30万円を握りしめてスニーカー買い付けへ
2005年、大学卒業とほぼ同時に30万円を握りしめて渡米した、イングリウッドの代表取締役社長兼CEO 黒川隆介氏。同氏が現地でスニーカーを買い付け、開始した輸入販売業が同社創設のきっかけだと野仲氏は語る。
「輸入したスニーカーをeコマースで販売するところから、イングリウッドの歴史は始まりました。しかし、自ら仕入れたスニーカーを販売するだけでは、ビジネスとしての成長に限界がある。そう考え、黒川はスニーカーやアパレル用品を幅広く扱う『SNEAK ONLINE SHOP』を楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonで展開しました。実は、イングリウッドの歴史はモールの出店企業というところから始まっています」
同社が他社EC支援事業を開始したのは、2011年。仕入れや商品詳細ページ・特集ページの作成、販売、発送、顧客対応など、モール運営にまつわる業務に取り組む中で蓄積したナレッジを世に広く展開すれば、小売やEC業界をより良いものにできると考えたことが理由だ。
「当時のイングリウッドは、既に越境ECや卸売にも取り組んでいましたが、世の中全体を見ると、まだeコマースで大きな収益を得ている企業はそこまで多くない状況でした。そこで成功体験をシェアし、各社が実践することで売上が創出されれば、市場が大きくなり私たちの挑戦の場もさらに広がると考えたのです」
若手もキャッシュフローを意識できる組織体系に
実際に他社の支援を開始してみると、「競合調査だけでは得られない経験や学び、情報がすさまじいスピードで集まることがわかった」と続ける野仲氏。現在のイングリウッドは、BtoC・D2Cビジネスを手掛けるセールス・ライセンス事業本部と、BtoB向け支援を行うデータテクノロジー事業本部の両輪を回しながら、ビジネスを拡大している。その中で特に重視しているのは、情報共有だという。
「ステークホルダー別に部門を分け、それぞれで業務を推進する欠点は、『情報の分断』です。それを避けるため、基本的にどの事業部にいてもイングリウッドが手掛ける全事業の取り組み内容や数字が見えるようにしています。社内に存在するナレッジは誰もが開示し、宝の中から求める情報を拾い上げ、自身の糧としてもらう。COOとしても、こうした考え方と行動の浸透は、意識しているところです」
なお、イングリウッドでは、事業部内の各チームを一つの企業のように見立て、チーム単位で売上や原価、販管費、粗利、営業利益などすべての数字を管理するシステムを取っている。会社を運営する上で発生する経費も各チームに按分しているため、マネージャーはただトップラインを伸ばすだけでなく、コストカットにも気を配らなければならない。
「どこに投資して、どこを抑えるかといった判断も各マネージャーに任せていますが、この数字も社員全員が見られるようにしています。そのため、若手のうちから経営にまつわるキャッシュフローに日常的に触れ、それらを意識した行動ができるようになるのが、当社の特徴といえるでしょう。この視点が備わると、数字を見ただけではわからない、うまくいっている施策の裏側や仕組み作りの秘訣を学ぼうと、積極的に多方面とコミュニケーションを取るようになります」
特に「D2Cビジネスは、『ものを作りたい』という気持ちだけで成立するビジネスではない」と強調する野仲氏。物販を手掛ける上では、一歩間違えれば負債となり得る在庫管理やそれらを起因として生まれる倉庫などの管理費、コールセンター運営の人件費、顧客の購入ごとに発生する決済手数料といった小さな数字にも目を向け、キャッシュフローの円滑化を実現しなければならない。
「ユニットエコノミクスの重要性を口酸っぱく説くのが、ある意味私の仕事です。現在、約230名の社員を抱える組織にまで成長しましたが、スキルだけでなくこうしたマインドをもっているかどうか、採用時にはカルチャーフィットを重視しています」