仕組みだけで価値は成立しない 顧客が選べる環境作りが鍵に
今号の特集で「アパレル・スポーツ・アウトドア」を取り上げていることを踏まえて、まずはコロナ禍の各業界動向から語る逸見さん。アパレル業界は、人々の生活様式や需要の変化にいかに対応するかが明暗を分けたと説明する。
「コロナ禍以前から積極的にEC推進を行っていたビームスを例に挙げると、2020年初頭に20%台だったEC化率が2021年には43%になったと言います。比率の変化には店舗来店客数減少も関係するため手放しで喜べない側面もありますが、顧客に選択肢が与えられていたからこそ、このような結果につながったことは間違いありません。数字だけを見て『これからはECだけで売っていくべき時代だ』と短絡的な判断をするのではなく、ブランドと顧客との接点にアナログだけでなくデジタルが加わった、店舗だけでなくECも接点として機能し得ると考えて対策を講じることが重要です」
スポーツ・アウトドアにおいても、顧客接点の作りかたとしては同様のことが言える。外出の頻度は減りながらも、健康志向の高まりやリフレッシュするためのレジャー需要が高まったことで、商材に対する需要と注目度が近年大きく伸びていることは間違いない。しかし、顧客がアナログとデジタルを無意識に使い分けていることを踏まえた仕組み作り、体験の提供なしには特需で培った顧客をとらえ続けることは難しい。
「これまでは、仕組みを作れば競合から頭ひとつ抜きん出ることができる状況でしたが、この環境が当たり前となれば仕組みだけで価値は成立しません。そこで求められるのが『体験』です。顧客によって価格を重視するか、体験を重視するかは異なるため、時と場合によって取捨選択ができる、どちらも遜色ない環境を作る視点も大切です」