施策のコモディティ化・物価高騰 課題にどう立ち向かう?
街中に人も戻り、徐々にコロナ禍以前の環境が戻りつつある現在。しかし、この数年で消費者の生活におけるeコマースの存在感は確実に増している。「『ECチャネルの展開をいつ始めたか』というタイミングに関係なく、消費者が思うように外出できず、不便を強いられていた期間に『売り場を育て、顧客とのエンゲージを高めてきたか』によって、明暗が分かれている」と河野氏は語る。
「ECベンダーにおいても、似た動きが見られます。この数年は『EC販売を開始したい』といった新規案件や、売上増に向けたリプレース案件など、スピード感を求められる案件が続々と走っていましたが、リアル回帰の今、各社が『本当にその投資が必要なのか』といった質の部分に着目しています。『どのプラットフォームが良いのか』『リプレースすべきなのか』といった冷静な議論も進んでいる状況です」(河野氏)
こうした変化は時代が進み、顧客が求める体験に変化が生じていることとも関係している。広告、UGC活用、オムニチャネル・OMOを前提とした体験設計と、各社が様々なチャレンジを続けてきた結果、求められる売上や成果を生み出すハードルは上がった。施策のコモディティ化が進んだといっても過言ではない。さらに、インフレや原材料費高騰も各社の頭を悩ませるところだろう。
「2023年に入り、あらゆる商品が値上げを発表しています。そして、この動きは収まる気配がありません。一時的なものであれば、『企業努力』という形で耐えしのぐこともできたかもしれませんが、物流2024年問題などもいわれている上、今後はより一層人手不足が深刻となります。あらゆる側面から原価が上がってしまうのは避けられず、そういった事態に対して顧客にどう理解してもらうのか、体験などでのトレードオフが可能なのかは、考えなくてはなりません」(河野氏)
ビジネスにもサステナビリティの視点を
これまでの日本は、注力したい領域、売上が好調な領域へ人員をあて、ビジネスを伸ばす傾向にあった。「人海戦術で売上が上がる」「今伸びているところをひたすら伸ばせば、ビジネスも軌道に乗る」と考え、行動していた経営者も多いのではないだろうか。もちろんそれは正しい部分もあるが、河野氏は「継続性、持続性の観点からビジネスを設計し直すべきタイミングに来ている」と続ける。
「戦後からこれまで、日本は右肩上がりの成長を目指し続けてきました。売上を達成したら、『次年度はその120%を目指そう』『社員を増やして売上拡大を図ろう』とどんどん前進していましたが、人口が減少する中ではもはやこうしたビジネスの再現性はありません。今掲げている数字は、企業・ブランドの規模に対して健全なものなのか。ただがむしゃらに売上を増やすのではなく、コスト削減で利益を増やせないのか。最大の運用効率で最大の利益を得ようとする思考が大切です」(河野氏)
こうした視点でビジネスを整理する際、デジタルツールの導入は大きな助けとなる可能性が高い。ただし、「ただ便利なツールを選ぶだけでは意味がない」と河野氏は強調する。工数削減や成果向上を謳い文句とするツールも、勝手にこれまでの業務課題を解消してくれるはずはなく、使い手側の考え方・行動によって問題解消レベルは大きく左右される。
「このツールを導入して、何をするのか。それによりどういった成果を得られ、担当者や部署、企業・ブランド全体にプレゼンスを発揮できるのか。導入して終わりではなく、使い倒す気概があるか、現実的に使いこなせるかといった視点から考えることも欠かせません」(河野氏)