顧客接点=ECの新しいコミュニケーションの場としてQ&Aを実装
アダストリアは、「Play fashion!」をミッションに掲げ、グローバルワーク、ニコアンド、ローリーズファームなど30ブランド超、約1,400店舗を国内外で展開するカジュアルファッション専門店チェーンだ。2023年で70周年を迎える。自社ブランドを販売する公式WEBストア「.st(ドットエスティ)」、スマートフォンアプリも展開し、常時1万に近いアイテムをECで販売している。
コロナ禍による顧客の行動変化も踏まえた、直近のECをはじめとする同社のデジタル戦略と取り組みについて、アダストリアでECを含めたデジタル領域を統括する田中順一さんはこう語る。
田中(アダストリア) 従来は、リアル店舗でさまざまな商品との出会いが生まれ、まだ迷いがあった場合はECで再検討し、購入するという流れが主でした。しかし今では、ECでブランドや商品情報を知り、ある程度目的を絞り込んでから「実際にその商品を手に取ってみたい」「スタッフからアドバイスが欲しい」とリアル店舗に行くという流れが、アパレルに限らず多くの業種業態で強くなっていると感じています。つまりECは、購入するためだけの場ではなく、商品を知り情報を得る、顧客接点の重要な核になってきていると言えます。よって私たちは、EC=顧客接点と捉え、どのように接点を増やしより良くしていくかを考え、日々取り組んでいます。
後者の「より良くしていく」に関連しますが、コロナ禍により、オンラインからの情報発信によって生まれる顧客接点が大きく増加しましたよね。たとえばアダストリアでは、日々頑張っている数千人の店舗スタッフが、スタイリングをアップしたりInstagramのライブ機能で情報を発信したりと自らをコンテンツにし、人間を強みとした接点を増やしてくれました。お客様からも良い反応をいただき、「より良くする」ことにつながったと考えています。
もうひとつ、デジタル化により大きな変化が訪れたのはコミュニケーションの方向性だ。アダストリアでは、その変化を読み取り、戦略に取り入れている。
田中(アダストリア) コミュニケーションは大きく、たとえばリアル店舗の接客のような1対1、企業が大勢に向けて情報発信する1対N、そしてN対Nの3つに分類できます。Clubhouseなどが新しく流行していますが、SNSが象徴するN対Nのコミュニケーションの場には人が集まり、活発なやりとりが行われています。アプリ「.st(ドットエスティ)」にて、2020年12月に開始した新サービス「商品Q&A」は、N対Nのコミュニケーションの場作りを試してみようという取り組みです。お客様の疑問やお悩みに、他のお客様およびスタッフが答え、まったく別のお客様がそれを情報としてご覧になる。まさに、N対Nのコミュニケーションですよね。
もともと、「.st(ドットエスティ)」では商品に対するたくさんのレビューをいただいていました。そこで、商品に対して質問いただき、他のお客様およびスタッフが答え、さらに他のお客様がご覧になるというスパイラルを作ってみたら、活発なやりとりが行われるのではと考えました。ZETAさんのレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」のQ&A機能を中心にさまざまな機能を組み合わせ、アダストリアの独自のものとして作っています。
アダストリアとZETAが新サービス「商品Q&A」の共同開発に踏み出した背景について、ZETAの3人はこう語る。
市川(ZETA) 「ZETA VOICE」をもとに、ご要望を受けてさまざまな機能開発を行っています。当社の開発力や、バージョンアップにも柔軟に対応し今後もより進化していけるツールであるところをご評価いただきました。
中元(ZETA) 「ZETA VOICE」では、APIとHTMLタグ、2種類の導入形式をご用意しています。HTMLタグでは、お客様側の改修はほぼ不要、コードを2行ほど編集いただくだけで導入が可能です。アプリケーションで活用する場合やこだわった見た目にしたい場合には、APIでご提供しています。アダストリア様ではAPI形式を採用されました。
出張(ZETA) Q&A機能へのお問い合わせは、複数の企業様からいただいていました。その中でも、アダストリア様の積極的な姿勢と当社のサービス開発を目指す方向性が合致し、すぐに開発に着手できる環境にあったことから、アダストリア様と共同で新機能を開発させていただきました。
実装からわずか20日間で、質問数1,652件、回答数7,964件が投稿されたことも驚きだが、質問・回答ともに投稿できるのは、アプリをインストールし、会員登録しているユーザーのみに限定しているとのこと。ロイヤリティの高いユーザーの期待に応えた機能だったのだろう。
田中(アダストリア) アプリは、起動時にログイン状態を保つことができるのが最大の特徴だと考えています。その特徴と、会員様同士の純粋なコミュニケーションを実現したいとの思いから、アプリ限定のサービスとしてスタートしました。
実装から3ヵ月も利用は活発 中身を分析してアップデートを
ユーザー同士がQ&Aでコミュニケーションを行うようになったことで、アプリを含めたECにどのような変化が起きたのだろうか。
