「Shopify Plus」で成長し続けるブランドの「愚直な努力」に迫る
現在175ヵ国以上に展開し、数百万もの事業者が利用する世界的なECプラットフォーム「Shopify」。2023年の売上高は、前年比26%増の約1兆円にのぼり、順調に成長を遂げている。
そんなShopifyが、世界中の企業に選ばれる理由について、外山氏は「世界中での導入実績」「ECに必要な機能を標準で網羅」「CVRの高さ」「拡張性の高さ」「販売チャネルの豊富さ」「約束された将来性」と、六つの理由を挙げた。
これらに加え、「現在課題となっているファーストパーティデータの活用についても、Shopifyの強みを生かしてサポートできる環境を整えている」と外山氏は強調する。
「多くのEC事業者が意識していると思いますが、プライバシー保護を目的にサードパーティCookieが廃止されると、自社ブランドを知らない新規顧客に対した広告配信の最適化が難しくなります。すると、広告効果の低下は避けられません。ここでより重要になるのが、自社で収集したファーストパーティデータの活用です」
データを使ったアプローチに変化が生じる中でも、成長を続けるブランドの行動の特徴として、外山氏は次の二つを挙げた。
- あらゆる販売チャネルを駆使
- パーソナライズしたブランド体験を追求
「Shopifyが提供する最上位プラン『Shopify Plus』を活用して成功を収めるブランドには、『顧客と適切なコミュニケーションを取って信頼関係を築き、幅広いファーストパーティデータの収集を愚直に行っている』という共通点があります。また、データを活用した特別な体験を施策に落とし込んでいる点も特徴です。Shopifyでは、こうした課題に立ち向かう企業を支援する機能を多数取りそろえています」
Shopifyは、ファーストパーティデータ活用を目指すブランドに向け、最小限のリソースでスピード感をもった施策展開ができる機能や、ブランドの成長に合わせた拡張性を提供している。
「主要SNSやモールをはじめとする、豊富な販売チャネルとの連携機能や、Shopify POSを使ったECサイトと店舗のデータ連携、越境EC、B2Bにも対応しています。
分析面では、直感的操作ができるストア分析機能を備えるだけでなく、メタフィールドを使った独自データの追加や、『Shopify Flow』による施策の自動化などを実現し、スピード感のある施策実施・改善を手助けしています。Shopifyは、ストアをカスタマイズする機能をアプリやAPI形式で提供しており、拡張性が高い点も特徴です」
ここで外山氏は、Shopifyの機能をフルに活用して売上を伸ばし続ける事例として、米国のある医療従事者向けアパレルブランドを紹介した。同ブランドは、2013年からShopifyを導入しているが、約10年の間にEC年間売上高を約2,000万円から約880億円にまで上昇させている。
「同ブランドは、TikTokをはじめとするSNSを活用して顧客と信頼関係を構築し、ファンを増やしていきました。ECと実店舗の連携、越境EC、B2B、パーソナライズした体験提供などにも取り組んだ結果、リピーターも増え、現在はECサイトからのCVR35%以上という高水準を記録しています。
日本ではまだ、『Shopifyはスタートアップ向け』というイメージがありますが、世界に目を向けると、Shopifyで売上規模の拡張を続けるブランドは多く存在します。Shopifyは、それだけの販売ボリュームを支えられるプラットフォームなのです」
最近ホットなのはYouTube Shopping連携 個と向き合うブランド体験構築のポイントとは
次に外山氏は、ファーストパーティデータを活用し、Shopifyで「“個と向き合う“ブランド体験」を実現する方法について言及した。大きく分けると、施策は「Shopify内で完結するもの」「Shopifyアプリを利用するもの」「外部システム連携によるもの」の三つがあるという。
1. Shopify内で完結するパーソナライズ施策
ECサイトで顧客が購買に至るには、大まかに分けても「流入」「会員登録」「サイト回遊」「購入」といったステップが存在する。近年は、ファーストパーティデータ活用やLTV向上の観点から「アフターフォロー(リピート・ロイヤリティ施策)」も外せない。その各所に設けられたShopifyならではの強みを、外山氏は紹介した。
流入接点創出の策として、Shopifyでは前出のように、管理画面上で販売チャネルを選択するだけで様々なチャネルとの連携が実現できる機能を提供している。
「最近ホットなのは、YouTube Shoppingです。アップロードした動画やライブ配信画面の下に関連商品の情報を配置できます。ユーザーが動画を視聴し、購買意欲が高まったタイミングですぐにクリックして購入できる、非常に便利な仕組みです」
各施策を行う上で欠かせない顧客データも、直感的に理解・分析できるダッシュボードを用意している。ダッシュボードでは、チャネル別の売上やパフォーマンスに加え、ベストセラー商品、ソーシャルソース別のセッション数・売上をグラフで表示。新規購入者のリピート率や新規・リピーター顧客への販売比率の可視化やコホート分析、同一カテゴリストアとの比較なども可能となっている。
「顧客セグメントリスト化機能も用意しています。『サブスク登録者』『複数回購入した顧客』など、リストとそれぞれの割合を可視化し、細かなセグメント条件も構文を書けば自由に設定可能です。テンプレートも豊富に用意しています」
