消費者を情報の発信者として認識し、CX向上に取り組む
スマホの普及で、ほとんどの消費者がいつでもどこでもオンラインにアクセスできるようになり、デジタルマーケティングによって常時、消費者にリーチできる環境が生まれた。こうした中、主にコマース分野で進んできた大きな流れが、オンラインとオフラインの連携・融合だ。
オンラインからオフラインの実店舗への送客に主眼を置いたO2O、オンライン/オフラインを含めた販売チャネルの統合を図るオムニチャネル。そして今、多くの企業が取り組み始めているのが、オンラインとオフラインの境界をなくし、CX(顧客体験)の向上を目指すOMOだ。
「OMOで最重視されるのはCXであり、そこがO2Oやオムニチャネルとの大きな違いでもあります。優れたCXとは、ごくシンプルにいえば『消費者が満足できる、納得のいく買物体験をしてもらう』ということ。CXは、現在のマーケティングにおいて最も重要な要素と言えます」(山崎氏)
CXに対する意識の変化を示すデータとして山崎氏が紹介したアメリカの調査結果によると、「ポジティブな体験は最高の広告より勝る」と回答した人が65%にのぼったという。
「もちろん広告は強力なマーケティング手段ですが、それよりもポジティブな体験、つまり消費者に満足できる買物体験をしてもらうことのほうが、より重要になりつつあるということです」(山崎氏)
さらに、CXの重要性が増してきた背景として山崎氏は「消費者は情報発信者であり、マーケターにもなりうる」ということを挙げた。
SNSやECサイトのレビューなど、誰もが手軽に情報を発信できるようになった今日では、商品やサービスを購入した消費者がその使用感や購買体験そのものを発信することも当たり前に行われている。
「『いい買い物ができた』『満足した』という消費者の声は、マスマーケティングの広告よりも信憑性のある情報として受け入れられやすいものです。満足できる買物をした消費者は強力なマーケターとなります。スマホ普及以前と比較すると、これからは、消費者が情報の受け手であると同時に情報の出し手・発信者でもあることをしっかりと認識する必要があります」(山崎氏)
消費者が満足のいく買物ができるようにデジタルマーケティングでサポートし、ポジティブな情報発信をしてもらう。そして、そのアウトプットが、他の消費者のインプットとなり、購買意欲につながることで、ダブルファネル効果を生み出す。「こうしたデジタルコミュニケーションのエコシステムを目指して、OMOによるCX向上に取り組むべき」と、山崎氏は語る。
デジタルの融合で店舗におけるCXを変革したOMO先進事例
OMOへの取り組みは、特にオフライン側の実店舗にとって急務と言える。たとえば、書店などは、従来から行ってきたような棚づくりをどれだけ工夫しても、来店者はそこで気になる書籍を見つけると手元のスマホでレビュー情報を検索し、そのままオンラインで購入してしまうパターンも少なくない。
「書店やレンタルビデオショップなど、コンテンツをオンラインのデータとしても提供できるようなジャンルの商品を扱う店舗はこうした状況に陥りやすいです。とはいえ、実物の商品を手に取れるリアル店舗ならではの強みというのもあり、OMOでオンラインと融合することにより、その強みをさらに活かしていくことも可能です」(山崎氏)
そうした取り組みの事例として良く知られているのが、Amazon Booksだ。
オフラインとオンラインそれぞれの強みを活かすAmazon Booksの事例
Amazonがアメリカで展開しているリアル書店チェーン「Amazon Books」では、すべての書籍を表紙が見えるように面陳列している。これにより、リアル書店の強みである「偶然の出会い」や「表紙からのインスピレーション」による購買機会を広げることができる。
その反面、通常の棚ざし(背ざし)陳列よりも店舗で扱える商品数は限られることから、来店者が探している書籍が見つからない確率は高くなるが、そうした「探し物」のニーズにはオンライン側で対応可能。オフラインとオンラインそれぞれの強みを活かし、補完し合うことで、CX向上につなげている。
従来の店舗におけるマーケティングの大きな課題のひとつに、パーソナライズがある。たとえば、商品の陳列を来店者ごとに変更するのは物理的に不可能だ。また、店員の接客にはパーソナライズの余地があるものの、来店者全員に対して店員を個別にアサインするのは難しい。
「スマホのアプリを活用することで、店舗でもECのようなパーソナライズに対応したダイナミックマーケティングが実現できるようになります。店舗内での利用に最適化された『ストアモード』機能を搭載するアプリが欧米では流行しており、アパレルブランドのZARAなどが取り入れています」(山崎氏)
店舗でもダイナミックマーケティングを実現するZARAの事例
イギリスのZARA店舗では、公式アプリを使って、来店前から商品を検索・在庫有無を把握したうえで、ブックマークや買い物かごに入れることもできる。店舗内に入ると自動的にストアモードに切り替わり、目的の商品の売場や店員の所在、事前購入済み商品のピックアップカウンターなどを案内したり、店内で実施中のセール情報を告知したりと、スマホがナビゲーターやコンシェルジュのように機能する。商品はRFIDで管理されており、ECのようにスマホで決済を完了し、セルフチェックアウトすることも可能だ。
従来はECの強みだったパーソナライズやリアルタイムの行動・状況に応じたダイナミックな顧客対応が、店舗においても実現されている。
OMOで変化する店舗内外のコミュニケーション
OMOは店舗のマーケティングにさまざまな変化をもたらすが、その中でも特に重要な意味を持つのが「コミュニケーション」だと山崎氏は強調する。
これまでの店舗内におけるコミュニケーションの要素としては、商品を前にした店員と顧客との「会話」がほぼすべてだった。OMOでは、先に紹介したZARAの事例のようにアプリを活用したデジタルコミュニケーションのほか、「会話」についても顧客データに基づきパーソナライズされた商品提案など、より精度の高い内容が期待できる。
さらに、店舗外を含めた継続的なコミュニケーションが可能となるメリットも大きい。従来は、顧客が店を出てしまうとそこでコミュニケーションが途切れ、次回来店時に同じ店員が接客できるとは限らないため、マーケティングとしては最初から仕切り直しになってしまう状況だった。OMOで店頭も含めた顧客接点のデジタル化に取り組むことにより、顧客退店後も店舗からのメッセージやクーポン情報送信などのフォローをはじめとした、継続的なコミュニケーションが可能になる。
「OMOの強みは、コミュニケーションを強化し、それをマーケティング手段として有効に活用できることです。これからOMOがさらに発展していく中で、鍵を握るのはやはりコミュニケーションだと思います。あくまでも大切なのは、消費者が限られた時間の中で最適な意思決定をし、満足できる買物体験をすること。それをサポートできるように、レビューデータや他の消費者とのオンラインでのやり取り、店舗での店員との会話など、オンライン/オフライン含めたあらゆるコミュニケーションをシームレスに融合していくことが、今後はより重要になってくるでしょう」(山崎氏)
同社では、OMO・DXソリューション「ZETA CLICK」を提供している。店舗接客時にコーディネート提案した際などに、それらの商品情報をまとめた専用ページを作成し、顧客と共有できるほか、顧客退店後のフォローとしてメッセージやクーポン送付などの店舗外コミュニケーションにも対応。各スタッフの接客履歴情報管理など、CRMツールとしての機能も備えている。山崎氏は、利用イメージ動画とともに同ソリューションを紹介し、講演を締めくくった。
▼ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CX シリーズ」の資料は、資料ダウンロードページよりダウンロードいただけます。