ユーザーの情報収集のチャネルが多様化し、豊富な選択肢が提示されるようになった昨今において、自社商材を見込み顧客に選んでもらう難易度は高まっているといえます。ユーザーからの信頼を勝ち取り、売上拡大につなげるためには、「口コミマーケティング」の活用が有効です。
本記事では、口コミマーケティングの概要や口コミの収集方法、実施にあたって注意すべきポイントなどを解説します。
口コミマーケティングとは?
口コミマーケティングとは、一般ユーザーが投稿する口コミを活用して、商品やサービスの認知や購入前段階にある顧客の信頼獲得を目指すプロモーション手法です。
情報過多といわれる現代、企業側からの一方的なメッセージはユーザーには届きづらくなっています。そのため、実際に購入・使用した既存顧客の声を届ける取り組みが重要視されてきているのです。
口コミは本来ユーザー間で自然に広まるものですが、企業が口コミが発生しやすい環境作りを行うことで、偶発的に口コミを増やせるため、効率的に世の中に情報を拡散できます。
マーケティング手法のなかでも信頼性が高い口コミマーケティングは、昨今さまざまな企業がサービスや商品を広めるために実施しており、今後も増加が見込まれる手法といえるでしょう。
口コミマーケティングのメリット
企業が口コミマーケティングを実施するおもなメリットには、以下が挙げられます。
- ユーザーの信頼を得やすい
- 多様なチャネルでユーザーにアプローチできる
- 費用対効果が高い
次項より、それぞれ個別に解説します。
ユーザーの信頼を得やすい
口コミマーケティングを実施する最大のメリットは、ユーザーから得られる信頼感です。デジタル広告やマス広告、DMなど、企業が一方的に発信する情報の場合、顧客目線が抜け落ちてしまう可能性があり、信頼を勝ち取ることが容易ではありません。
一方、総務省が2016年に発表した「情報白書」によると、オンラインで購買行動を行う人の約6割が、決済の前に口コミを参考にしていることが分かっています。さらにこの傾向は、年代が低くなるほど顕著になるとのことです。
このデータも踏まえると、さまざまな製品やサービスが溢れかえる昨今において、口コミマーケティングはユーザーからの信頼を得る手段として適しており、商品購入の検討段階にある層を後押しするといえるでしょう。
多様なチャネルでユーザーにアプローチできる
口コミマーケティングを実施すれば、さまざまなチャネルでユーザーに情報を届けることが可能です。
口コミが広がる際のおもな経路としては、以下の4種類が考えられます。
- 家族や友人への口頭伝達
- SNSでの投稿・シェア
- 口コミサイトへの投稿
- 個人ブログでの情報発信
多様なチャネルでポジティブな口コミが広がれば、自社商品のターゲット層だけでなく、従来のマーケティング手法でアプローチできなかった潜在層にも情報を届けることが可能です。新たな顧客層の開拓に成功すれば、集客数や売上を高めることにもつながるでしょう。
費用対効果が高い
SEO対策やデジタル広告などに代表されるマーケティング施策には、一定の費用がかかります。また、施策内容によっては費用対効果が悪く、思うような成果につながらなかったといった結果になることも珍しくありません。
一方で、口コミマーケティングは仕組みさえ整えば、ユーザー起点で自社商品の仕様や魅力が発信されるため、ほかのマーケティング施策と比べるとコストを抑えやすいといえます。
ユーザー間で情報が拡散するため、場合によってはほとんど費用をかけることなくほかのマーケティング手法と同等の成果を出すこともできるでしょう。
口コミマーケティングを成功させる3つのポイント
口コミマーケティングを成功させるために勘案すべきおもな要素は、以下のとおりです。
- 商品・サービスのコンセプトや価値を明確にする
- 複数チャネルを活用して導線を設計する
- 口コミをより効果的に活用するための仕組みを作る
以下より、個別に解説します。
商品・サービスのコンセプトや価値を明確にする
口コミの拡散を狙うなら、自社商品やサービスといったプロダクトの「質の高さ」は大前提です。それに加えて、プロダクトの設計段階からターゲットユーザーを絞り、コンセプトや世界観をはっきりさせておく必要があります。
また、自社商品やサービスの独自のメリット、従来商品や他社との違いなど、「商品やサービスが顧客に与えるバリュー(価値)」を明確にしておくことも大切です。
「誰に」「何を」「どのような目的で」提供するのかを明確にすることで、一貫性のあるメッセージを発信できます。ユーザーの興味関心や趣味趣向をより的確にとらえた訴求を行えば、おのずと口コミも広がりやすくなるでしょう。
複数チャネルを活用して導線を設計する
口コミマーケティングでキャンペーン施策を考える際は、情報の拡散や口コミを狙うだけでなく、「情報を通じていかに自社商品やサービスの利用につなげるか」を意識することが重要です。
拡散によって多くの口コミを集められたとしても、そこからコンバージョンが派生しなければ意味がありません。そのため、口コミを見たユーザーがスムーズに購買や問い合わせのアクションを行えるよう、集客までの導線をあらかじめ設計しておく必要があります。
導線設計が完了したら、次に口コミを拡散させる施策を実施します。口コミ投稿を誘発させる施策例は、以下のとおりです。
- SNS運用
- モニター施策
- インフルエンサー活用
口コミをより効果的に活用するための仕組みを作る
口コミのさらなる投稿拡散を狙う場合は、自社のLP(ランディングページ)やECサイト、メールマガジン、広告クリエイティブなどに二次活用すると効果的です。
