矢野経済研究所は、日本国内におけるインポートブランド市場を調査し、現況、ブランド動向、将来展望を明らかにした。
市場概況
2021年の国内インポートブランド(主要15アイテム分野)の小売市場規模は、前年比13.8%増の2兆1,940億円と推計した。同25.2%減と大きく沈んだ2020年から回復はしたものの、2019年水準との比較では85.1%にとどまる結果に。一方で、2019年の2兆5,772億円に占めるインバウンド(訪日外国人客)需要は13%程度(当社推計)あり、それを差し引くと2021年のインポートブランド小売市場規模は2019年とほぼ同等となり、コロナ禍の環境にありながら、日本人需要は2019年に近い水準まで回復したとの見方もできる。
2021年のインポートブランド市場の大きな特徴として、アイテム別の回復力の差が大きかったことが挙げられる。主力アイテムのなかでも「ジュエリー」(前年比128.8%)、「ウォッチ」(同120.3%)、「バッグ・革小物」(同115.4%)は大きく回復した一方で、「メンズウェア」(同100.6%)、「シューズ」(同100.3%)の回復は鈍く、「レディスウェア」(同98.6%)に関しては2020年をさらに下回る結果となった。いずれもマーケットでは高額商品の動きが良かったことから、この回復の違いは資産価値としての需要の有無が影響したものと考えられる。なお、2021年は多くのインポートブランドで商品価格の値上げを行ったが、消費の冷え込みにはつながらず、むしろ市場規模の押し上げに寄与したと推察される。
注目トピック
相次ぐインポートブランド商品価格の値上げとその影響
コロナ禍からの世界経済の回復過程で、世界的な人手不足、原材料の調達や生産コストの増加、原油高やそれにともなう輸送コストの高騰など、あらゆるものの価格上昇が起こるなか、ロシアのウクライナ侵攻も加わり、2022年は世界中でインフレが進行。日本においては、急激な円安も加わり、一般消費財でさえも値上げされている状況において、ラグジュアリーブランドの商品も例外なく値上げが進んでいる。
ラグジュアリーブランドの値上げに関しては、コロナ禍以降に始まったわけではなく、もう何年も前から継続的に行われている。世界市場に比べて日本市場での商品価格が割安になっていることが大きな理由である。ただし、コロナ禍によりその値上げ幅や回数は増加。多くのブランドが為替リスクヘッジを行っているため、2021年の値上げ理由は、コロナ禍の影響によるものが多いと考えられる。
一方、2022年に入ってからの値上げは、急速な円安による理由が加わってきており、夏までにすでに2回の値上げを行うブランドも増加しており、為替の変動状況を考えるとこの先も数回の値上げが予想される。
数年前のインポートブランド市場においては、消費増税や商品値上げによる消費の冷え込みを懸念する声もあったが、現在の富裕層が中心になったマーケットにおいては多少の値上げ程度では消費動向が左右されることはなく、むしろ商品単価アップによるブランド売上高の積み増しにつながっている。ただし、アフォーダブルゾーンのブランド(ラグジュアリーブランドよりも手頃な価格の高級ブランド)は状況が異なり、商品値上げは深刻な問題となっている。
今回の値上げの影響として、マーケット全体の消費の冷え込みは考えにくい。むしろ、ジュエリーやウォッチ、ハイブランドの名品バッグなどは商品供給が間に合っておらず、さらに今後は値上げされる可能性があるという状態のため、逆に今購入可能なタイミングで買って置いたほうが良いのではないかという枯渇感から、さらに消費が伸びるという現象が起きていると考えられる。
将来展望
2022年7月以降、第7波の新型コロナウイルス感染拡大で国民生活は大きな影響を受けている。一方で、政府は一切行動制限を設けない方針を貫いて、経済回復にドライブをかけ始めており、入国制限の緩和とともに、秋以降は再び消費が活発になることが期待される。今後、物価高による一般消費者の消費マインドは厳しくなることが予測されるものの、インポートブランドへの影響力の大きい富裕層の国内消費は、少なくとも2022年は衰えることがない様子が見られ、2022年の国内インポートブランドの小売市場規模は前年比8.5%増の2兆3,801億円になると予測する。
調査概要
- 調査期間:2022年5月~8月
- 調査対象:欧州、米国の衣料品・服飾雑貨、ウォッチ、ジュエリー、クリスタル製品・陶磁器、アイウェア、筆記具ブランドを輸入販売する商社、メーカー、小売事業者、また各インポートブランドの日本法人など
- 調査方法:同社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話によるヒアリング調査、ならびに文献調査併用