多量の定性データと向き合い、フラストレーションをなくしたい
──顧客体験分析ツール「Contentsquare」を提供する伊奈氏と、同ツールを活用して「ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)」のサービス改善を進める志賀氏。この数年のオンラインの売り場やそこに求められる役割の変化について、お2人それぞれの視点からお聞かせください。
伊奈(Contentsquare Japan) コロナ禍で日本のEC市場は拡大し、2022年のEC化率は9.13%を記録しました(経済産業省「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」より)。2022年後半からのオフライン回帰で、オンラインチャネルには店舗送客、ウェブルーミングといった役割も求められています。同時に、ユーザー体験もオフラインとオンラインを行き来する、より複雑なものになっている状況です。
そんな中で、多くの事業者は「CVRの減少」を課題としています。Contentsquareが発表している「2024年 デジタルエクスペリエンス・ベンチマークレポート」では、多くのウェブサイトでトラフィックが増加しているにもかかわらず、前年度比でCVRが平均5.5%減少していると明らかになりました。
志賀(GDO) GDOも、コロナ禍で若年層などが新たにゴルフを楽しむようになり、新規会員が増加した反面、CVR減少の課題に直面しました。「ユーザーの分母が増えればCVRが下がりやすくなる」というのは致し方ない面もありますが、既存のゴルファーだけではなく、ゴルフ初心者のユーザーにも満足いただけなければ、数値は改善できません。そこで、初心者向けサイトのリニューアルや回遊促進に取り組みました。
伊奈(Contentsquare Japan) 新規顧客の増加やスマートフォンのアクセス比率上昇など、ユーザー行動が複雑化するほど、顧客体験向上は重要な課題となります。なぜなら、ユーザーに使いやすいと思っていただけなければ離脱は減らず、CVRも改善しないからです。
「Contentsquare」では、レイジクリック(クリック連打)やページ間の頻繁な行き来、ページ表示スピードなど、ユーザーがフラストレーションを表現する行動やそれらの原因となる事象を定性的に見える化しています。こうした「負の行動」をまとめた調査では、ウェブサイト・アプリ来訪者の3人に1人がフラストレーションを抱えていることがわかりました。
しかし、「負の行動」は「流入」「CV」といった、アクションを数字のみで可視化する既存の分析ツールからは見えてきません。顧客体験向上に向けたPDCAを回すには、ユーザーの行動を「点」ではなく「線」で可視化し、定量・定性の双方からウェブサイトやアプリのページ上で「何が起きているのか」を確認する必要があります。これからの時代は、PDCAサイクルをよりスピーディーかつ確実なものとするために、オンラインのカスタマージャーニーを想像するだけでなく、きちんと可視化していかなければならないと思っています。
志賀(GDO) 私自身、昔からUXコンサルティングやユーザー行動調査を手がけていた経験もあり、2018年頃から「定性データの可視化」に向けたツール導入を検討していました。
GDOでも以前からユーザー行動の可視化に積極的に取り組んでいましたが、社内の会議室にユーザーを招待し、ウェブサイトやアプリの利用方法についてヒアリングをしたり、操作方法やアイトラッキングの調査をしたりといったように、膨大な時間と費用がかかっていました。また、これらはいわゆる「非日常的な環境」で行う調査であり、本当の生の声は得にくいのです。よりクイックに、かつ多量にユーザー行動データを収集し、改善の精度を高めたいと考えた際に出会ったのが「Contentsquare」でした。
