時代とともに変容するCX
セッション冒頭で山﨑氏は、CXについて「マーケティングの根幹にある考えかたのひとつであり、重要な概念である」と語る。そして、現代におけるCXを変容させた3つの要因として「スマートフォン」「コロナ禍」「Z世代」を挙げ、次のように解説した。
1. スマートフォンの登場による消費行動の変化
スマートフォンは消費者の生活スタイルを大きく変え、マーケティングに最大級のインパクトを与えた発明品と言える。今や人々が1日にスマートフォンを確認する回数は平均150回、何かを調べる際に最初にモバイル端末を利用する人が60%、その際に得た情報を購買の参考にする人は87%に上るとされている(2016年発表「Think with Google」より)。
購入検討を行う際は、商品情報を得たとしてもその場を離れると気持ちが落ち着いてしまうケースがあるが、近年ではスマートフォンを使っていつでも場所を選ばずスピーディーに情報を得て、「欲しい」気持ちが高まった瞬間に商品を購入することが可能となり、情報検索と購入は一連の動作へと変化している。
さらに山﨑氏は、「スマートフォンによって店舗と外の境界がなくなりつつある」と言う。商品を実際に手に取って見ることができるのは、購買プロセスの重要なポイントであるが、商品の情報は必ずしもリアルでしか得られないというわけではない。たとえば利用者のレビューなどの情報は店舗内に限らず、その後に立ち寄ったカフェや帰りの電車、そして自宅からも閲覧ができ、それらが購買プロセスの一部となっている。
こうしたオンラインとオフラインが双方向でシームレスに融合する状況こそがOMO(Online Merges with Offline)であり、オンラインから店舗に誘導して購入を促す一方通行のO2Oとの違いである。
変わりゆく購買トレンド 求められるデジタル化
2. コロナ禍で加速するDX
新型コロナウイルス感染症の流行は、人々の行動自体を大きく変化させ、消費行動や購買プロセスにも影響を与えた。「商品に触れる」という従来のメリットの享受が難しくなったことで、店舗で行う必然性のないサービスは省略・縮小するといった傾向が強まっており、商品購入検討時の情報収集はオンラインで口コミやレビューを見る、実物を見ずに購入を決断できる商品はオンラインで購入し、配送や非接触の手段で受け取るなど、購買行動の多様化も大きく進んだ。
ECは従前より今後の成長分野と予測されていたが、緊急事態宣言時の一時的な巣ごもり需要増を経て、購買手段としての定着がより加速している。総務省が毎月行っている「家計消費状況調査」において、2002年より調査対象にネットショッピングが追加されて以降、2020年5月に初めてネットショッピング利用世帯が全体の50%を突破した。
「そもそもデジタル化はパーソナライズや口コミによる集合知など、顧客にとってプラスになる要素が多く存在しますので、顧客のことを考えればデジタルシフトは急ぐべき事項です。現在の状況が、施策の前倒しを決断するきっかけとなった企業も多いのではないでしょうか。
また、双方向に密なコミュニケーションがかなうインフラが普及したことで、SNSなどを利用した個人の情報発信も定着しています。とくに口コミは、ECやマーケティングに欠かせないツールとなりつつあり、インフラとテクノロジーの進化によってチャットなどのリアルタイムコミュニケーションも充実しています。今は過渡期ではありますが、この動きには期待しています」(山﨑氏)
3. 新たな消費の主役として台頭するZ世代
90年代後半以降に生まれ、子どもの頃からデジタルに慣れ親しむ「Z世代」が年齢を重ねて近年消費者として台頭してきたことも、CXの変容を加速させている。アメリカでは2020年時点で総消費の4割を彼らが占めるというデータもある。大量消費やバブルの時代を知らないZ世代は購買に対して慎重で、検討中のプロセスも重視する傾向があると言われており、いわば「sweet deal」な購買を好む世代がメインの購買層になりつつある。
「Z世代を中心とした消費者に響く施策を考えるにあたっては企業トップだけで意思決定をせず、さまざまな視点から新たなマーケティング施策を模索する必要があります。CXの変容や世の中の流れを踏まえながら、提供するサービスやメッセージの届けかたを考えることが求められます」(山﨑氏)
レビュー・Q&AによるECサイトのメディア化が成功の鍵に
前述した3つの要素を踏まえた上で、マーケティングにおいて山﨑氏が着目しているのは、「レビュー・Q&A」だ。TwitterやInstagramなどに代表されるSNSの普及により、誰もが情報発信を行いやすい時代になり情報は爆発的に増加したが、大量のデータに慣れ親しんだZ世代は広告を見抜き情報の質を瞬時に判断すると言う。
「ハッピーなカスタマーは最高のマーケター」と山﨑氏も語るように、情報が溢れる現代において顧客によるポジティブなレビューは、検討時に安心感を与え購買を大きく後押しする。
