検索で商品にたどり着けないと85%が離脱
NTTドコモは、2023年7月1日付で、同社のインターネットプロバイダー事業「OCN」やポータルサイト「goo」などの運営を担っていたNTTレゾナント株式会社を吸収合併。NTTドコモ内に、「OCN部」を新設した。北岡氏はまず、セッション冒頭でOCN部が担う事業を大きく三つ紹介した。
「一つ目は、開設から26年目を迎えたポータルサイト『goo』の運営です。検索機能やニュースランキングといった、メディアとしての役割も担っています。二つ目が、本セッションのテーマにも含まれるAI事業です。たとえば、独自の自然言語処理技術をベースに、対話型AIやマルチモーダルAIなどの機能を自由に組み合わせて利用できるAIプラットフォームAPI『AI suite』を提供しています。そして三つ目が、『eコマースsuite』です。集客や広告運用をはじめEC運営を幅広く支援していますが、特にCRO(コンバージョン最適化)ソリューションやWeb接客では、顧客データの分析・施策提案・実行までワンストップでサポートしています」
このように、「検索」「AI」「EC支援」を得意領域とするNTTドコモのOCN部。北岡氏は、「『AI×検索』がEC売上を向上させる鍵」だと話す。
「ECサイト内検索を利用した顧客は、その他の顧客と比較して、約10倍コンバージョン率が高いというデータがあります。当然ながら、欲しい商品が決まっている顧客ほど、商品にたどり着いた際に購入する可能性が高いからです」
NTTドコモが、2022年3月に1,000人を対象に実施したユーザーアンケートの結果では、「サイトにアクセス後、まずキーワード検索をする」と回答した人が71.2%にのぼった。本結果だけを見ると、購入意欲の高い顧客が非常に多く、ECサイトに検索ボックスを設置すれば売上が上がるように思える。しかし、ECサイト内検索を利用した顧客が、必ずしも目的の商品を見つけられるわけではない。
「アンケート結果によると、84.1%近くが『検索で欲しい商品が見つからなかったことがある』と回答しています。さらに、目的の商品が見つからなかった場合、半数以上が『他のサイトに行く』、30%近くが『実店舗へ行く』こともわかっています。目的の商品を見つけられなかった人のうち、85%がECサイトから離脱してしまうのです。集客だけでなく、顧客がECサイトを訪問した後の体験まで設計できていないと、機会損失につながります」
チャットボットの導入やパーソナライズにフォーカスした施策を実行しているEC事業者も多いだろう。北岡氏は、「検索こそ接客の基本」だと強調する。
「たとえば、実店舗で目的の商品が見つからない場合、スタッフに『スニーカーを探している』と伝えると、スニーカー売り場まで案内してもらえます。この状況をECサイトで商品が見つからないケースに置き換えると、スニーカーを探している顧客に対し、スタッフがワンピースを案内しているのと同じです。不適切な接客により、顧客の離脱を招いています」
「ゴミ箱」や「ごみばこ」 顧客ごとに異なる検索方法
検索しても商品が見つからないために、顧客が離脱し機会損失につながっている。裏を返すと、「見つからない」をなくせば自然と売上が上がるともいえるが、検索精度を上げるのは容易ではない。北岡氏はその理由として、「対応範囲の広さ」「専門技術の高さ」「スタッフ個人スキルへの依存」の三つを挙げる。
中でも「対応範囲の広さ」では、同じ商品でも顧客によって検索方法が異なる点が高いハードルとなっている。
「EC事業者は、図のような検索キーワードのロングテールに幅広く対応しなければなりません。テール部分は、『ニッチな商品の検索であるため対応しなくても良い』と思いがちですが、実はメジャーな商品の検索キーワードが含まれていることもあります。たとえば『ゴミ箱』の検索であれば、『ごみ箱』『ごみばこ』『ダストボックス』『Trash can』『ゴミハコ』『gomibako』などがテール部分に該当します」
こうした課題を解決し、顧客のスムーズな商品検索を実現するには、「キーワードを正しく解釈する」「表記のゆれを吸収する」の2ステップが効果的だという。
ステップ1の「キーワードを正しく解釈する」では、検索キーワードが部分的に合致しただけの、関係ない商品の表示を防ぐ仕組みが求められる。電子レンジを探している顧客が「レンジ」と検索すると、「オレンジ」が表示されるケースがあるなど、注意が必要だ。
また、ステップ2の「表記のゆれを吸収する」では、「梅干し」と「梅干」、「リンゴ」と「りんご」など、幅広いバリエーションをカバーしなければならない。
そして、この2ステップを実施した上で重要となるのが、検索結果を顧客の求める順番で表示すること。検索キーワードが幅広く拾えても、関連度の高い商品が検索結果の上位に表示されなければ、顧客にとって良い体験とはいえない。
