人材不足解消に貢献 SAP TechEd 2021
SAPが開発者向けに開催する「SAP TechEd 2021」は、2021年11月16日から3日間オンラインで開催されました。オンラインとなって2年めの今回は前回に続き、弱冠40歳ながらCTOとして技術面でSAPを率い、エグゼクティブボードも務めるJuergen Mueller氏が基調講演を実施。同氏は「1. コロナ禍によるDXの加速とクラウドへの移行」「2. 気候変動」「3. 不平等」と私たちが直面する課題を3つ挙げ、SAPがそれらを技術面で支援していくと約束しました。同イベントでは、とくに1. と3. が大きな焦点です。
同イベントは前出のとおり開発者向けですが、この「開発者」こそがSAPの課題のひとつとなっています。技術(Technology)と教育(Education)を組み合わせた同イベント自体、SAPにとって新しいものではありませんが、SaaSを強化し、オンプレミスからクラウドに顧客の移行を進める同社にとって、クラウド開発者の取り込みは重要です。実際に、Mueller氏は昨年の同イベント内で「SAPは開発者というイメージが持たれていないようだ」と認めています。
今回のイベント内でSAPは、これまで企業、パートナー向けであった自社基盤技術「Business Technology Platform(BTP)」の無償ティアを個人開発者にも拡大すると発表しました。これで、個人開発者もBTPを利用したサービス開発ができます。
いわゆる開発者ではない新たな層に対して、同社はノーコード/ローコードソリューションで取り込みを図っています。同イベント内では、先に買収したノーコードベンダーのAppGyverを「SAP AppGyver」として発表。加えて、オンライン学習サイト「SAP Learning」も刷新、コンテンツを拡充しました。「open SAP」として提供するトレーニングコースの受講者は、570万人を超えているそうです。学習では、競合のセールスフォース・ドットコムも以前から「Trailblazer」を展開しています。
「2025年には400万人のIT人材が不足する」と語るMueller氏。ITに頼まずとも、アイディアがあれば自分でサービスを作れる世界を描いているようです。「すべての企業がテックカンパニーにならなければ(存続できない)」と続け、前出のソリューションやサービスで人材不足問題の解消を支援すると続けました。
ノーコード/ローコードは、どのベンダーも取り組んでいる分野です。小学校でもプログラミング教育が必修化されているように、これからは技術者でなくとも、プログラミング的思考が求められるのかもしれません。
ちなみに私がMueller氏を最初に見たのは、同氏がまだ学生だった頃です。SAP主催のイベントに同社の共同創業者Hasso Plattner氏が設立したHasso Plattner Instituteが登壇した際、インメモリデータベース(「SAP HANA」)向けの新たなアプリケーション開発を行う立場として壇上に現れました。Plattner氏の秘蔵っ子として才能を評価され、30代でSAPのエグゼクティブボードに就任。2020年には、Fortune誌が40歳以下の影響力ある個人を選ぶ「40 Under 40」にも登場しており、同じく40代のCEO Christian Klein氏とともに若手の多いSAPというイメージに一役買っています。今年のTechEdではスピーチも板につき、個別取材でも自信が伝わってきました。今後が楽しみな若きテックリーダーのひとりです。