日本でもトップクラスの知名度と売り上げを誇る下着メーカーの株式会社ワコールは、デジタル活用によるさらなる成長を狙っています。既存の顧客やブランドを活かした取り組みは、どのように進められているのでしょうか。
この記事では、取りこぼしを回避しつつも新しいサービスを生み出す、同社の次世代デジタル活用について解説します。
株式会社ワコールの企業情報・事業内容の概要
まずは、株式会社ワコールの基本情報について、確認していきましょう。
株式会社ワコールの企業情報
以下は、株式会社ワコールの企業情報をまとめた表です。
社名 | 株式会社ワコール |
---|---|
本社所在地 | 京都府京都市南区吉祥院中島町29 |
設立年月 | 2005年10月 |
代表者名 | 代表取締役社長執行役員 川西啓介 |
株式公開 | 未上場 |
資本金 | 50億円 |
おもなグループ会社 |
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株式会社ワコールの事業内容
株式会社ワコールは、女性向けのインナーウェアなどを取り扱う、大手アパレル企業です。ランジェリーやファンデーションなどが主力商品ですが、ナイトウェアやアウターウェア、スポーツウェア、そのほか繊維製品を豊富に取りそろえています。
株式会社ワコールホールディングスの100%子会社で、同ホールディングス傘下には若年層向け下着メーカーの株式会社ピーチ・ジョンや、化粧品・ヘアケア製品の開発・販売を行う株式会社ハウス オブ ローゼなどが含まれます。
ワコールグループの沿革
以下は、株式会社ワコールを含めた株式会社ワコールホールディングスのこれまでのあゆみを簡単にまとめたものです。
年月 | 沿革 |
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1946年6月 | 塚本幸一が婦人装身具販売を手がける「和江商事」創業 |
1964年 | 東京浅草橋に新たにオープンしたワコール・ビルに「製品研究部」設置。人間工学に基づいた日本女性の体型計測と研究を本格的にスタート |
1981年 | 米国に現地法人「Wacoal America Inc. (現ワコールインターナショナル株式会社)」設立 |
1991年 | インドネシアに合弁会社「インドネシアワコール株式会社」設立 |
2005年 | 会社分割による持株会社体制、「株式会社ワコールホールディングス」への移行 |
2008年 | 「株式会社ピーチ・ジョン」を完全子会社化 |
2012年4月 | 「株式会社イヴィデングループ」(英国)(※現ワコールヨーロッパ)を完全子会社化 |
2015年 | 株式会社「Ai(アイ)」設立 |
2019年 | 次世代のインナーウェアショップ「ワコール3D smart & try(スマートアンドトライ)」オープン |
1946年に創業した株式会社ワコールは、当時としては先進的な洋式の婦人服を前提とした装身具販売を手がけることで、成長を遂げたアパレル会社です。1964年には人間工学に基づくインナーウェア開発を本格化させるなど、独自路線での顧客満足度追求を続けてきました。
国内で圧倒的なシェアを獲得した株式会社ワコールは、1980年代以降、海外への積極的な展開を進めていきます。欧米各国に子会社を設置するだけでなく、中国や韓国、東南アジアにも拠点を構え、文字通りグローバルな市場開拓を業界で先んじて進めてきた企業です。
持株会社体制に移行した2005年以降は、株式会社ワコールホールディングスとして大手衣料品メーカーである株式会社ピーチ・ジョンなどを子会社化しています。そのほかにも、国内における物流拠点の整備、子どもや障がい者の自立支援組織である株式会社Aiの設立など、さまざまなチャレンジに取り組んできました。
また2019年には、独自の3Dボディスキャナーや接客AIを取り入れた次世代ショップ「ワコール3D smart & try」をオープンさせるなど、デジタルの本格活用に向けた実験的な取り組みも進んでいます。
株式会社ワコールが挑む次世代のデジタル戦略
国内だけでなく、海外でも大きな人気を博す株式会社ワコールの製品ですが、近年はそんなブランド力を活かしたデジタル施策が注目を集め、実を結んでいます。
機会損失を改善する新たなECプラットフォームの構築
ブランド認知が高まり、顧客が増えてきた際に陥りがちなのが、ECサイトのパフォーマンス低下です。株式会社ワコールではセール時などの集客施策を展開した際、サーバーがダウンし、一時ECサイトが使えなくなるなどの機会損失を経験したこともあり、それを回避するためのインフラ管理が負担となっていました。
オンプレミス運用のインフラコストが課題となっていた同社では、2018年にクラウドサービスの「Salesforce Commerce Cloud」を導入しています。それ以降、集客施策展開時に多少の速度低下は見られるものの、従来よりも飛躍的にサーバー性能が向上し、以前のようにサーバーがダウンしてしまうことはなくなりました。