「『Tシャツ』で検索した際、スニーカーが人気商品であるがゆえに、キーワードとまったく関係のない『スニーカー』が上位に表示されることもあります。検索されたキーワードごとのニーズに合わせた商品を表示するのが、ポイントです」
こうした顧客の行動パターンを細かく読み取りながら検索の仕組みを改善していくのは、時間と労力がかかる。さらに人力でのチューニングは担当者の主観に左右されるため、必ずしも「顧客にとって良い検索結果」を表示できるとは限らない。多くの業務に追われるEC担当者にとって、大きな負担となるだろう。ここで重要な役割を果たすのがAIだ。
「当社は、AIを活用して検索結果を最適化するサービス『goo Search Solution』を提供しています。本サービスでは、表記ゆれの自動処理、顧客の行動ログをもとにした最適化が可能です。ログを活用するため、個人の主観ではなく顧客目線で最適化できる点が特徴です。もちろん、AIを活用しているため、運用負担もありません」
同サービスでは、顧客の行動ログを分析し、売上に結びつきやすいよう並び順を毎日最適化した上で、サイトで発生している表記ゆれの辞書の自動生成を行う。NTTドコモがgooを通じて長年蓄積してきた、行動ログに基づく表記ゆれ辞書まで利用できる。
「『表記ゆれ』と一言でいっても、実際に発生する表記ゆれは想像もつかないようなものが多いです。こうしたEC担当者だけでは想像できない表記ゆれまでキャッチして対応できるのが、AIならではの強みです」
効果的なハッシュタグの抽出にもAIが活躍
EC運営において、検索に加えて重要なのがハッシュタグの活用だ。商品情報から特徴的なキーワードを選択し、ハッシュタグとしてECサイト上に表示することで、顧客に新しい気付きを与えられるほか、SEO効果回遊率向上といった効果が見込める。
北岡氏は、「AIによって、検索の最適化だけでなくハッシュタグの付与も可能」と述べ、話を続けた。
「当社は、AIを活用した3ステップで、効果的なハッシュタグの作成も実現しています。まず、商品タイトルや説明文など商品自体の情報からキーワードを抽出します。商品レビューから抽出すると、顧客視点のハッシュタグも付与できます。次に、AIで顧客の行動ログを分析し、クリックされやすいハッシュタグを選定します。最後に、効果が薄いハッシュタグのブラックリストや、反対に効果的なハッシュタグのホワイトリストを作成、表示/非表示を切り替えながら、さらに精度を高めていくのです」
ECサイトのトップページにハッシュタグを表示すれば、顧客がわざわざ検索せずとも目的の商品のページへ遷移できる仕組みが作れる。また、商品詳細ページに「華やか」「お出かけ」など抽象的なキーワードのハッシュタグを並べて、横断的な商品検索を促す、検索後にハッシュタグで商品を絞り込めるようにする施策も可能だ。商品情報には含まれない利用目的や利用シーンを切り口に、顧客と商品との新たな出会いを促進できる。
CVRが85%向上、検索経由の売上が2倍となった事例も
ECサイト内検索の改善により、売上を上げた事例は少なくない。アパレルブランド「NANO universe」は、オンラインストアにgoo Search Solutionを導入。表記ゆれ辞書の効果により、検索ヒット数0件となる状況を削減した。スマートフォンの小さい画面でも商品を絞り込みやすくする新機能「タッチサジェスト」も活用し、大きな成果を挙げている。
「NANO universeではgoo Search Solutionを導入後、CVRが85%向上する結果が得られました。検索経由の売上も、導入前と比較して2倍以上伸びています」
また、「トイザらス」のオンラインストアでは、goo Search SolutionによってCVRが400%向上。運用工数も大幅に削減されるなど、同サービスを通じて関連性の高い商品を検索結果の上位に表示できる仕組みを実現している。
北岡氏は、これらの事例に加えて、自社のECサイトで実施したABテストの結果も紹介。AIと検索の掛け合わせによる効果を強調した。
「従来のECサイト内検索とgoo Search Solutionを導入したECサイト内検索のパフォーマンスを比較したところ、後者は1ヵ月で購入数が15%高くなりました。運用開始時点ではあまり差異がなかったものの、AIが学習するにつれて徐々に売上の差が開いていったのです」
ここまで、ECサイト上の接客として、検索の重要性を具体的な事例とともに説明してきた北岡氏。最後に「検索精度 簡易チェック表」を提示し、自社のECサイト内検索の見直しを呼びかけた。
「誤字や変換ミス、略語であっても検索結果が表示できるか。検索した商品カテゴリーと関係のない商品を提案していないか。検索結果をスムーズに表示できるか。ツールを導入したあとに放置せず、運用できているか。自社のECサイトで、これらの点がどこまでクリアしているかを、この機会にぜひ見直してほしいです」
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