1970年代前半より、長きにわたりテレビ・カタログを主軸とした通信販売事業を行っているディノス・セシール。近年は、ECと紙媒体をリアルタイムで連動させたCRM施策や、ファッション関連をはじめとしたスタートアップ企業への出資など、既存事業を活かした上でより新たな試みを行っている。そんな同社が2020年5月、ダイナミックプライシングに着手すると発表をし、大きな注目を集めた。アパレル含めさまざまな商品の販売を行う同社が、ものを売るために絶えずチャレンジし続けるのはなぜか。デジタル活用を積極的に推進するマインドについて、同社でCECO(Chief e-Commerce Officer)を務める石川森生さんと、セシールマーケティング本部マーケティング戦略部で部長を務める藤田満さんに聞いた。
オープンイノベーションで互いの強みを活かす
2019年7月に発表したサイバーセキュリティ関連サービスを提供するFlatt Securityへの出資を皮切りに、同年内にはファッション業界に特化したSNS型採用プラットフォームを運営するREADY TO FASHION、ファッションAI事業を行うニューロープ、印刷プラットフォーム事業を展開するグーフ、2020年に入ってからは次世代型ネット広告配信サービス事業を手掛けるスリーアイズといったように、積極的に先端技術を扱うスタートアップ企業への投資に取り組むディノス・セシール。自社でデジタル推進を行う際には、既存のツールを活用したり、自社に合ったオリジナルのツールを開発したりと、さまざまな進めかたが考えられるが、同社はなぜ出資という形を選んだのだろうか。理由を尋ねると、石川さんはこう答えた。
「私たちが、先端テクノロジー系の取り組みにゼロから着手するのは、時間もコストもかかり、現実的ではありません。また、既存ツールを導入して自社に適合させていくことももちろん行いますが、並行してより効率的かつ革新的な方法があるのではないかと考えていました。そこで、当社が求める技術や目指す方向性と合致しているスタートアップ企業を見つけたら、彼らの持つソリューションをただ活用するだけでなく、資本関係を含む強固なパートナーシップを結び、よりシナジーを生む方法を模索することに決めたのです」
同社が出資する企業は、すでにソリューションによるマネタイズを実現している企業がほとんどだ。既存製品を導入し、活用するほうが一見すると容易に社内のデジタル化を実現できるようにも見えるが、「資本を投入させてもらうことで、互いの事業のよりコアな部分に触れることができる」と石川さんは続ける。出資先企業の持つテクノロジーを用いて、ディノス・セシールが現在抱える課題を解決する方法を探るべく、共同プロジェクトを立ち上げ、「ディノス」と「セシール」という、通販業界においては大規模な販売チャネルを実践の場として活用。手を取り合って課題解決にあたることで両者にとって効率的かつ有益な情報交換が可能となる。
「海外で積極的に取り入れられているオープンイノベーションの思想を当社にも適応したイメージです。当社ばかりがメリットを享受するのではなく、当社の持つビジネス資産を出資先企業にも上手く活用していただき、互いに成長していければと考えています」