私が「Contentsquare」で注目したのは、「セッションリプレイ」の機能です。デジタル接点のユーザー行動を詳細かつ膨大なデータとして収集し、実際にユーザーがどのような体験をしたのかを再現動画で文字通り「見える化」できる機能でした。
顧客体験向上は、世界のユーザーが利用する巨大ECサイトでさえ抱える大きな命題だと言えます。私自身、自社サービスをユーザーとして利用する際に様々な場面でフラストレーションを感じるため、消費者はより辛辣な評価を下しているはずです。難しさもありますが、GDOはより良い顧客体験を提供するため、諦めずに挑戦し続けたいと思っています。
「声の大きな人」に振り回されない改善サイクルを作るには
伊奈(Contentsquare Japan) ECサイトは、テクノロジーを駆使して新たな購買体験を創出できる可能性に満ちていますが、まだ「完璧な売り場」までは道半ばという状況ですよね。
志賀(GDO) ECサイトは、いわば棚を無限に増やせる店舗です。24時間365日購入できる場を設けるだけでなく、テクノロジーを駆使すれば質の高い接客サービスも提供できます。
立地や広さによる棚数や品ぞろえ、人員配置数といった、実店舗における様々な制約が存在しないため、非常に可能性に満ちた売り場であるにもかかわらず、現実には顧客体験の不備が多発しています。「サイト内検索で欲しい商品が見つからない」「レコメンド表示が自分に適していない」といった問題がその例です。
私はそもそも、ECサイトはまだ「オフラインの顧客体験の模倣」すらやりきれていない段階だと思っています。「棚数を増やしたら、商品を見つけられない人がいるはず」「だったら、商品を探しやすいようにしなければならない」と起こり得ることを想像するだけでなく、打ち手を施した後に「何が起きたか」をこの目できちんと確かめる。優秀な店員さんが顧客を見て接客の仕方を変えるのと同じように、オンラインでもユーザーの観察と、そこから得た事実を踏まえた改善は欠かせません。
伊奈(Contentsquare Japan) 「Contentsquare」は、こうした改善の手助けとなるデータの可視化に取り組んでいますが、実際に56%の事業者がツール活用後、A/Bテストの成果を上げています。これはユーザーの行動過程を可視化し、雲をつかむような取り組みが減ったことで勝率が上がった裏付けと言えるでしょう。
LTV向上が重視される中で、オンラインのUI/UX改善にリソースを割く事業者も増加傾向にありますが、まずは「何をすべきか見える化する」ことが大事だと思います。
志賀(GDO) GDOでも、「Contentsquare」を導入する前はユーザーのフラストレーションの原因が明確にはわからないため、根拠の弱い仮説を基にした改善策を試みるしかありませんでした。もしそれで数値が改善したとしても「本当にその改善策が当たったのか」が検証できず、根本的な解決になりません。
また、ユーザーの行動に着目して判断ができなければ、経験豊富な役職者や数値責任を持つ営業、販促担当など、いわゆる「声の大きな人」の意見に引っ張られて施策が進んでしまいます。多量のデータに基づいてユーザーのフラストレーションを可視化すれば、たとえ個々の持つミッションが「新規顧客増」「売上増」といったようにそれぞれ違っても、プロジェクトに携わるメンバー全員が同じ方向を向いて議論できるようになります。フォーカスが合うとアイデア出しもスムーズになり、より本質的な話し合いができるため、スピード感を持った改善サイクルが生まれました。
良かれと思ったアプリの挙動がユーザーの困惑を招いていた
──「Contentsquare」を活用した改善の取り組みについて、具体的な例を紹介いただけますか?
