売上創出だけでなく作業工数削減も ユーザーフレンドリーな「Braze」
Brazeは、米国・ニューヨークで2011年に創業したカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」を提供する企業である。2020年7月に日本法人を設立。2021年2月より日本での営業活動をスタートさせ、同プラットフォームのシェアはマーケットを問わず年々拡大している。
モバイル・ウェブサイトを介したプッシュ通知、アプリ・ブラウザ内のメッセージ、SMS、LINE、メールなど、あらゆるチャネルをまたいで顧客とのコミュニケーションを実現する「Braze」だが、気になるのは導入することで生まれる成果だろう。Forrester Consulting社が共同で行った調査によると、Braze導入企業が実現し得る3年間の累計ROI(Return On Investment)インパクトは840%にもなるという。
「単に売上を伸ばすだけでなく、2,200時間のキャンペーン構築時間削減を実現しているのも重要なポイントです。1つひとつの施策実施にかかっていた細かな作業コストがカットできているのは、Brazeがユーザーフレンドリーで業務効率化に寄与するプラットフォームであることの裏づけともいえるでしょう」
ユーザーのシグナル×外的変化の反映で、顧客に特別感を与える
本セッションの本題である「顧客が求めている体験」について、伴田氏は「特別感のあるポジティブな体験」を指すと語る。
「One to Oneは当たり前になりつつあり、今は『驚き』や『気づき』を交えるようなリアルタイム性も重要です。最先端の顧客体験においては、超リアルタイムなパーソナライゼーション。すなわち、『ハイパーパーソナライゼーション』ができなければならないと考えています」
なお、ハイパーパーソナライゼーションの仕組みを持つ企業の中には、新規獲得コストを50%削減するだけでなく、収益を15%、ROIを30%向上させた事例もあると説明する伴田氏。そんな数字にもつながる最先端の顧客体験を実現するには、どういった環境構築が必要なのだろうか。
「ハイパーパーソナライゼーション実現にあたり、キーファクターとなるのが『リアルタイム』『オムニチャネル』『連続性』です」
なお、伴田氏によればここでの「リアルタイム」には2つの意味がある。1つは、ユーザーのシグナルを捉えることだ。目の前の顧客が今どのような状態で、何を望んでいるのか。それらをきちんと理解した上で、コミュニケーションを取る必要がある。
そしてもう1つが、ユーザー情報以外の外的な変化も反映することだ。たとえば、商品の在庫状況や再入荷情報、気候の変化など、顧客自身の動きでなくとも態度変容に関わるメッセージを、あらゆるチャネルから発信する。その上で「過去の反応も踏まえた連続性のあるコミュニケーションを取ることが重要である」と伴田氏は強調した。
「Forrester Consulting社との調査では、67%の消費者が『自分のことを理解してくれている』と感じる顧客体験を提供するブランドに対し、ロイヤリティを感じると回答しています。また、一貫性のない『残念な顧客体験』を提供すると、別のブランドへの乗り換え検討をするだけでなく『不快に感じる』という声まで見られました。
つまり、ユーザーのシグナルを捉え、情報の精度がきちんと担保されているもの、過去の行動やコミュニケーションがチャネルをまたいで反映され、連続性のあるものが理想的です。それらは、デジタルを介してどの売り場でも実現されるべきものだと考えます」
「がっかり体験」を顧客に提供しないために必要な4要素
現代のソリューション選びにおいては、「前出した各要素をカバーした顧客コミュニケーションができるか、といった視点が重要」と続ける伴田氏。理想とするアプローチを、具体例を挙げながら紹介した。
たとえば、「ランチを頼んだ後に、ランチ限定のクーポンが届く」「在庫が少ないのにプッシュ通知が送られてきて、閲覧したときには売り切れていた」「天気が悪いのにマリンアクティビティの案内が来た」といった、「がっかり体験」をしたことはないだろうか。
本来、ランチを頼んだ顧客に対してはその後にオーダーするデザートやコーヒーの案内が、お気に入り登録した商品の在庫が少なくなればリマインドが、悪天候の際には室内アクティビティの提案が送られるのが、健全なコミュニケーションといえる。
