B2B企業 vs B2C企業のカスタマーエクスペリエンスに対する取り組み
オープニングセッションは、「B2B企業 vs B2C企業のカスタマーエクスペリエンスに対する取り組み」をテーマにパネルディスカッションが行われた。B2B企業からは横河電機 阿部剛士氏が、B2C企業からはベイシア 竹永靖氏が登壇、SAPジャパン 高山勇喜氏がモデレーターを務めた。
ベイシアグループは、スーパーマーケットのベイシアやホームセンターのカインズ、作業服を扱うワークマンなどを展開しており、グループ全体で約2,000店舗、年間8,000億円の売上高を誇る小売業である。グループのITに関する業務を一手に担うのが、竹永氏が所属するベイシア流通技術研究所だ。B2C企業の代表として登壇した、ベイシア流のあるべきカスタマーエクスペリエンスとは。
「ホームセンターのカインズでは、日用雑貨を買いに来られる主婦の方たちの割合がもっとも多く、週2~3回という高頻度で来店されています。一方で、農業資材や工業資材をお仕事で購入されるB2Bのお客様もいらっしゃいます。当社ではお客様を数十種のパターンに分類できると分析仮説し、それぞれのお客様にあったタッチポイントで、カインズにしかできないエモーショナルな体験をしていただきたいと考えています。
B2Cのお客様にとってのあるべきカスタマーエクスペリエンスとは、日用雑貨のお買い物であれば定期購入モデルであるとか、購入した材料で作ったお料理やDIYをSNSでアップされたい方には『場』を提供するであるとか、収納用品やインテリアを探しに来られる方にはお部屋にあうものをARやVRを駆使してオススメするといったことが考えられます。
B2Bのお客様は『今日の仕事にこれが必要だ』というものを求めて来店されるため、カインズの1万平方メートル以上の広い店舗、10万SKUの中から、ご所望のネジをすぐに見つけて差し上げなければならない。それがベテランのスタッフでなくてもできるよう、AIを活用するなどしてサポートしていく必要があると考えています」
横河電機は、プラントの生産設備の制御・運転監視を行う制御分野のリーディングカンパニーとして知られ、計測機器や航空関連機器なども提供する。2017年度の売上高は4,066億円、社員の6割が日本以外の国籍を持つグローバル企業だ。阿部氏は同社に約2年前に入社、マーケティング本部長を務める。
「売上の9割をプロセス・オートメーション事業が占めていることに危機感を感じ、変革を起こそうとしています。その一環としてカスタマーの定義も変更し、従来の発注者から、『社内・外、直接的間接的にかかわらず、お互いに影響を及ぼし合って新しい価値を創造できる対象』としています。これに当てはまるのであれば、たとえば人間に限定せず、動物だって顧客になりえます。
この定義のもと、あるべきカスタマーエクスペリエンスを考えると、重要なポイントである『購買』の意味が変わってきています。B2Cほどではないかもしれませんが、B2Bであっても『購買』が『自己表現』になってきている。たとえば、横河電機のプラントを購入することによって、CO2を何%削減できるから選ぶといったことです。当社としては、クライアントにどのような自己表現をしていただくかを製品の開発に取り入れ、カスタマーエクスペリエンスを考えるようにしています。
とくに注力したい分野として、農業や漁業のような第一次産業を将来第六次産業に昇格したいと考えています。俗に3Kと言われるこの分野を、ICTなどのテクノロジーを使うことによって、農業をやりたい、漁業をやりたい人が増えるようにしていきたいのです」
先進企業であっても、あるべきカスタマーエクスペリエンスに向かって、一歩ずつ歩を進めているのが現状だ。その中途のステップについて、詳しく述べてほしいと高山氏は水を向けた。
「課題のひとつに、お客様のことをよく理解できていないということがあります。今でこそカメラやセンサーのようなテクノロジーが出てきていますが、これまでは実際に来店し、購入していただかないとデータが取得できませんでした。また、販促には新聞の折込チラシなどに莫大な金額を投資していますし、現時点でもやめると売上に影響します。こういったレガシーな状態から、デジタルトランスフォーメーションを起こしていかなくてはなりません。システム的には、AsIsで継ぎ接ぎしてスパゲティ状態になってしまっているものを一度壊して、ToBeの視点からどうするべきかを考え、外部の力を借りながら取り組んでいます。
