日本最大級の“リユースデパート”であるコメ兵では、名古屋本店をはじめ全国に実店舗を展開し、ネット通販や宅配買取などオンラインによる買取・販売を行っている。そのすべてのチャネルのマーケティング戦略を立案・遂行するのが、同社執行役員 マーケティング統括部部長の藤原義昭さんだ。2000年の自社ECの立ち上げに始まり、20年以上にわたってオムニチャネルやOMOを推進し、「未来店舗」の実現に取り組んできた。藤原さんは「2020年、小売業のデジタル化が加速するのは間違いない」と語る。「後戻りできない」と言うその先に何を目指すのか。ECと実店舗の融合による可能性、そしてデジタル化を推進する組織や評価などについて聞いた。
デジタル化の前に考えるべき 既存のアセットと提供価値
街中に実店舗を構える。そんな今までの小売のありかたを見直さざるを得ない状況をもたらしたのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行だ。「STAY HOME」が謳われ、家から出かけることができない中、ECで買い物をする人も増え、2020年は世界中でEC化率が急増する年となることは間違いない。人々は、これを機にマインドとスキルの両面でデジタル慣れするだろう。そこで、既存の小売企業にとって課題となるのが、変化を遂げた顧客に満足してもらえる店舗体験の提供だ。
「まずはこのタイミングで実店舗の価値をとらえ直し、基盤をしっかりと固めることが大切です。私も今回の件で、事業を存続させるためにも、利益や売上と同等もしくはそれ以上に、スタッフやパートナー、お客様の安全性を担保することが重要だと強く感じました。実店舗を平常通り営業できるようになっても、実店舗の衛生安全面のレベル向上と、それを広く伝えていくことは必要不可欠と考えています」
そして藤原さんはもうひとつ、「社内オペレーションのデジタル化」も今後より進めていく必要があると提起する。
「企業は今後、社内で誰もがデジタルを使いこなせる環境を構築しなくてはいけません。私はこれを『デジタルの民主化』と呼んでいます。それはオフィスのみならず、実店舗でも同様です。デジタル慣れしたお客様に対応した仕組みを導入しても、実際に店頭に立つ従業員が活用できなければ、結果的にお客様に迷惑をかけてしまいます。デジタルに精通していない人たちが使っても恩恵を受けられる環境を実現することこそが、真のDX化だと思うのです」
こうした考えかたは、コメ兵が顧客との関係性を重視してきた延長線上にあると言う。それは「誠実さ」という言葉で表現されるものだ。
「安心安全という価値をどのチャネルでも提供すること、さらに新規のお客様の獲得以上にロイヤルカスタマーを中心とした既存のお客様との関係構築にリソースを費やしていくこと。こうした実店舗本来の価値を意識した上で、新たな価値を創造するために、デジタルにリソースを寄せていく。そうした取り組みを検討する際に、自分たちが今持つアセットをしっかりと棚卸しして、新しいサービスでの価値提供にどう使えるのかを考えることが大切だと考えています」