作りながら変えていくプラットフォームでOne to Oneを実現
まず、日本マイクロソフト 片山智咲子さんが登壇。
●「Webエクスペリエンスをパーソナライズした場合の売上上昇率が19%」(eConsultancy調べ、2015年)
●「2017年までに、デジタルテクノロジーを活用する手腕に長けた新興企業に地位を奪われる企業の割合が25%」(Gartner調べ、2013 年)
といった数字を示しながら、「基調講演でもお話があったとおり、実店舗から始まった企業でもデジタルをやらないという選択肢はない。その分、競争も激しくなっています」と述べた。
そうした状況下で生き残るためには、「サイトにきちんと手をかけ、愛情を注ぐこと」が重要だが、「ツールが多すぎる」「サイロ化しすぎる」「データが多すぎる」といった課題があり、多くの小売事業者が混乱を余儀なくされている。
それに対し片山さんは、「顧客を中心に考える、原点に返るべき」。それも、従来のOne to Oneを超え、リアルタイムで1人ひとりにあわせたECのありかた、小売のありかたが求められると言う。そうなるとやはり出てくるのが、基盤となるシステムの話だ。
「マイクロソフトのプラットフォームをお使いいただくことで、アジリティーの高さを感じていただけると思います。正しい解、唯一の解はもはやありません。やりながら、作りつつ変えていく。それに適したプラットフォームを提供しています」
とりあえずビジュアル化しそれから相関を見る:Power BI
マイクロソフトのプラットフォーム利用事例として、サッカークラブ「レアル・マドリード」の例がある。サッカークラブでは、スタジアムに試合を見に来てもらうほか、オンラインショップでウェアを買ってもらったり、スポンサーを集めたりといったビジネスも行う。世界中でさまざまなマーケティング施策を実施しており、そのデータをもとに、熱狂的なファンがどこにいるのか、調べようというのだ。
「ウェブ、リアルあわせた膨大なデータを、相関性がわからなくても、まずは放り込んでダッシュボードで見てみることにしました。とりあえずビジュアル化してみると、見えてくることがあります。レアル・マドリードの例では、主にソーシャルのデータから、実はインドネシアに熱狂的なファンが多いということがわかり、モバイルアプリをインドネシア語に対応するという施策につながりました」
とりあえずビジュアル化する、と簡単に言うが、以前ならひとつの開発プロジェクトが立ち上がる大ごとだった。それが今は、ExcelやPower BIを利用することで「数クリックくらいでできる」ようになっていると言う。
次も使われるクーポンとは:Microsoft Azure Machine Learning
プラットフォームの例でもうひとつ、マイクロソフトは機械学習の仕組みを持った「Microsoft Azure」というクラウドを持っている。それを活用したのが、マクドナルドのパーソナライズ・クーポンの事例だ。
「どんなクーポンがどの時間帯に利用されたかを分析し、来店した1人ひとりにパーソナライズしたクーポンを、リアルタイムに配信できる仕組みを作りました。それを機械学習で学び、同じ成果を生み出せるように取り組み、非常に売上が伸びています。スウェーデンでの成功から、すぐに全世界で実施することになりました」
このように、プラットフォームとして活用されているマイクロソフト。日本でのより詳しい事例を語るべく、クライアント向けのサービスおよび自社の分析プラットフォームとしてMicrosoft Azure Machine Learning、Power BIを活用するブレインパッドの下田倫大さんが登壇した。
次ページから、本セッションのタイトルとなっている「デジタルマーケティングにおけるデータ分析プロジェクト成功の秘訣」をお届けする。
データ活用プロジェクトがうまくいかない、ふたつの落とし穴
ブレインパッドの主要事業のひとつが、企業のデータを預かり、データ分析・コンサルティングを行うというもの。分析プラットフォームのひとつとしてMicrosoft Azureの機械学習を用い、分析結果をPower BIで可視化することで顧客と結果を共有している。創業12年目を迎え、豊富な実績を誇る同社から見て、企業のデータ活用プロジェクトがうまくいかない「落とし穴」があると言う。
その「落とし穴」は、プロジェクトの「途中」と「最後」にある。
データ活用プロジェクトの落とし穴は、コミュニケーション
まずプロジェクトの途中ではまる落とし穴だが、「分析結果が施策につながらない」という本末転倒な事態がめずらしくない。
具体的には、「セグメント数が多すぎる」「セグメントが現実的ではない」といった理由から、施策が実施できなくなってしまう。精緻な分析を求めるあまり、数百に及ぶクラスタが出てきてしまったり、よいクラスタを見つけたと思っても、施策を打つべき会員や商品が存在しなかったりするのだ。
一方、プロジェクトの最後ではまる落とし穴だが、「成功基準が明確ではない」ために、分析結果が施策に結びついたとしても、効果検証の際に思わぬ部署からツッコミが入ったり、逆に勝手な指標で評価されたりといったことが起きる。
「後出しじゃんけんをしたくなる気持ちはわかるのですが、そうなると、そもそも何のために分析したのか、本末転倒になってしまいます。それを避けるために、もはやテクノロジーでも分析でもないのですが、普段、お客様には、キーマン全員としっかりとコミュニケーション取っておいてくださいとお伝えしています」
具体的には、合意を取りやすい仕組みをつくることが重要だとして、KPIシート例やプロジェクト開始時のチェックリストなどを示した。
つまり、分析と施策が分断されているのが問題で、分析と施策が相互に入り組んでいるのが正しいプロジェクトフローなのだ。
データ活用プロジェクトの成否は、「最初」と「人」で決まる
データ活用プロジェクトがうまくいった例として、下田さんは某通販企業が抱えていた課題のうち、「顧客の変化への対応」に取り組んだ案件を紹介した。
はじめの目的設定・施策立案のフェーズでは、優良顧客の遷移を分析することから始めた。実施したのは、いわゆるカスタマージャーニー分析だ。これにより、「F0~F2の転換率の改善がポイント」であり、「クーポンの有用性」も判明した。
まずはF0、F1をF2へ転換させるために、誰にどのクーポンをオファーするか。それを導き出すのに、自社サイトやアプリ内の行動データ、会員属性などの顧客データを用いて分析したところ、「初回時に購入したアイテム」により、顧客育成上のステージが遷移することがわかった。こうして、セグメントが見えたのである。
これらの結果をもとに、ブレインパッドのデータサイエンティストを交え、具体的な施策に落とし込んだ。機能性を重視するユーザーには同時購入の特別クーポンを、デザインを重視するユーザーには、新商品の特別クーポンをといった施策を行い、PDCAを回すことで、購入単価が115%に向上するという結果につながった。
以上の成功プロジェクトを振り返り、下田さんはこうまとめた。
「データ活用のプロジェクトの成否は、最初の段階で決まっていると思います。成功させるためには、関連部署をしっかり巻き込んでミッション化する。テクノロジーよりは人の話に戻ってきます。また、プロジェクトフローの箇所でも解説したように、『分析だけ』『施策だけ』と分けるとうまくいかない。そのつなぎの部分でうまくいかなくなることが多いので、両方に精通した人は、社内にはなかなかいないと思いますが、まずは『気概』が重要なのです。どちらにもかかわっていくという気概を持って、データ活用プロジェクトに取り組まれていく人がひとりでも増えればと思います」(了)