先程、お客様を数十種類に分類できるかもしれないと分析したと述べましたが、その分析を外部コンサルティング会社の力を借りずに自社内で行っています。なぜなら、災害がありそうだからブルーシートが売れる、実はネジと発泡酒がセットで売れているといったノウハウを持っているのは、店舗のスタッフだからです。このノウハウを活かすためにも、さらなるデジタル化を進めていかなくてはと考えています」(ベイシア・竹永氏)
「100年の歴史を持つ企業ですから、埋めなくてはいけないギャップばかりですが、代表的な3つをあげると、ビジネスモデル、デジタルトランスフォーメーション、マーケティングです。
ビジネスモデルについては、お客様が変化していることが大きいです。従来は、お客様自身が5年先、10年先はこうなるであろうというシナリオをプランニングし、サプライヤーはそれを実現するためのモノを提供していました。しかし先が読めない時代になり、シナリオが描けなくなっている。お客様から、シナリオの提案を求められています。ほかにも、B2Bは対面営業が大好きでしたが、事業を拡大するほど回りきれなくなりEコマースをやる必要が出てきた。その都度の販売でなく、サブスクリプションも求められています。
デジタルトランスフォーメーションは、どの企業にも共通する課題だと思いますから説明を省き、3つめのマーケティングについて話したいと思います。基本的に日本の会社は、いいものを作れば売れた時代が長いので、マーケティング部門の地位が低いし、やりかたを知らない。B2B企業ではなおさらです。そんな状況下で私は2年前に横河電機をマーケティング企業にするために入社したわけですが、従来のマーコムやブランディングといった典型的なマーケティング部門だけではなく、横河電機としての新規中期・長期事業計画立案、R&D部門や新事業開発、M&A、アライアンス部門、さらには特許室、戦略的世界標準、工業デザイン室などを配下に置いてもらいました。なぜなら、私にしてはこれらすべてマーケティング資産で、そうしなければVUCAワールド時代の変化のスピードに追いつけないからです。クライアントに製品やサービスなどのプレゼン資料だけでなく、横河電機としてのビッグ・ピクチャーやそのアイディアを具現化したもの(PoC)を作り、実際に具現化して示さなければ話にならなくなってきた。私のような外部から来た人間も役員にし、組織も変えて、会社を変えていく。そこまでしなくては、数年後に横河電機はないかもしれないという、代表の考えによるものです」(横河電機・阿部氏)
両者からデジタルトランスフォーメーションというトピックスが出たこともあり、B2B、B2C問わず共通する課題があるのではないかと、高山氏はふたりに意見を求めた。
「阿部さんのお話を聞いていて、つくづくトップダウンが重要であること、そして日本人が苦手なPoCをどれだけ早く回せるかだと感じました。当グループが地域のお客様に支えられて売上8,000億円まで成長したのも、ものすごい安全経営だったからであり、視点を変えるとあまり冒険してこなかったからです。しかし、ライバルは日本のホームセンターだけではなくなっている。トップ自らが海外視察に行くことで、たとえばロボットがスーパーの在庫品出しを検知しているのを見て衝撃を受け、早期にデジタルトランスフォーメーションを行っていかなくてはならないと動くようになりました。もっと一生懸命デジタルを活用しないと、海外ベンダーから見て日本市場のために自社のソリューションをローカライズする必要がどこまであるのかと思われてしまう。するとシステム的にも遅れをとり、海外のライバルに太刀打ちできなくなってしまいます」(ベイシア・竹永氏)
「竹永さんのおっしゃるとおりで、B2B,B2Cの共通の課題として、ITを使いこなさなくてはいけないというのがあります。それも、守りでなく攻めのITです。日本の場合、個人の生産性や効率を上げるといった視点で投資しがちですが、欧米企業の場合はITを使ってどういう価値を生むか、ビジネスモデルを変革するかの視点で投資します。顧客満足がよく言われますが、満足させて50点、あとの50点はどういう価値を提供するかです。そのためにはリスクをとらないといけないし、そういうITの使いかたに変えていかないといけないと思います」(横河電機・阿部氏)
このパネルディスカッションの内容を受け、モデレーターを務めたSAPジャパンの高山氏が、7月25日に発表した、CRMを刷新する新しいアプリケーションスイート、SAP C/4HANAの詳細を解説する「全てのボトルネックを排除し、最良の顧客体験を実現するC/4HANAのご紹介」と題し、講演を行った。