8月にアメリカ視察 バックヤード整備に投資できるか
8月に個人でアメリカ視察に出かけた逸見さん。主にシカゴ、ニューヨークに滞在し、小売業の実店舗などを見て回った。なお、逸見さんが理事として推進ボードの役割を担ってきた、DXを通じて日本の発展を目指す「日本オムニチャネル協会」でも10月に視察ツアーを行う予定だが、今回はそれとは異なる。
「あくまで私が足を使って見て回った範囲の情報ですが、ビフォアコロナのデジタル活用を前面に押す動きが薄れてきていると感じます。以前は、テレビCMではアプリの使いかたやBOPIS(ネット注文→店舗受け取り)、ECに会員登録すると割引になるといったことを説明し、実店舗の店頭は来店客向けにタブレットが並び、デジタルサイネージでプロモーションを行うといった具合でしたが、そのような訴求を目にする機会が減りました。実店舗の来店客向けタブレットは感染防止のため撤去した可能性もありますが、本質的には同じ方向に向かっているととらえています」
アメリカの小売企業がデジタル活用にストップをかけたわけではない。消費者への訴求がひと段落し、実際に使えるものだけが生活に密着したツールとして浸透したわけだ。実際BOPISカウンターには常時店員が居てひっきりなしに商品を受け渡している。次のステップはデジタル活用に磨きをかける段階となる。
「ネット注文された商品をピックアップする担当者が、モバイル端末を持っていたり、紙を挟んだボードを持っていたりバラバラでした。デジタルを活用したバックヤードの整備はこれからというところでしょう。そのあたりは、私がオムニチャネルの成功例としてよく紹介するジョンルイスやアルゴスなどがあるイギリスのほうが進んでいると感じます」
磨きをかけるなら、業務効率化で従業員の満足度も上げていく必要がある。商品管理、在庫適正化、BOPIS商品のピックアックのしやすさなどバックヤード整備が必須となる。
そのうえで逸見さんが気にかけるのは、小売店によってはディスカウントを求める消費者への対応に注力し始めていることだ。1円でも安いものを求める消費者に応えていく方針の場合、利益率は下がり、結果的に長期的な視野での投資は後回しとなる。
「デジタル化によるバックヤード整備は進まず、オムニチャネルやDXの実現が難しくなります。目の前の売上を追いがちになり、縦割りで短期的なKPI達成に向かうことで、EX(従業員体験)が疲弊し、最終的にはCX(顧客体験)を損ない、LTV向上には結びつかないのではと懸念しています」
前回の定点観測で、日本オムニチャネル協会は購買体験創出に不可欠な要素として「CX」「SCM(サプライチェーン)」「EX」の3つの定義に合わせて3部会とし、2022年度はこれらを軸に具体的な取り組み内容の議論を深めていく方針だと紹介した。これらを重んじ、長期的なシステムも含めた投資を行い、オペレーションを整備できるかが小売業の命運を分けそうだ。