ECシステム選定の基準は「売上規模×特殊性」 コマース21に聞く
コマース21は、創業から19年の歴史を持つECサイト構築ソリューション開発・提供会社だ。アダストリア、コメ兵、トイザらス、ディノス、ミズノをはじめ、国内の大規模ECへのシステム導入実績は300社を超える。2016年にヤフーの傘下に入ったこともあり、その動向が注目される存在でもある。
新規事業としてECを始めるのはもちろん、オムニチャネルなど時代の変化に対応していくため、ECサイトのリプレースを考えている読者も少なくないはず。一方、無料のASPカートから海外製のパッケージ、フルスクラッチ構築まで、選択肢は幅広い。自社にとって最適なECシステムを選ぶには、どのような基準で考えればよいのだろうか。
コマース21で、あまたの事業者からヒアリングを行ってきたセールス&マーケティング部 部長の小山守弘さんによれば、同社では「売上規模×特殊性」を独自の指標として事業者を4パターンに分類し、ECシステム選びのアドバイスを行っていると言う。
小山 まずは「モール卒業組」です。Yahoo!ショッピングなどのモールに出店し、順調に成長してきたので、自分たちで直接お客様との接点を持ちたいと考え、自社ECを持とうという方たち。ECの年商が1億円以下のところが多いので、システム間のデータのやりとりはCSVでダウンロードしてアップロードするなど、手作業で十分間に合います。在庫は一元管理せず、モールごとに持っておくやりかたで問題ないでしょう。よってECシステムは、ASPやSaaSなど、サーバーも含めて提供するいわゆる「カート」を選択されるケースが多いです。自社に開発者がいらっしゃるのであれば、オープンソースの製品を使って構築するケースもあります。
次に「中堅ECタイプ」です。ECの年商は10億円規模まで。ここまでくると運用が手作業では追いつかないので、システム間の連携が求められてきます。さらに、MAなどのマーケティングツールと連携してさまざまな施策に取り組みたいというご要望も出てくるため、外部連携の仕組みが必須です。「モール卒業組」に適したASPカートは、基本的な機能を広くカバーしているのですが、外部連携に制約があるケースが多いです。「中堅ECタイプ」に適したシステムは、カートであれば高機能なSaaSか国産のパッケージがオススメです。
そして「大規模ECタイプ」。年商10億円以上からここに分類しますが、当社のお客様には自社ECだけで100億円以上あるような規模の企業様もいらっしゃいます。「中堅ECタイプ」以上に、さまざまなシステム連携が必要となり、スピード感、セキュリティ、安定運用などがより高度な基準で求められます。オムニチャネルをお考えで実店舗をお持ちの企業様もここに含まれ、たとえば会員・ポイント・POSデータとの連携のご要望をいただいています。この規模になってくるとECシステムは、オーダーメイドのカスタマイズ構築や、海外製の高機能パッケージを大手SIerに構築してもらうといった選択肢になります。コマース21も、このフェーズの企業様からご相談いただくことが多いです。
最後に「特殊タイプ」です。求める要件が特殊であればあるほど、ふさわしいシステムが見つかりにくいもの。たとえば、グローバルで共通のシステムを使いたい、日本語と英語に加えて中国語やヨーロッパ各地の言語にも対応したい、企業間でやりとりをするBtoBの受発注システムに使いたい、リユース業を営まれていて、買取システムと連携して一気通貫のシステムを構築したいといったご要望をいただいた経験があります。「大規模ECタイプ」同様、カスタマイズ構築や海外製パッケージという選択肢になりますが、課題としては費用が高額になったり、カスタマイズを積み重ねても日本の商習慣に合わなかったりする場合があること。どうにかならないかと、コマース21にご相談いただくことも多いです。
いずれのタイプにおいても共通するのは、ECシステムは他の業務システムに比べて、トレンドのサイクルが短いということ。時代の変化に対応するスピードが求められます。もちろん、すべてのEC 事業者が最先端の取り組みを行う必要はないと思いますが、「大規模ECタイプ」フェーズにあるたとえば若年層向けアパレル企業では、いち早くスマホに最適化したほうが売上や会員囲い込みなどの先行者メリットを享受できたわけです。一般的なカートやパッケージでも新しい機能は随時バージョンアップで対応されますが、いち早く自社で取り入れたいと考えた時にパッケージのバージョンアップを待たなければならないと、どこよりも早く対応するのは難しいですよね。そういった場合はスピード最優先でカスタマイズ対応することも考えられます。一方で、ECシステムをカスタマイズするだけが対応方法ではありません。最近のマーケティングツールは、ある分野に特化した良いものがたくさん出てきています。そういったトレンドツールと連携しやすいというのも、ECシステム選定基準のひとつになるのではないでしょうか。
マイクロサービスで、部分ごとにリプレースするという選択
「大規模ECタイプ」「特殊タイプ」のような大規模ECをリプレースするには、スクラッチ開発、海外製パッケージ、コマース21のようなECシステムが適していると話してもらった。さらに具体的に、どのようなポイントを押さえておけばいいのだろうか。製品技術部 部長である村松さんに聞いた。