志賀(GDO) 「GDOスコア」という、ゴルフプレーのスコア管理アプリに導入しました。同アプリは、新規会員獲得や顧客接点創出を目的としたものです。直接的な売上につながるチャネルではありませんが、GDOにとってはその後の顧客育成も含めてマーケティング上、重要な役割を担っています。
志賀(GDO) ユーザーに頻繁に使ってもらうには、操作性が命です。何度も使いたくなるようなスムーズな体験が提供できているか「Contentsquare」を活用して分析したところ、最終ホールまでスコアを入力しているにもかかわらず、スコアを保存する段階で多くの離脱が発生していることがわかりました。
前出のセッションリプレイを使って理由を深掘りした結果、スコア表に1つでも未入力の箇所があると「スコア未入力のホールがあります」とダイアログが表示されることが原因だと発覚しました。アプリ開発者側は「良かれ」と思って付与した機能でしたが、未入力の箇所を明確に表示しておらず、ユーザーを混乱させてしまっていたのです。
伊奈(Contentsquare Japan) バグとまでは言えませんが、ユーザーが自力でエラーを理解し、対処できなければ離脱につながってしまいますね。
志賀(GDO) スコアを保存するのは、ゴルフ場でプレーを終えてクラブハウスに戻るタイミングです。時間や移動の制約から、焦りが生まれるシチュエーションであるケースも多く、その場面で解消方法がわからないエラーが起こるのは、ユーザーにとって大きなフラストレーションとなります。
当社でも常日頃からバグ解消や改善に向けた取り組みを行っていますが、これは机上で考えるだけでは見つけられませんでした。実際のユーザーの行動を見て発見し、対処できて良かったと思っています。
ポジティブな開発テストができるように
──最初にPOCとして「GDOスコア」に「Contentsquare」を導入したと聞きましたが、今はウェブサイトや他のアプリなどにも横展開しているのでしょうか。
志賀(GDO) 直近では、新機能リリースに向けた開発テスト環境に「Contentsquare」を導入し、スピーディーな課題の洗い出しと優先順位付けに生かしています。
当社では、リリース前検証時に社長や私を含め、あらゆるチームメンバーが操作テストに参加します。従来は仕様書を見ながら操作し、バグを見つけたらその証跡を画像やテキストに残さなければならず、ポジティブな改善であるものの業務負荷が重く、ネガティブな空気になりがちでした。
しかし、「Contentsquare」であればこうした事象を自動的に可視化でき、証跡残しの作業時間が削減できます。いわゆる「作業」が減れば、操作テストもユーザー目線でよりカジュアルに実行できますし、操作量が増えればバグの見逃しも減り、より良い機能やサービスをユーザーに提供できます。発見したバグがイレギュラーなものなのか、誰にでも起こり得るものなのか、数字を含めた判断指標を与えてくれるため、リリース前に優先して対応すべき課題の洗い出しが素早くできるようになりました。
伊奈(Contentsquare Japan) GDO様は、「Contentsquare」を活用した顧客体験向上のサイクルを円滑に回しているように感じます。今後の展望についてもお聞かせください。
志賀(GDO) まずは、GDOの全サービスに「Contentsquare」を導入し、PDCAの「Do」をより迅速に行えるようにしたいです。また、若手メンバーに店舗で観察するのと同じように、お客様のオンライン行動を再現動画などで毎日観察する癖をつけてもらい、そこからアイデアが生まれる流れを生みたいと考えています。疑問や仮説の数が増えれば、それだけ手数と学びの機会も増え、1つひとつの取り組みの精度向上につながります。その積み重ねで、より良い顧客体験が生まれていくと考えています。
伊奈(Contentsquare Japan) 「Contentsquare」はECサイトはもちろんのこと、ウェブサイト・アプリすべてに活用できます。さらに、顧客にとってオンラインとオフラインの体験が境目なくつながっている現在、「Contentsquare」で得られる改善の示唆はデジタル接点にとどまりません。
たとえば、あるハウスメーカーのウェブサイトでは、「展示場予約」に示されるカレンダー上で予約不可の日時をユーザーが繰り返し何度もクリックしている行動に着目し、展示場ごとに予約率に大きな差がある一因が予約業務のオペレーションにあることを突き止めました。予約可能な日時を各展示場がそれぞれの判断で設定しており、ユーザーが都合をつけやすい日時を設定できているかどうかに差があったのです。
ユーザーの実際の行動から業務を改善していく道筋を見つけられるのは、現代の素早い変化に対応する上でも非常に有効だと言えるでしょう。オンライン行動の深い理解によって、より最適なカスタマージャーニーを作り上げていくことを支援できればと思います。
ユーザー体験の向上にお悩みの方は、お気軽にご相談ください
「Contentsquare」は世界中1000以上の先進ブランドが導入するデジタル体験分析プラットフォームです。少しでも興味を持たれた方は、こちらの資料ダウンロードページより役立つ資料をご覧ください。