「リアルタイム」を指す「ユーザーのシグナル」と「外部情報の活用」は、自動的なアプローチでありながらも、こうした内外の情報と消費者心理をかけ合わせて情報提供できているかどうかが肝となる。「オムニチャネル」については、顧客がよく見るチャネルからアプローチがなされているか、店舗の近くを歩いている際にクーポンが発行されるなど、来店を促すおもてなしが実現できているか。「連続性」においては、これまでの反応状況に応じて表示内容を変化できているか、といった具合だ。いずれも、「特別な気持ちにさせてくれるコミュニケーション」を生み出す視点が重要となる。
チャネル増で変わるMAのあり方
テクノロジーの進化により、こうした施策展開も実現可能となったが、いまだに日々「残念な顧客体験」が生まれ続けているのも事実だ。その理由として、伴田氏はマーケティングオートメーション(MA)の歴史をひもとく。
MAはマスマーケティングの効率化の一環として米国で誕生し、2013年頃に日本に入ってきたといわれている。初期はメールを一括配信すればするほどコンバージョンが上がり、有用性を評価されていた。
技術の発展とともにウェブは人々の暮らしに浸透し、チャネルも増加。それにともない、ウェブサイトのアクセス解析、それらに基づいたウェブ上のパーソナライズ、ポップアップによるメッセージングなど主要ツールも増えていったが、それぞれが分断しているため、バッチ連携により拡張してきた。
「Brazeは、これからの顧客エンゲージメント向上には『どれだけの数を送れるか』ではなく、『どれだけ適切なタイミングで送れるか』の視点が欠かせないと考えました。そこで『顧客が何をしたか』といった行動にフォーカスし、それに合ったタイミングとチャネルでのコミュニケーションが実現できる形に仕上げています」
なお、Brazeはデータの取り込みからメッセージ送信までを、最短1.1秒で実現しているという。
「現代は、そのレベルのスピード感で顧客行動を捉える必要があります。Brazeは『カスタマーエンゲージメントプラットフォーム』として、迅速なアプローチができるよう機能を取りそろえています」
旅行会社のTUI、コスメ・美容情報サイトの@cosme Braze活用事例を紹介
続いて伴田氏は、ドイツの旅行会社「TUI」によるBrazeの活用事例を紹介した。同社はカスタマーエンゲージメント施策でアップリフトを図り、アプリで予約する顧客数や旅行に付随するサービス購入、アプリによるホリデーシーズンの売上比率増といった成果を収めている。
「旅行商材は旅前、旅中、旅後と顧客のフェーズやタイミングに合わせたコミュニケーションが必須です。TUIの事例は、まさにハイパーパーソナライゼーションを実現した事例といえるでしょう。こうした取り組みは、結果として広告のCPA(Cost Per Acquisition)を下げることにもつながります」
Brazeを使ってパーソナライズに注力する日本の事例としては、コスメ・美容の総合情報サイト「@cosme」を運営するアイスタイルの取り組みが紹介された。同社はオンライン・オフラインを通貫した年間700本の施策をBrazeで実現。月間アプリダウンロード数210%、購買率200%、購買UU数110%という結果を記録している。
セッションの最後には、ハイパーパーソナライゼーションを実現するAI機能をデモンストレーション。購買離脱の予測や、ユーザーデータに基づいた配信チャネル・時間の最適化と配信を自動で行える機能を紹介した。
「シナリオの最適化では、結果を待ってからの評価ではなく、あらかじめユーザーの趣味嗜好、属性行動に基づきコンバージョンが高い内容にそれぞれ自動で振り分けます。ベーシックな機能ですが、ユーザーの好みに合わせた商品のレコメンデーションもあり、どんなメッセージだと刺さるのか瞬時に提案してくれるのが特徴です。
また、コピーライトアシスタント機能では、文言を入力するとAIが自動で刺さりやすい内容にブラッシュアップしてくれます。AIを活用することで、現場の負荷を軽減しながらより良い顧客体験の提供につながります」
伴田氏は、AI機能を組み込んだソリューション活用の利点について、これまで関係構築してきた顧客にさらなる良質な体験提供ができると挙げ、「マーケティングレベルを引き上げるためにもぜひチャレンジしてほしい」とまとめた上でセッションを終えた。