田中(アダストリア) 売上アップやコンバージョン率の改善といった目的ではなく、コミュニケーションのトライアルのひとつだと考えています。このサービスがあるからこそ、このECが良いと思ってくださるお客様がひとりでも多くいてくだされば良いという思想です。「.st(ドットエスティ)」では、お客様から定期的にご意見をいただいていますが、今回の「商品Q&A」についてもいくつかお声が届いています。一部ご紹介すると「購入者の方が質問に答えてくださり、ありがたいし本当に参考になりました」「他にはない機能ですごく参考になります」「洗濯はどうしているかなど、他の人の意見を見ることができて参考になります」「身長が153cmなのですが、同じくらいの身長の方からスカート丈について具体的なアドバイスをもらえて本当に参考になりました」といったものです。たとえば身長153cmの方がスニーカーを履いた時のスカートの丈感のような情報について、すべての商品の商品詳細部分にあらかじめ記載しておくのは難しい。それが「商品Q&A」によって解決することができています。つまり、お客様にとってかゆいところに手が届くサービスになっているのではないでしょうか。
出張(ZETA) ご利用状況から、ユーザーの皆様がコミュニケーションを求めていらっしゃることを実感しました。商品を購入する前に質問したい方がいらっしゃるのはもちろん、自分が購入した商品について語りたい方もたくさんいらっしゃる。これまでのECに欠けていた機能ですよね。リアル店舗では、店員さんからアドバイスを受け「こういう使いかたもできるのか」といった気づきを得て購入する機会が多々あったと思います。ECでは、そういった質問ができず、レビューがある場合にはそれを一方的に読み取り参考にする程度でした。今回のQ&A機能により、Qの形でもユーザー様が発信できるようになり、購入したユーザー様は自分の体験をAという形で共有できるようになった。ECがよりインタラクティブなものに進化したのではと捉えています。
中元(ZETA) 現時点で導入から3ヵ月ほど経っていますが、質問数6,912件、回答数3万7,521件と回答のスピードがまったく落ちていないことに驚いています。アダストリアのユーザー様の関心の高さを感じます。
ECにインタラクティブな要素を取り入れ、かゆいところに手が届く情報提供が可能になった。今後、「商品Q&A」について改善やアップデートの予定などはあるのだろうか。
田中(アダストリア) 中身の分析を進めています。たとえば、「お客様が質問してくださるメリットは回答が返ってくるからだ」といった程度の考えに留まらず、より深く掘り下げていきたいのです。どう改善すればよりお客様のためになるのかという視点から、システム面だけでなく中身の部分をより良くしていきたい。サービスとして、まだまだ未完成だと思っています。
Q&Aをもとに付加価値情報でエモーショナルな検索の実現へ
「人の気配のあるサイトにしたい」とは、ECではよく言われることだ。今回のアダストリアの取り組みとその反響を見るに、ECを活性化していくには、ユーザー側から参加してもらうことが不可欠だとわかる。
田中(アダストリア) お客様側から自発的に参加してくださるようになったら理想的ですよね。人気のあるSNSを見ても、人の肌感を感じられるものが使われている。それはSNSだからできることで、ECでは無理なことと線引きせずに、今回の「商品Q&A」のようなトライアルを重ね、挑戦を続けたいと思っています。
さまざまな新しい取り組みが、次々に打ち出されるアダストリアのEC。今後の展望と、それに伴いZETAをはじめとするシステムベンダーにはどのような協力を求めているのだろうか。
田中(アダストリア) 顧客接点であるECを再定義し、お客様にとってものを買うだけではない価値を、人の力を活かして作っていきます。ECにはECの限界があり、リアルにはリアルの良いところがある。どちらを選ぶかは、その時のお客様のご都合次第ですから、アダストリアではどちらの価値も高めていきたいと思っています。お客様のためになり、アダストリアが向かう方向性とシステムベンダーさんがやりたいことがマッチした時には、ぜひ一緒にやっていただきたい。ZETAさんとは、今回の「商品Q&A」のデータが貯まっていけば、レビューと掛け算することで新しい価値が生まれていくと考え、それを一緒に模索していこうと進めています。システムはトータルで揃えたほうが掛け算した価値が出せることも理解しています。バラバラの手法論ではなく、さらにお客様に寄り添うために何ができるかという視点からのアプローチを期待しています。
市川(ZETA) 「ZETA VOICE」の強みとしては、ブランドごとにレビューの質問項目を変更したりといった細かい調整が可能であるため、Q&A機能との掛け合わせでさらにお手伝いできる部分があるのではと思っています。ZETAのメインツールであるEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」は、コロナ禍によって蓄積したコーディネートの画像やQ&Aなどオンラインのデータを用いることで、商品検索だけではない、本質的な価値を提供する上でもご支援させていただきたいです。
出張(ZETA) お客様が商品を検索される際、現時点ではカテゴリやスペックの情報で検索されています。Q&Aやレビューのデータを活用することで、ユーザーが持った「感情」という新しい軸での検索が起きてくると考えています。「.st(ドットエスティ)」上に、ユーザーの感情という軸を加えたエモーショナルな新しい検索を創出するご提案ができればと思います。
田中(アダストリア) 商品の情報をアップデートしていくという概念ですよね。商品情報は、基礎情報と付加価値情報のふたつに分けることができると考えています。基礎情報は企業側が考える、素材、色、ワンピースといったカテゴリです。これがないと、そもそも商品について伝えることができません。一方の付加価値情報は、お客様側から生まれる、たとえば「着心地がゆったりしている」「結婚式の二次会用」といったものです。この付加価値情報が、今後テクノロジーで変わってくるおもしろい部分だと思っています。付加価値情報を、お客様のためにどう作っていくかにも積極的に取り組んでいきたいですね。
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