「GLOBAL WORK」「LOWRYS FARM」「niko and ...」など30を超えるブランドを有し、国内外に約1,400店舗を展開するカジュアルファッション専門店チェーンの株式会社アダストリア。同社は、2022年1月より他社ブランドへ公式ウェブストア「.st(ドットエスティ)」の売場を開放し、食品やキッチン・美容家電、コスメなど取扱商品の多様化を進めている。いわゆる「自社ECのオープン化」に着手した意図は、どのようなものなのだろうか。同施策により実現したいことや、地方にも展開を進めるOMO型店舗「ドットエスティストア」の今後の展望など、新時代の売場作りについて同社で執行役員 マーケティング本部長を務める田中順一さんに話を聞いた。
販売員が魅力を翻訳 モールと異なる価値提供へ
販売員の呼びかけを軸に店舗・ECの共通会員化を進め、すでに会員数1,400万人を突破するドットエスティ。2022年1月に開始した株式会社サンマルクホールディングスの「チョコクロ」や「鎌倉パスタ」の販売を皮切りに、4月にはシンガポール発のアパレルブランド「Love, Bonito」、ヤーマン株式会社の美容機器やスキンケアコスメ、シロカ株式会社が展開する家電「siroca」の取り扱いを開始。7月にはビューティセレクトショップ「Fruit GATHERING」も出店するなど、自社ECとしては新たな展開を見せている。
同施策はともすれば「自社EC」という定義に変化が及ぶものと言えるが、田中さんは「ふたつの目的に沿って着手している」と語る。
「ひとつめの目的は、『ドットエスティ会員のアクティブ率向上』です。アダストリアはアパレルを主に展開する企業ですが、顧客によっては洋服をそこまで頻繁に購入しない方もいらっしゃいます。すると、顧客とのつながりが1回で途絶えてしまう可能性がありますが、取扱商品やカテゴリーの拡張により選択肢が増えれば『すでに会員登録しているドットエスティで購入しよう』と思っていただけるかもしれません。また、そうして来訪の機会が増えれば、『洋服が欲しい』と思った際にドットエスティに訪れていただける可能性が高まるのではないかと考えています」
もうひとつの目的は、同社が中期経営計画のテーマとして掲げる「グッドコミュニティ共創」の実現に向けたものだと言う。
「これからは場の価値やノウハウを1社で独占するのではなく、さまざまな企業と手を組み、一緒にさらなる価値を生み出す『共創』の時代と言えます。他社と意見交換をすることで単独で事業を推進する以上のシナジーが生まれ、新たなアイディアにもつながるはずです」
今回のオープン化は、ただ商品販売の場を提供するだけではない。ドットエスティ内に設けられた「ライブショッピング」のコーナーでは、取扱メーカー・ブランドの販売員や「中の人」とアダストリアの販売員が一堂に会する形でリアルタイム配信を行うなど、販売促進活動も共同で行っている。
「メーカー・ブランドの方は商品の良さやアピールポイントを熟知していますが、それらをただ伝えるだけでは購入につながりません。ドットエスティ会員の属性や顧客が求めていることをよく知る当社の販売員の視点から質問や紹介を加えることで、メーカー・ブランドの方には『新しい発見があった』と言っていただけています。当社としても、手を組むことで見えたものがすでにありますし、ゆくゆくは次の一手をともに考えていけるようになるのが理想です。オープン化はあくまでその第一歩と言えます」
単なるモール展開とは異なり、自社ECの中で空白地帯となるカテゴリーを網羅しながらも事業の発展や共創の機会を生み、さらなる顧客体験の向上につなげる点が特徴と言えるドットエスティのオープン化。当然ながら既存の世界観を壊すことがないよう、メーカー・ブランドの選定時には定量・定性それぞれの視点から検討を重ねているそうだ。
「商品そのものの認知度や、ドットエスティの会員属性と合致しているかといった分析はもちろんながら、販売員にも『この商品をドットエスティで取り扱ってほしいか』といったアンケートを採るようにしています。
当社は、店頭で働く販売員の力が大きな企業です。十人十色さまざまなキャラクターの販売員がいますが、彼らは世間一般に近い感覚を持ちながら接客を通して世の中のトレンドを把握しています。こうした販売員が『使いたい』『欲しい』と思えるかは非常に重要な視点です」
また、実運用に目を向け「自社商品と同梱できるかどうかも選定時のひとつの基準としている」と田中さんは続ける。冷凍配送となる食品は対象外だが、基本的に他社商品は委託販売の形を取りアダストリアの倉庫から発送するため、メーカー・ブランドの垣根をまたいで購入してもそれぞれに送料がかかることはない。
「本格的なオープン化からはまだ半年足らずですが、同梱率も高い数値を記録しています。これは、顧客が求めていたラインナップを提供できていることの裏づけとも言えるでしょう。今後も喜んでいただける商材の開拓を進めていきます。
また、売場を他社へ開放することについては、すぐに答えが出るものではないと思っています。2、3年ほど時間をかけて『これがドットエスティのオープン化だ』と断言できる形を見つけていく予定です」