村松 大規模ECの特徴として、数々の競争相手がいる中で現在の売上や地位を築いてきたわけですから、これまでもさまざまな変化に対応し続けてきたはずです。その結果、レガシーなECシステムが複雑な状況になっている可能性が高いです。一方で昨今のトレンドとして、マイクロサービスやAPIベースのアーキテクチャが謳われています。マイクロサービスとは、個別に開発された小さなサービスを組み合わせて大きなシステムを構築するというもの。あるひとつのサービスに手を加えても、他の部分への影響が少なく、該当部分以外を作り直さなくてもよい点が優れています。レガシーなひとつの大きな塊となっていたECシステムから、機能ごとに細分化したサービスに置き換え、リプレースしていく方法を取ることができます。
マイクロサービスにはもうひとつ、スケーラブルであるというメリットもあります。処理するデータ量に合わせて、対応するコンピュータのスペックや台数を伸縮できるということです。ECで言えば、夏・冬のセールやSNSの投稿などでピークを作り出すでしょうから、必ず波がある。その場合に、ピーク時にあわせてシステムのスペックをキープするとコストが膨大になるため、波にあわせて調整するのが一般的です。もちろんコンピュータを増やせば無尽蔵にデータを処理することはできますが、費用対効果を考えた場合、一台あたりの処理能力が高性能であることも検証する必要があります。そのためにも、規模を問わずさまざまなECを構築し、トラフィックをさばいてきた経験が不可欠です。
また変化に対応しやすくするために、事業者自らソースを直すことができたり、構築ベンダー以外のパートナーでも保守を引き継ぐことができるなども大切ではないでしょうか。内製化を視野に入れる必要もあるでしょう。そのためには、国内開発ベンダーのサポートが必要ですので、国内開発のシステムが適しているのではないかと思います。また良い意味で歴史のあるベンダーは、長年の経験値をシステムに詰め込んでいますから、それも判断軸に加えるといいかもしれません。
そして昨今のシステムの特徴のひとつとして、様々なオープンソースソフトウェアによって開発されているという点が挙げられます。それらの保守サポート切れなどにより本体システムのバージョンアップや、システム全体のリプレースが必要になることもあります。この点を考慮した製品ライフサイクルになっている製品を導入していただければ、EC 事業者の方は長期にわたり、安定して使っていただけると思います。
大規模ECのリプレース、システム面でおさえておきたい7つのポイント
- 変化への対応が容易なマイクロサービスであること
- 必要な性能と規模にあった製品であること
- 実績、ソース公開
- 国内のサポートが手厚いこと
- 開発経験者が国内に豊富であること
- 大規模ECサイト構築の貴重な経験を継続的に詰め込み、製品開発に努めていること
- オープンソースソフトウェアの更新、Javaの新バージョンへの対応、継続的にぜい弱性への取り組みを行っていること
将来を見据え、ありたい姿のECを描き、システムと開発会社を選ぶ
ECサイトリプレースの際のシステム選びの基準と、さらにシステム面で留意したいことについて聞いてきた。おふたりが所属する、コマース21の特徴とは。
小山 ECシステムの選びかたとして、客観的な視点でのポイントをご紹介しましたが、やはり、お客様が何をしたいのかが非常に重要だと考えています。それも、直近の売上よりも将来を見据えて、ECの売上をどの規模にしたいのか、マーケティングツールや他の業務システムとの連携をどこまで視野に入れているのか、実店舗も含めた在庫や会員の管理などはどのようにしたいのか。ここを明確にしなければ最適なシステム選定は難しいと思いますので、コマース21では徹底的にヒアリングを行い、お客様に寄り添って解決していきます。
そして「特殊性」について。矛盾するようですが、一般的に特殊だと思われるような要件が、コマース21ではそれほど特殊ではなかったりします。1999年から19年にわたってECシステムをやってきており、10年以上使っていただいているお客様もいらっしゃいます。そういった歴史ある大規模サイトのご要望に長年お応えしてきた実績があるため、「やったことがない」ことが非常に少ないのです。基幹システムとつなげる、実店舗のPOSと連携するといったことが注目された時期もありましたが、そういった大規模EC 事業者の方が望まれることは、大抵経験値を持っていますので、安心してご相談ください。
村松 コマース21では、製品としてECシステムを提供しているだけでなく、自社でECサイトの構築も行っています。よって、なにか新しい機能を作ったらまず自社で試し、そこで得られたノウハウや課題を製品にフィードバックするということが可能です。仮説でシステムを作り、お客様のサイトを作ってみたらうまく動かなかったといった事態に陥ることはありません。また、先ほど申し上げた内製化についても、自社で構築している体制は強みになるのではと考えています。
最後に、2019年も見据え、今後のトレンドとそれに対し、コマース21がどのように取り組んでいくのかを聞いた。
小山 当社がパッケージを提供し、外部のSIerや制作会社さんにそれを使って構築していただく、パートナーとの取り組みを増やしていきたいと考えています。2018年4月に、ECシステムの新しいバージョンをリリースしたのですが、村松が申し上げたマイクロサービスの考えかたで作られており、パートナーの皆さんも開発しやすく、また、トレンドにのっているので魅力的だと感じていただけているようです。パートナーの中には、アプリ開発会社さんもおり、ECも含めトータルで提案したいというお話もいただくので、これまでになかった展開をお見せできるのではないでしょうか。2019年のEC 業界は、在庫、会員、ポイントなど、リアルとの連携がますます進むでしょう。大規模なECであっても、まだまだモールの比率の方が高かったり、ID 連携が進んでいないところは多いです。2019年はそうした企業も実施フェーズに入り、オムニチャネルが当たり前になっていくのではと見ています。