マーケティングに革新を起こす、EC推進プロジェクトの勧め
6つめのセッションには、アビームコンサルティング 本間充氏が登壇。まず本間氏は、日本のEC化率について言及。伸びていると言われるEC化率だが、経済産業省の「電子商取引実態調査」によれば、B2C-ECのEC化率については2017年で5.79%。B2C-ECは大きく、旅行や金融等の「サービス系分野」、デジタルコンテンツの「デジタル系分野」、実際のモノの売買である「物販系分野」に分けられているが、物販系はほかふたつと比較して伸びが鈍いのが実態である。
この伸びの鈍さの原因のひとつとして、「企業が考えるECと、顧客が求めるECがマッチしていない」ことがあるのではと、本間氏は指摘する。
それが顕著に現れているのが、Amazonの売れ筋商品だ。トップ10を見れば、実店舗ではあまり見かけない商品が上位を占めている。また、たとえばビールを購入する場合、ECでは箱買い、実店舗ではめずらしい新商品を試してみるなど、場所によって購買行動は異なる。
「これまでオムニチャネルを考える際に、『すべてのチャネルで同じ商品を届けなくては』という発想でいましたが、顧客は、店ごとに品揃えやサービスやコンセプトが違うことを知っていて、使い分けています。企業が考えるECと、顧客が求めるECのギャップはここにあるのです」
こうした状況から、ECは「新しい形態の店舗」であると本間氏。それを意識して「調査・議論・設計」している企業は少ないのではないかと会場に問いかける。
「しっかりとコンセプトが設計されていないから、そのECが何なのか、よくわからない。よくわからないから顧客は利用しないわけです。さらには昨今、顧客は『ECでしかできない体験』を求め始めています」
では、顧客が望むECとはなんなのだろうか。本間氏は、「楽天を好む方とAmazonを好む方がいるように、顧客によって求める理想のEC像は異なる」と言う。そして今や顧客は、従来のマーケティングで用いられていた「年齢」や「性別」といったセグメントで区切ることはできない。わかりやすい例をあげれば、フィギュアスケートの羽生結弦選手のファンには老若男女さまざまいるが、彼らは皆、羽生結弦選手にちなんだ商品には関心を持つのである。
「たとえばGoogleは、検索やウェブの閲覧履歴からそれを知っています。そういったデータを、僕たちは活用すればいいのです」
一方で、デジタルが登場する以前からフィールドワークの顧客観察は行われていたと本間氏。デジタルはあくまで、アナログ時代からあった顧客観察の精度を上げるために使うもの。かつ、顧客がオムニチャネル化しているので、旧来型のアナログな観察だけでは企業側が追いつけないため、デジタルを活用するべきなのだ。
「デジタルで顧客とダイレクトにつながることができるようになった今、直接顧客に尋ねればいいのです。今の顧客は、あるときは消費者だけれど、あるときはビジネスパーソンでもある。自分が好きな企業には、伸びてほしいと思っている。巻き込まれたいのです。先に述べたECサイトの設計においても、社内で議論する以前に、顧客に尋ねてみる必要があります」
ひとことで言えばデジタルとアナログの融合だが、その成功例として、ディノス・セシールが行う「カゴ落ちメール」ならぬ、カートに入れたままサイトを離脱した際の商品のレコメンドがハガキで届く「カゴ落ちDM(実際のハガキ)」を紹介。「カゴ落ちメールが届くと、たいていの場合削除しますよね? それを知っているから、彼らはDMで送るわけです。顧客から見ても、自分にあった情報が届くのはうれしいですよね」
そもそも顧客理解はマーケティングの基本であるが、ECは「IT」の意識が強く、サイトの仕様の話に終始するビジネスの進めかたが蔓延していたと本間氏。それにより顧客がECを求めているものの、ギャップが生まれ、現在のゆるやかすぎるECの成長になっているのではないかと言う。それを変えていくためにも、EC/オムニチャネルの設計においても、まず顧客理解からはじめて欲しいと述べ、講演を締めくくった。
JRキューポを活用したJR九州グループCRM・データマーケティングの実践
最後のセッションには、九州旅客鉄道の相良周平氏が登壇。同社では、社内で別々に運営していた3つのポイントプログラムを「JRキューポ」に統一。そのデータを活用したグループでのCRM・データマーケティングの取り組みについて講演を行った。
相良氏が講演を終えると、SAPジャパンの高山氏が登壇。最後の挨拶を述べ、イベントは閉幕となった。
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