また、将来に向けた拡張性もゆとりを持って確保できたことで、2020年3月期には15%程度だったEC化率を、2025年3月期には約25%まで引き上げられると予想しています。
さらにワコールグループの物流専門会社であるワコール流通株式会社では、今後のEC強化に備えて物流機能強化も推進しているところです。同社最大の物流センターである滋賀県の守山物流センターに約50億円を投じ、延べ床面積を約60%増床したほか、外部に委託していたECの配送を自社運営に切り替えるなど、本格的なEC強化を進めています。
顧客データを最大限活用したビジネスモデルの実践
EC強化に加え、豊富な顧客データを最大限活用した施策にも取り組んでいる点も、株式会社ワコールの強みです。
同社では高度経済成長期から収集してきた、膨大な女性の体形データをフル活用しています。約300万人分の購買データと、1960年代に設置したワコール人間科学研究所が蓄積してきた体の計測データ約4万5,000人分、そして3Dボディスキャナーのデータ約2万人分を保有しており、他社の追随を許しません。
これらのデータを活用した、体形タイプと婦人服のマッチングを提案するサービス「マッチパレット」の展開をはじめ、今後はビッグデータや新技術をオープンイノベーションで活用していくことを目指しています。これまでに接点のなかった顧客の獲得にも取り組むことで、より多くの市場シェアに切り込んでいく狙いです。
株式会社ワコールの最近の動き
続いて、株式会社ワコールが展開しているここ数年のおもな動きについて、以下でまとめます。
成長を続けるワコールのマーケティング戦略
2023年3月期におけるワコールのEC売上高は、前期比7%増の192億円でした。他社ECサイトやECモールでの取り扱いブランドを増やしたことが売り上げに大きく寄与したと考えられます。
また、直営店では自社ECにアクセスできる二次元コードを用意したり、オンラインでは実店舗での在庫状況を表示したりするなど、店舗とECとの連携にも注力してきました。今後は自社アプリやウェブサイトの利便性向上にも取り組み、さらなる成長を目指しています。
モール型ECサイト「WACOAL SPOON」で食品ECに進出
2023年4月、食品や食卓関連のアイテムを取り扱うモール型のECサイト「WACOAL SPOON(ワコール・スプーン)」を開設しました。
「からだとこころに幸せ運ぶ」がコンセプトの同サイトでは、商品を出品した事業者が販売元になるという、楽天市場などと同じ仕組みのECプラットフォームを特徴としています。スタート時の商品数は550品目にものぼり、6つのカテゴリーで、103の販売元が商品を展開しています。
アパレル以外での売上拡大を目指す今回の取り組みは、同社の新規事業創出の取り組みの一環であり、「美・快適・健康」分野における事業領域の拡大方針にのっとるものです。当面は売上規模200億円を目指して運営が進められます。
株式会社ワコールの気になるトピックス
そのほか、株式会社ワコールの気になるトピックについて、以下で簡単にまとめています。
2018年8月30日:デサントがワコールと提携 伊藤忠の買収提案を拒否
「デサント」「ルコックスポルティフ」「アリーナ」「アンブロ」などを展開するデサントと、下着大手のワコールホールディングスが包括的な業務提携を結ぶことが明らかになった。
2017年5月30日:ワコールが「空き家」ビジネス 京町家を宿泊施設に
ワコールは、京町家や古民家を活用した宿泊施設事業を始めると発表。老朽化した物件や空き家を所有者から借り上げ、宿泊施設としてリノベーションし、観光客に貸し出す。
2021年4月8日5秒で身体をスキャン、ぴったり下着提案 ワコールがすごすぎるデジタル店舗を作る理由
インナーウェア大手のワコールは、3Dボディースキャナーにより利用者の体形を計測するサービスを提供している。着替えを除いた、実際の計測時間は約5秒。スキャニングが終了すると、目の前の画面には自分の体形をトレースした3Dモデルが映し出される。
下着の相談、アバターまで ワコール販売員が遠隔操作
下着のアドバイス、アバターが承ります-。大手下着メーカーのワコールは、ディスプレーに映る「アバター」が接客する新サービスを始めた。販売員がアバターを遠隔操作する。
まとめ
この記事では、株式会社ワコールの事業戦略やデジタル活用について解説しました。
日本で絶大な支持を集め、海外でも多くの顧客を獲得している同社の最大の強みは、膨大な顧客データです。今後、ビッグデータ活用をはじめとするデータサイエンスの取り組みはあらゆる領域で重要になるとされていますが、数百万人分のデータを自社で保有する株式会社ワコールは、強力なアドバンテージを有しているといえるでしょう。
既存事業やEC戦略だけでなく、このようなデータ力を活かした、新規事業の創出にも注目していきたいところです。