なぜ「残念な顧客体験」が起こるのか
New Relicは、オブザーバビリティプラットフォームの提供を通じて、ECサイトの信頼性と顧客体験の向上を支援している。では、「オブザーバビリティ」とは、EC事業者にとってどのような意味を持つのだろうか。
オブザーバビリティとは、システムの動きを把握する能力のことを指す。これを取り入れることで、ECサイトであれば、顧客がどこで離脱しているかなどをデータで確認できるようになる。
ウェブサイトの閲覧に慣れている現代の消費者は、ECサイトを訪問する際、「スムーズに利用できて当たり前」という前提のもとサービスに触れている。そのため、数十秒間も待たされると大きなストレスを感じ、他の類似サービスへと流れてしまう傾向がある。
田中氏は、「ECサイトではパフォーマンスに関する問題が頻発している」と話す。「急なサイトダウンでアクセスできない」「ロード中と表示され数十秒間待たされる」「商品選択や決済プロセスでエラーが表示される」「商品選択時のデザインにズレがあり誤タップしてしまう」などだ。
「実店舗であれば『利用したいのに店舗が閉まっている』『商品を選べない、購入できない』といった状況に該当します。残念ながらこれらの事象は、ECサイトでは見過ごされています。まずは、『オブザーバビリティ』が『顧客が快適に購入できる売り場作り』であると認識する必要があります」
ECサイト上の顧客体験は事業そのものに大きく影響を与える。優先的に取り組むべきテーマといえるだろう。ところが、システムは進化し続けており、今では非常に複雑化している。近年は、どこで何が起きているのか、原因の素早い特定が難しい場合もある。
「これまではシステムを監視し、サーバーが動いているかどうかでサービス提供の可否を確認できました。しかし、システムが複雑化すると、アプリの応答に一時的な問題が発生した場合など、何が原因で正常にサービスが提供できていないのか見えづらいのです」
ここまでで、「オブザーバビリティとシステム監視はどう違うのか」と疑問を抱いた読者も多いかもしれない。
従来の「システム監視」では、モニタリングすべき指標をあらかじめ定める。たとえば「CPUが90%を超えたらアラートが鳴り対処する」といった具合だ。つまり、事業者側があらかじめ想定した範囲内でのモニタリングとなる。
一方、オブザーバビリティの場合は、先回りしてモニタリングする。「システム監視の進化版」といえよう。監視すべき指標を定める前に、すべてのデータをリアルタイムで収集。収集したデータの関連付けが自動的になされ、平常時と異なるシステムの動作が起こった際、早期に察知できる。EC運営では、関係者全員がリアルタイムでこうしたシステム全体を観測できる状態にしておかなければならない。
「遅い・買えない・買いづらい」 軽微なパフォーマンス問題を丸投げしない
ECサイトのパフォーマンス問題は、IT部門からのアプローチだけでなく、EC運営側からも積極的に対処する必要がある。ところが、「ビジネスサイドではあまり認識されていないという課題がある」と田中氏は指摘する。
「プロモーションやCRMなどで、ECサイトへ顧客を誘導している事業者が多いでしょう。しかし、誘導した顧客に対し『快適にECサイトを利用できているはずだ』と思い込んでいないでしょうか。また、軽微な『遅い・買えない・買いづらい』といったパフォーマンス問題を、IT部門や外部ベンダーに丸投げしていないでしょうか」
問題が発生してから解決するまでの時間も、実は大きなビジネス損失になっている。IT部門が対応している間は、消費者がECサイトから離脱しモノが購入されない。つまり、その間は売上が発生しない。さらには、顧客がECサイトに大きなストレスを感じれば、それがブランド自体のイメージにも影響する。
「サイトパフォーマンスがどれだけ売上に影響を及ぼしているか、因果関係を把握するのは容易ではありません。検証にはエンジニアのスキルが必要です。どうしても、EC運営側では手が出しづらい領域といえます」
IT部門との共通言語を作る
課題を踏まえた上で、田中氏は次のように提案する。
「まずはECサイトのパフォーマンスを可視化して、EC運営側とIT部門との間で『共通言語』を作るところから始めましょう。EC運営側が特に優先して可視化したいKPIから、リアルタイム観測を始めるのが効果的です」
たとえば、「購入不成立になっている件数」「エラーの影響を受けたユーザー数」「それによる損失金額」といった数値の把握から始める。これらの指標がリアルタイムで可視化できれば、ECサイトを運営する上で、『早急な対処が必要な問題かどうか』がわかりやすくなるはずだ。New Relicのダッシュボードでは、これが実現できるという。
「ユーザーに甚大な影響をもたらす以前に問題の兆候をつかみ、開発と品質確保のバランスを定量的に判断できます。今対処すべき事項が何か、どのような影響を与えているのか。データを根拠に説明できるようになれば、問題解決に向けて全社を巻き込みやすくなるでしょう」
New Relicのデータが部門間協力も促進 LOWYAの事例紹介
ここまで、オブザーバビリティの重要性と、その実現方法について解説してきた田中氏。続いて、New RelicがEC事業者に対して貢献できるポイントを、具体的な導入事例を挙げて説明した。
「LOWYA」の事例
ここでは、家具・インテリアを販売する「LOWYA」の運営元・株式会社ベガコーポレーションの施策が紹介された。
「ベガコーポレーションは、エンジニアを自社で数十名抱え、ECサイトのフロントからバックエンドまですべて内製開発し、成果を出しています。汎用パッケージから内製に切り替えた2020年よりNew Relicを活用しており、『パフォーマンス定点観測会』という社内ミーティングも開催しています」
パフォーマンス定点観測会の目的は、開発・運用・ビジネスなど異なる部門の社員が集まり、全社KPIの達成に向け、サービス基盤のパフォーマンスや可用性を継続的に改善すること。リリースした機能の提供性能が顧客体験を悪化させていないかなど、顧客起点でのシステム影響が複数の部門によって議論される場だ。
この議論のベースになっているのが、まさにNew Relicで取得したデータである。同社内での、共通言語になっているという。
「ECサイトの性能の改善はIT部門の担当領域」と考えているEC担当者も少なくない。しかし、EC運営側の目線で必要な改善ポイントを共有し、それに向かって各部門と協力していくことが、売上への近道ともいえる。New Relicは、そのために必要なデータやサポートを用意している。
New Relicでは、ブラウザやスマートフォンのアプリ、外形監視などのフロントエンドから、アプリケーションのAPM、インフラストラクチャー、ログなどのバックエンドまで、一つのプラットフォームでデータの収集が可能だ。集めたデータの活用方法も可視化する。そして、使いこなすための教育制度なども提供している。
「当社は、AWSやMicrosoft AzureといったIaaS系のプラットフォーマーとも協業・連携しています。そして、プラットフォーム提供だけではなくサポート体制が充実している点も、国内で数多くのお客様から大きな評価を得ています。これからオブザーバビリティに取り組む事業者は、日本語で手厚いサポートが受けられる体制を持つベンダーかどうかも重視しながら、パートナーを選定していただきたいです」
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