たとえば、新規顧客が既存顧客の口コミを見ることができる仕組みを構築しておければ、CVR(コンバージョン率)やCTR(クリック率)などの改善にもつながるでしょう。
上記のチャネル以外にも、写真を用いて訴求できるInstagram上のUGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)の二次活用なども有効です。
口コミマーケティングで注意すべきポイント
以上のポイントを意識するほかにも、口コミマーケティングを実施する際は次の点に注意が必要です。
- ステルスマーケティングにならないようにする
- ネガティブなコメントへの対応も考えておく
- 口コミの二次利用は各種法令を遵守する
次項より、それぞれについて個別に論考します。
ステルスマーケティングにならないようにする
ステルスマーケティングは、「企業内の人物や利害関係のある人物が、第三者を装って自分たちに都合のよい情報を流す」という意味合いで使用される用語です。
たとえば、企業内の人物がユーザーを装って商品を持ち上げる情報を発信すれば、意図的に好意的な口コミを広められます。しかし、それが露呈すると社会的な信頼を一気に失いかねません。
ステルスマーケティングは、そもそもとして倫理的にも問題があるため、企業内の人物や社外関係者に口コミを依頼する際は、必ず「宣伝」「PR」と分かるようにしましょう。
ネガティブなコメントへの対応も考えておく
投稿される口コミは、当然ポジティブなものだけではありません。自社イメージの低下につながり得るネガティブな口コミが投稿されるケースも考えられます。
しかし、悪い印象を与えるからといって、投稿の削除を求めたり、感情的に対応したりすると、かえって状況を悪化させかねません。
ネガティブなコメントへの対応を社内で均一にするためにも、「ネガティブな口コミを見つけたらまずは事実関係を確認する」「規約に違反する投稿の場合は違反報告を行う」など、事前に対応方法を決めておきましょう。
口コミの二次利用は各種法令を遵守する
企業が一般ユーザーの口コミを二次活用する場合、薬機法や著作権肖像権などの法令に違反していないかどうかを確認する必要があります。必ず、「薬機法に抵触する表現の有無」「口コミの投稿内容が第三者の著作物や肖像権を侵害していないかどうか」を確認するようにしましょう。
また、ユーザーから寄せられた口コミを自社のECサイトなどに掲載する際には、投稿者本人からの許諾を取得しなければならないため、その点も注意が必要です。
口コミマーケティングの成功事例
ここで、企業組織が実施した口コミマーケティングの成功事例を3例紹介します。
Dropbox(ドロップボックス)が採用した「友達紹介」の仕組み
クラウド上にファイルを保存できるストレージサービス「Dropbox」では、無料利用のユーザーに対してストレージ容量の制限を設けていますが、「友達紹介」を行うことでより多くの容量を利用できる施策を実施し、利用者数を伸ばしてきました。
これも広義の意味では口コミマーケティングといえ、この施策によりDropboxのユーザーは1年で300万人程度増えたともいわれています。
ただし、同製品の口コミマーケティングが成功した理由には、もともとDropboxのサービスや製品の質が高かったという背景があります。そのため、品質の高さと口コミマーケティングの相乗効果によって成約率が上がった例といえるでしょう。
ル・クルーゼの「みんなで桜を咲かせよう」キャンペーン
鍋などのキッチンウェアを展開するル・クルーゼジャポン株式会社は、Instagramでユーザー参加型の「みんなでサクラを咲かせよう」キャンペーンを開催しました。
同キャンペーンの概要は、ル・クルーゼのアカウントをフォローしたうえで、同社の花の形をした鋳物ホーローウェアやストーンウェアを撮影してInstagramに投稿すれば、プレゼントがもらえるという内容です。
花見の時期にキャンペーンが開催されたことや、花の食器のかわいらしさが好材料となり、ル・クルーゼ商品の認知度向上やフォロワー獲得などの成果を得ることができました。商品を購入したユーザーの多さをアピールする機会にもなり、見込み顧客や潜在顧客の信頼獲得につながった例といえるでしょう。
あえて「ネガティブな意見」を集めた森永チョコレート
チョコレートやビスケットなどを販売する森永製菓株式会社は、自社のTwitterアカウントを通して、自社製品の焼きチョコ「ベイク」に関するネガティブな口コミを集めるキャンペーン「#ベイクを買わない理由100円買取キャンペーン」を実施しました。
キャンペーンの内容は、「ベイクを買わない理由」を投稿したユーザーに、Amazonギフト券100円で買い取るというものです。同キャンペーンでは1日4万件以上の口コミが寄せられたほか、好意的なコメントも集めることができました。
口コミマーケティングでは一般的に「良い口コミ」を集めますが、「悪い口コミ」を集めることで話題性や商品の認知度を高め、収集が困難な自社商品に対して消費者が抱いている正直な意見を獲得した興味深い事例といえます。
まとめ
口コミマーケティングは、自社起点の情報発信では難しい「ユーザーからの信頼感」を獲得するための有効な施策です。ネガティブなコメントが寄せられるリスクはあるものの、「質の高い商品やサービスを提供する」「企業として誠実な対応をする」ことを前提に実施すれば、リスクヘッジも成果も期待できます。
自社に適した方法で口コミマーケティングを実施し、良質な口コミを集めてさらなる売上拡大につなげていきましょう。