海外の事例では、レビューが10件増加するとCVRが1.5倍、50件増加するとCVRが2倍になるといった結果も出ている。実際に消費者の視点に立って考えても、レビューがまったくない商品とレビューが100件ある商品であれば、後者のほうが安心に感じられるだろう。
なおローカル検索ではレビューの親和性がより高い傾向にあり、たとえばGoogle マップ上には、レストラン・食料品店・医療・衣料品店・ホテルなどのレビューが多く掲載されている。また、PayPayでは「近くのお店」という機能から利用可能店舗を検索したりレビューの閲覧ができたりと、地図とレビューの連携が利便性を高めている。
「かつてペイドメディア・オウンドメディア・アーンドメディアといった切り分けがありましたが、今はそのような垣根もなくなりつつあり、EC全体がよりソーシャルになっていると言っても過言ではない状況です。たとえば、膨大なレビューデータを有するAmazonは一大オウンドメディアでありながらアーンドメディアであり、そしてソーシャルメディアとも言えます」(山﨑氏)
口コミ・レビューというコンテンツはSEO対策にも効果があり、多くの消費者にとって信頼性の高い情報として目に触れる機会を生み購買を後押しする。実際にアメリカのAmazonでは、Google検索でヒットしたレビューをきっかけに流入する顧客が7割を占めていると言う。
以前は企業からの一方的な情報発信であったものが近年双方向へと進化したことで、顧客とスタッフ、または顧客同士でコミュニケーションが行われている。Appleウェブサイト内の製品について質問ができるサポートコミュニティでは、メーカー担当者のみならずAppleユーザー同士で教え合う場として機能している。購入を悩む人が質問を投げかけ、「買ってよかった」と感じている人が回答することで購入前の不安を解消し、質問のやり取りを通して自然な形で購買意欲を喚起できる。
「メーカーのスタッフが商品に詳しいことは当然ながら、マンパワーでは消費者のほうが優れていると言えるでしょう。顧客がレビュー・Q&Aを通してほかの顧客やスタッフとつながることで、通信が双方向となりレビューも双方向になっていく。これを実現できれば非常にユニークなメディアとなるはずです」(山﨑氏)
快適な購買体験を提供する「ZETA CX シリーズ」
今後Z世代の年齢が上がるにつれ、レビューはさらに重要視されていくと考えられる。消費者は企業が発信する情報よりも、3倍から5倍ほかの消費者からの情報を信頼するという言説もあり、顧客と強固な関係性を築くことが今後より重要な要素となることは間違いない。
山﨑氏は「過渡期である以上、ノイズとなる評価やフェイクレビューも存在することは事実だが、いずれは淘汰されていくはず。テクノロジーの進化でレビューは消費者に対してより便利な情報源となっていく」と語り、MarkeZineに掲載されているサンエー・ビーディーの事例記事を紹介。同事例では、ネガティブなレビューを懸念していたものの導入後およそ2ヵ月間で半年のレビュー目標件数をクリアし、レビューの有無でCVRに180~250%もの差が出た商品もあったと言う。
山﨑氏は、ここで改めてCXを変容させた3つの要因として「スマートフォンの登場による消費行動の変化」「コロナ禍で加速するDX」「新たな消費の主役として台頭するZ世代」を挙げ、これらは相互に関与していると述べた。OMOについてもECと店舗のシナジーを出していくことが重要であると強調した。
そして、これらを実現するサービスとして山﨑氏は「ZETA CX シリーズ」を紹介。
レビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」をはじめとし、年間950億クエリを処理するEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」、OMO・DXソリューション「ZETA CLICK」について解説した上でこのように語った。
「2020年の日本におけるECサイトの総流通額は15兆円と言われていますが、ZETA CX シリーズの導入事業者全体の流通額が約2兆円に到達しており、今後もシェアを獲得していけるよう製品の改善、新しい価値の提供を継続して行っていきたいと考えています。興味のある方はお問い合わせいただければと思います」(山﨑氏)
なお、セッションの終盤では聴講者よりチャット経由で寄せられた質問に山﨑氏が回答。高単価商材がレビューに与える購買への影響についての問いには、「家や車など、ライフイベントに与えるインパクトが大きく価格の高いものほどレビューの重要性は高まる」と答えた。「Z世代は人口としてはマイノリティーではないか」という問いかけに対しては、次のように回答した上でセッションを終えた。
「人は1年ごとに必ず歳を取ることを踏まえると、Z世代も年々経済力を持つようになり、消費層のマジョリティーと化していきます。また、X世代・Y世代・ミレニアル世代も世の中の流れに沿ってデジタル化を受け入れていくと考えられるため、今後はこうした動きを見据えたマーケティング施策を講じる必要があると言えるでしょう」(山﨑氏)