パーソナライズする上で必要なファーストパーティデータを収集するには、メタフィールドが有効だ。Shopifyでは「名前」「email」「住所」を標準顧客データとしているが、誕生日や趣味嗜好など、自社が求める項目を自由に設置できる。
「あるエンタメ企業では、会員・マイページ登録時に『お気に入りのキャラクター』を選べるようにしていました。キャラクターを登録すると、次回以降のログイン時にトップページがお気に入りキャラクターを中心としたデザインに変更されます。メタフィールドを活用すると、こうした満足度向上も可能です」
このほかにも、Shopifyにはサイト上での詳細な行動把握を実現する「Google Analytics」「Metaピクセル」との連携機能や、ノーコードでチェックアウト画面をカスタマイズできる「Checkout Extensibility」機能が搭載されている。
「Checkout Extensibilityは、顧客のニーズを深く理解した24時間365日疲れ知らずの優秀な営業担当をチェックアウト画面に配置するようなものです。事前に条件設定さえすれば、会員ランクごとの限定割引や、過去の購入データを基にしたおすすめ商品の提示、誕生日特典やポイント利用の提案など、CVRやAOV(平均注文金額)向上に寄与するオーダーメイドのチェックアウト体験が作れます」
リピート促進やロイヤリティ向上につながるアフターフォローのフェーズでは、Shopify Flowを活用すれば、ノーコードで施策の自動化ができる。誕生日の顧客やアンケート回答者に向けた特典送付や、VIPに向けたシークレットセールの告知など、細やかなパーソナライズのフローをドラッグアンドドロップで可能にする。
「Shopify POSを活用すれば、チャネルをまたいだデータの一元管理もできます。あるアパレル企業では、オンラインからフィッティング予約をした顧客の情報を、店舗スタッフが事前にShopify POSで予習し、接客体験のパーソナライズ化を実現しています。これにより、接客の満足度やブランドに対する愛着を高めることに成功しました。Shopify内で完結させても、アイデア次第で様々なパーソナライズ施策が実行可能です」
Shopifyアプリ・外部システム連携で顧客交流を活発に Francfranc、江崎グリコ事例
2. Shopifyアプリを活用したパーソナライズ施策
Shopifyは、フルファネルサポートを実現すべくShopify App Ecosystemを形成し、「Shopifyアプリストア」を通じて1万以上のアプリを提供している。近年は日本産のアプリも増えており、自社の課題に合ったアプリを活用すれば、より細やかなパーソナライズの実現が可能だ。
外山氏は、日本産のアプリ活用の例として、LINE連携アプリ「CRM PLUS on LINE」を用いた「Francfranc」の取り組みを紹介した。
「同アプリはLINEのID連携促進に役立つ機能や、ID連携後のメッセージ配信機能を備えています。Francfrancでは、LINE連携によって会員登録のハードルを下げながら、顧客データに基づいたセグメント配信を実施し、セッション数を週平均21倍にまで増やしました。顧客の状況に応じたコミュニケーションの好例といえるでしょう」
3. 外部システム連携によるパーソナライズ施策
Shopifyでは、無制限のAPI連携環境を提供し、あらゆる外部システムとのつなぎ込みを可能としている。顧客情報や商品情報管理、マーケティング、定期購入、カスタマーサポートなどと絡めれば、より高度なパーソナライズも夢ではない。
たとえば、データマーケティングツール「b→dash」と連携すれば、顧客・受注データなど、Shopifyで集めたあらゆるデータをb→dash内で加工・統合し、メールやLINE、SNSなどの各種施策や分析に活用できる。
「最近増えているのは、『Shopify Plus』と自社共通ID基盤との連携施策です。共通ID化により、顧客は一つの会員IDで同一企業のプラットフォームを活用でき、ブランドにとっては適切な購買アクションの把握や精度の高いマーケティング活動が可能となります」
既に江崎グリコ株式会社、味の素株式会社、サッカーチームの「鹿島アントラーズ」などがこうした施策に取り組んでいるという。江崎グリコでは、同社が運営する各種サービスを共通IDで利用できる会員・認証基盤「グリコメンバーズ」を提供し、自社ECやファンコミュニティ、工場見学予約など、サイトやチャネルをまたいだ顧客行動の把握を進めている。
エンジニアリング主導でトレンド把握 Shopifyの強さはここにあり
セッションのまとめとして、外山氏はShopifyがエンジニアリング主導の企業であることを強調。Shopifyはグローバルで約8,000人の従業員を抱えているが、半数を上回る4,000人以上がエンジニアとしてコマースにフォーカスした業務を行っている。さらに外山氏は、Shopifyが2023年には年間2,000億円以上もの開発費を投じたことも明かした上で、最後にこう締めくくった。
「Shopifyで働くエンジニアは、マーケットのトレンドに合わせて、どのような機能がeコマースの世界に必要なのか、常に考えながら実装しています。『最小限のリソースで最大限の結果を得る』、そして『ブランドの成長に合わせて機能を拡張する』。Shopifyの一番の強みは、こうした最先端のテクノロジーや機能を取り入れられる環境が手に入る点にあるといえます」