブランディングをするとどういった企業体質の改善につながるのか。ここからは、具体的なメリットをお話しましょう。