無人コンビニ、学ぶべきはAmazonより中国
オムニチャネルを学びに、毎年どこかしら海外に視察に出かける逸見さん。2018年は、中国とヨーロッパに出かけるという。
「これまで、オムニチャネルなどECやデジタルマーケティング関連の視察といえば、アメリカでした。シリコンバレーを中心にテクノロジーは進んでいますし、Uberのように実際に使いPDCAを回すのも早いです。世界中から優秀な人材が、ひと旗あげようとアメリカに集まってきていたのも大きいと思います。しかし今や、テクノロジーひとつとってもフランスやイスラエルも先進国ですし、EC化率が一番高いのはイギリスです。そして、Amazonで話題になった無人コンビニは、中国では以前から取り入れられていました。そろそろアメリカ一辺倒から、どういった環境からそのテクノロジーが生まれ、それをどう使うと企業や顧客にメリットがあるかという視点で、海外視察に出かけるべきだなと考え始めました」
話題の無人コンビニを例に、さらに詳しく説明してもらおう。
「Amazonの無人コンビニは、大きくふたつ目的があります。ひとつは、アナログな実店舗において、いかに顧客のデータを取得するかを考えていること。AmazonBooksでは、おそらくアプリを立ち上げることでログをとっていますよね? それにより手に取ったけど買わない理由が見えてくる。価格か、パッケージか、ネーミングか。つまりマーケティング視点での研究を行っているわけです。なぜならAmazonは単なる小売ではなく、クラウドサーバー、ペイメント、マーケットプレイスといったプラットフォームの事業者だからです。
Amazonが無人コンビニをやるもうひとつの理由は、顧客至上主義を掲げているから。コンビニに入る理由は、急いでいてパッと買いたいから、多少割高でもいいわけです。でも実際のコンビニは、レジ待ちがある。逆に言えば、この不満を解消すれば、そのお店はお客さまに選ばれて儲かる。駅前に並ぶコンビニと並ばないコンビニがあったら、多少の商品の品揃えを気にするよりも、並ばないコンビニに行くでしょう。これがAmazonの顧客至上主義なわけです。一方で日本の無人コンビニの発想は、働き手が足りないからやむなくというものです。こう考えると、アメリカのAmazonの無人コンビニを視察に行っても、学ぶことがないとは言えませんが、参考にならない部分も多いわけです」
一方の中国は、成長しているものの、とくに実店舗を持つ小売企業は、市場の飽和により成長が鈍化していると言う。日本と似たような状況だ。
「中国の老舗企業は、ネット系ベンチャー企業と上手に手を組み、無人コンビニのような取り組みを実現していっています。いま、中国ではテクノロジーを実践し、PDCAサイクルを回すスピードが早くなってきているんですよね。優秀な技術者が、海外で勉強して中国に帰ってきているのも理由のひとつだと思います」
ネット系ベンチャー企業と上手に手を組むために小売企業が行っているのが、インキュベーションオフィスやショッピングセンターの空きスペースを貸し、機会を与えようという取り組みだ。自社だけでイノベーションを起こすのは、既存事業がある以上難しいと考えているのである。
「このやりかたは日本企業も取り入れてはいますが、うまくいかない。その理由として、ベンチャー企業を会社の中に溶け込ませるために、職位を与えたりして、既存の文化を押し付けること。そうすると、『制約が多すぎる』と言って、ベンチャー企業が出ていってしまう。このあたりだけでも中国の小売企業の姿勢を見習うべく、中国に視察に行きたいと考えています」