カスタマーエクスペリエンスに基づく #グロースハック @TataCLiQ
続いて、2社めのユーザー事例セッションのスピーカーとして、インド最大手のタタ・グループのTataCLiQからSauvik Banerjjee氏が登壇。
TataCLiQは、フィジカル(実店舗)とデジタル(オンラインストア)を組み合わせたオムニチャネルマーケット「フィジタルマーケットプレイス」として展開。現在はインド国内でニューデリーやムンバイなど、100万人以上の顧客にサービスを提供しており、ファッション・家電の分野で160種のブランド、2,000点の商品を扱っている。Banerjjee氏は、自らこのマーケットプレイスを「ユニークだ」と評する。
TataCLiQが生まれた背景には、消費者はどのくらい実店舗に行くべきか、どのくらいオンラインストアで購入すべきか、混乱している現状がある。そして、とくに自分たちの強烈なアイデンティティを持つ高級ブランドは、Amazonなどのオンライン上のショッピングプラットフォームで行われる大幅な値引きを良しとはしていない。こうした状況下で、インドで150年の歴史を持つタタ・グループが、オンラインストア業界に参入するに際し、従来のプラットフォームとの大きな差別化ポイントを3つ設けることにした。
「ひとつは、ブランドに特化すること。よく知られたラグジュアリーブランドのほか、ほかのオンラインプラットフォームには出さないけれど、TataCLiQだけには出店しているデザイナーもいます。もしセールを行いたい場合は、ブランド主導で行えるのもTataCLiQの特徴です。
次に、真のオムニチャネル・プラットフォームとすること。フィジカルかつデジタルなプラットフォームを作ることで、消費者はどちらをも頻繁に行き来するようになると考え、実際にそうなっています。TataCLiQでは倉庫を持たず、すべて店舗から配送される仕組みをとっています。裏側には、Uber式のアーキテクチャがあり、オンラインからオーダーが入ると、配送先からもっとも近い店舗がそれを処理することになります。また消費者は、オンライン上で購入した商品の返品・交換を、最寄りの店舗で行うこともできます。
最後に、モバイルに特化すること。現在インドでは、約10億人がスマートフォンを使っていますが、今後は、生まれたときからスマートフォンだけを利用するユーザーが次々と登場してくるためです」
TataCLiQは、ラグジュアリーブランドに特化した「Tata CLiQ Luxury」も運営。35~60歳の消費者をターゲットとしており、高級ブランドの世界観を好み、実際に購入することができる層に特化している。ターゲットを絞ったマーケットプレイスを展開し、そこで一定の成果を上げてから、次のターゲットへのビジネスを展開していこうという考えかたである。
このようにユニークなTata CLiQの「カスタマーエクスペリエンス」の考えかたとは。
「カスタマーエクスペリエンスをどのように計測するのか。NPSや顧客満足度も重要ですが、我々は『カスタマーオブセッション』を指標にしています。具体的には、お客様がオンライン上で商品を見てから、実際に購入し、使用し満足したか、返品・返金になった場合など、計10個のデータポイントがあります。このポイントを、オンライン/オフラインあわせて分析できるのが我々の強みです。
これにより、Tata CLiQは次世代のオンラインストアとしてベンチマークされる存在になっています。10月10日に大きなセールを行いましたが、1日で570都市からオーダーを受け、通常の日の3倍のオーダー数となりました。その日のNPSは50となっています」
続いて、カスタマーエクスペリエンスを語る上で欠かせないパーソナライゼーションについて。TataCLiQでは、SAPなどの協力を得て最先端の取り組みを行っていると言う。
「パーソナライゼーションは、100億のSKUを持つストアにはできないでしょうし、1本のミネラルウォーターのような商品をレコメンドする際には不要です。しかし、TataCLiQのように高級ブランドを扱っている場合には必要になります。我々のレコメンデーションフレームワークは、匿名ユーザーとログインユーザーに分けていますが、ログインユーザーにレコメンデーションを行っています。たとえば、ムンバイに住んでいる男性が、あるブランドの時計についてネットで情報を調べ、TataCLiQに戻ってきた際には、そのブランドのカタログからレコメンデーションを行います。TataCLiQでは、個別のお客様ごとに、たとえば午前9時~12時には何をレコメンデーションするべきかがわかっています。
閲覧履歴、検索履歴、購入履歴からレコメンデーションを行うのはもちろん、ディスカバリーも重要です。たとえば冬の季節には、デリーは寒くても、ムンバイは暖かいということもあります。ムンバイからデリーに出張する人に、ジャケットをレコメンデーションしたらどうでしょう。こういったレコメンデーションを行うには、AIが必要になります。我々は予測、ニューラルネットワーク、天候などのデータも駆使し、何百万というパーソナライゼーションのセグメントを持っています。
検索のパーソナライゼーションも重要です。検索をしている瞬間は、お客様の期待がもっとも頂点に達していますから、その瞬間に最適な結果が出せなければお客様は離脱してしまいます。この件に関しては、SAPやGoogle等と一緒に取り組んでいます」
Banerjjee氏は、TataCLiQのようにリアルタイムにパーソナライゼーションを行う巨大なオンラインストアは、365日24時間休むことができない、まるで株式市場を運営するようだと表現。かかわるシステムも、フロントのECサイトやマーケティングだけでなく、決済や物流など多種多様であり、複雑に絡み合っている。それを支えているのが、SAP Customer Experience、SAP Analytics Cloud、SAP S/4HANAといったシステムであり、今後新たなシステムを追加しても柔軟に対応できるだろうと評価した。
最後に、オムニチャネルの今後と理想形について次のように述べ、講演を締めくくった。
「インドにはたくさんのお祭りやイベントがあり、その際にはブランドの実店舗に長い列ができます。そこで商品を実際に手に取り、注文すると、自宅に届くという取り組みに挑戦しているブランドもあります。消費者は、ネットで日々情報を見ています。その商品について店舗に行く前からよく知っているため、その場ですぐに購入を決めるのです。
このように、お客様がオンラインとオフラインを頻繁に行き来することが、オムニチャネルの理想形ではないでしょうか。我々はそのための機能を多数提供しており、ブランドも積極的に利用し、『フィジタルマーケットプレイス』は好評を得ています。この先2年間をかけて、このプラットフォームをますます拡大していきたいと考えています」
個客を掴む!デジタルマーケティング主導でのビジネスモデル変革
次のセッションでは、レイヤーズ・コンサルティング 佐藤隆太氏が「個客を掴む!デジタルマーケティング主導でのビジネスモデル変革」をテーマに講演。デジタルテクノロジーを駆使して事業全体視点からビジネスモデルをデザインしていく上でのマーケティング&セールス変革のポイントについて、最新の事例や取り組みを紹介した。