コロナ禍で急がれるOMO、話題のD2Cに共通するECの根本的な課題
――まずは出版おめでとうございます。2018年12月からウェブ連載を1年半ほど続けていただき、さらに半年ほどかけて書籍編集にもご協力いただきました。
藤原 コロナ禍でECに取り組む企業が急増しましたし、D2Cもブームですよね。良いタイミングで刊行できたのではと思っています。というのも、ありがたいことにさまざまな企業様から「手伝ってほしい」とお声がけいただくのですが、EC専業、実店舗のオムニチャネルやDX、そしてD2Cでも、根本的な課題は共通しているからです。たとえば、最初は個人やインフルエンサーなどの影響力で広がったけれど、ある程度の売上に達すると頭打ちになってしまう。打開するために打った広告がうまく回り始めると、コアなファン以外にも広がったため、解約が増えてしまう。そこでようやくCRMに取り組み始めたが、アップセル、クロスセルに取り組み始めると、主力商品以外は芳しくないといった壁にぶち当たる、といった具合です。
――2020年はEC参入が増えましたが、2021年は売上アップや利益が出ているかに焦点が当たりそうですね。本書のタイトルのとおり、コンバージョンしてなんぼですね。
藤原 DXはじめ、人によって定義が曖昧な流行ワードが飛び交いがちですが、シンプルにやるべきは「どうしたらお客様が買い続けてくださるか」、すなわち高いLTVを出してくださるお客様にファンになっていただくことを突き詰めること。僕はこれにこだわり続けてきました。新しい手法やデバイスが次々と出てきますが、何かひとつだけやればうまくいくわけではなく、全部がつながっています。頭の中で全体のストーリーを描きながら、1つひとつの施策のPDCAを回し、成果につなげていくことで、結果として全体の売上もアップしていくことが重要です。本書を読んでいただくことで、それが伝わればと思います。
――そこを突き詰めるには、腹を括った社内のEC担当者が不可欠なんですよね。これまでは、そうは言ってもデジタル担当者の地位が向上することはまれでした。それがコロナ禍により、急に会社から求められることのスケールが変わったのではと思います。もちろん、多くの企業が2020年は「ECサイトをオープンした」「デジタル推進に舵を切った」というスタートラインだと思いますが。
藤原 ECの仕組みや立て付けを作るということについては、コロナ禍によって想像していた以上のスピード感で進んだと思います。とはいえ多くの企業で、それほど多くのリソースが割かれたわけではなく、兼務でやっている人も多いのが実情でしょう。ですからあわてずに、今の時点でいちばん効果が期待できる施策から重点的に取り組み、きちんとストーリーを作っていきましょう。
たとえば、メールの効果は高いけれどもLINEに手をつけられていないのだったら、まずはメール施策を最大化する。その後に、なぜメールがうまくいったのかストーリーを分析して、それをフル活用してLINEに取り組むという順番です。上層部からは、あれもこれもどうなってるんだと言われると思いますが、焦らず、今のリソースでできることをやっていきましょう。リアルビジネスをやってきた企業では、まだまだECの売上規模は小さい。ECを大きくしていかなければならないとはいえ、売上規模で比較すると、優先順位が高くならないのは仕方ないことでもあります。
――とはいえ、たとえばアパレルの実店舗の販売員さんが従来の仕事だけを続けていくわけにはいかなくなっていますよね?
藤原 デジタルマーケティング部やDX推進室といった部署に所属している・していないにかかわらず、全員がデジタル人材になっていく必要があるのだと思います。たとえば販売員さんであれば、デジタルを活用していかにお客様とコミュニケーションを取っていくのかを考える。お客様とお会いしにくい状況にはなっているけれど、販売員さんのスキルがなくなったわけではないでしょう。たとえば、コーディネートをECサイトやSNSアカウントにアップしたり、デジタル接客で対応したりといったことで、お客様とコミュニケーションを取ることは可能です。リアル店舗の売り場やDMでやっていたことを、デジタルではどう表現するかを考え、より洗練された新しい顧客体験を作っていく。買ってくださる場所は、リアル店舗でもオンラインストアでも良いわけです。全体がストーリーとしてつながると、デジタル接客ももっとうまく回り始めると思います。