売上創出、顧客獲得双方で成果をあげるSprocket
長年デジタルマーケティングに携わり、多くのECサイトの立ち上げ・改善に携わってきた深田氏。同氏が2014年に設立した株式会社Sprocketは、顧客の行動からコンバージョンを最適化するCRO(CVR Optimization:CVR最適化)プラットフォーム「Sprocket」を開発・提供している。
Sprocket導入企業の目的は、主に販売促進をメインとする「EC系」と、申し込み、資料請求、来店予約などを目的とする「獲得系」に二分することができる。これまでに累計300社以上の企業が導入しているが、その業種はさまざまだ。たとえば三井住友カード株式会社は、リボ払いへの理解を促進することで登録率が最大2.5倍に、アパレルECを手がけるマガシーク株式会社では、顧客データ連携によるパーソナライズ実現で売上1.4倍増などの成果をあげている。
Sprocketの特徴は、顧客の今の行動をとらえて1人ひとりに寄り添う体験を作り上げるリアルタイムパーソナライゼーションと、A/Bテストや行動分析を組み合わせてコンバージョン率改善を目指す点にある。深田氏は、これまでのキャリアの中で企業がツールを導入しても、リソースや知見の不足などさまざまな理由で、ROI(投資利益率)をクリアする前に解約してしまうケースを目の当たりにしてきた。このハードルを乗り越えるべく、価値提供にコミットするベンダーを目指して創業。それ以来、機能の磨き込みを続けてきたと言う。
同社は企業の成果にコミットすべく、積極的にA/Bテストを実践してきた。その結果が本講演のタイトルにもある、「5万回」という数字だ。絶えず仮説検証できる環境を社内に構築し、150パターン以上の業界別成功シナリオを作り上げた。自ら手を動かして得た学びをプラットフォームに落とし込むことで、EC系ではROIの上昇、獲得系ではCPA(顧客獲得単価)の改善を実現している。
5万回の試行錯誤から見えた4つのフリクション 顧客目線で設計を見直そう
深田氏は、SprocketがA/Bテストから得た学びを踏まえながら、具体的なコンバージョン改善策を紹介。ひとつめは、「顧客は思いがけないところで離脱している」という発見だ。さまざまな場面で起きるつまずき(フリクション)を、深田氏は大きく3つに分けた。
1. メニューアイコンでの離脱
ある食品系ECサイトでは、「ハンバーガーメニュー」と呼ばれるメニューアイコンをクリックしたことがない顧客が多かった。そこで「アイコンの意味がわからないのではないか」と仮説を立て、クリックすると商品一覧が現れる旨を吹き出しで表示したところ、購入完了改善率125%を実現。同事例は、「顧客がごく基本的なところでつまずいているという理解にもつながった」と深田氏は語った。
2. カゴ落ち(カートページ・フォームページでの離脱)
ECサイトを運営する多くの企業が持つ課題のひとつに、カートページや申し込みフォームページでの離脱がある。いわゆる「カゴ落ち」と呼ばれる現象だ。とくに初めて購入・申し込みをする顧客は、コンバージョンにつながる最後のアクションへ行くまでの過程で不安を感じ、離脱しやすくなる。
そこでSprocketでは不安を払拭するために、カートやフォームページで「ご不明な点はございますか」と代表的なFAQの項目を表示。不明点の解消を容易にすることで、購入完了改善率109%を記録した。
「FAQページを別途設けていたとしても、カートページから遷移して該当する項目を探すことは顧客にとって手間であり、離脱の要因になり得ます。そもそもFAQの存在を知らない可能性もあるため、こうした施策は有効です」(深田氏)
3. ログインエラーによる離脱
リピーターや会員の場合は、ログインエラー時に離脱する傾向が見られたため、SprocketではID(登録メールアドレス)やパスワードを失念した顧客向けに、リマインドページへ遷移できるポップアップ表示のテストを実施。エラーによりストレスを感じているユーザーは、IDの確認やパスワード再発行ページへのリンクを探すことすら手間と感じる可能性が高いと予測し、すぐに該当ページへたどり着ける工夫を施した。こうして離脱を防ぐことで、購入完了改善率は120%となっている。
さらに深田氏は、「こうしたフリクションは、主に4つに区分することができる」と続ける。
「ひとつめは、コンテンツの存在に気づかないことによるものです。顧客がWebサイトをくまなく見てくれることは稀であり、FAQのような基本的なコンテンツであっても、在に気づかず離脱されてしまうケースは非常に多くなっています。
ふたつめは、コンテンツを見ようと思わないことによるフリクションです。『自分には関係がない』『興味がない』と思われてしまうと、重要な情報でも見落としや見過ごしが発生します。3つめは、コンテンツに到達できないという問題です。先ほどのハンバーガーメニューの意味がわからないケースも、このパターンに入ります。
そして4つめは、コンテンツの内容が理解できないというものです。とくに初めて手に取る商材やこれまで経験したことがないサービスにおいては、こうしたフリクションが発生しやすくなります。Webサイトの離脱を改善するには、フリクションが起きている原因のパターンを理解し、顧客視点で丁寧に体験を設計し直すことが重要です」(深田氏)
顧客に自己解決を求めるのはNG 提案型の発想へ切り替えを
多くのA/Bテストを行う中で、「顧客は思いがけないところで離脱している」ことに加え、「セルフサービスの前提はもう成立しない」と発見した深田氏。そもそも、気づかない、もしくは見ようと思わない顧客に自らフリクションを解決してもらうことは難しい。そこで必要となるのが、提案や解決策を提示するアプローチである。深田氏は、これについて3つの事例を紹介した。
1. 顧客の目的に合わせて遷移先を提案
ECサイトのトップページはコンテンツが多く、顧客がどこに遷移すべきか迷いやすいため、直帰率は高くなりやすい。本事例では、新規顧客に向けて目的別の案内を行うことで116%の購入完了改善率を記録。こうした案内表示には「タイミングも重要」だと深田氏は語る。
「顧客のリアルタイムの行動から、『行き先を見つけることができていない』と検出し、数秒以内に行き先の候補を提示。さまざまな遷移先が存在する場合はテストを重ね、セグメントを分割するなどしながら最適解を確かめていきます」(深田氏)
2. まだ使っていない機能の利用を提案
顧客の動きをとらえたアプローチとしては、未使用の機能利用を促すことも効果的だ。本事例では、商品検討中の顧客に対して商品一覧ページの絞り込み検索機能を案内したところ、購入完了改善率が113%となった。
「お気に入り機能を実装するECサイトは増えていますが、実際に利用している顧客が全体の10%を超えるケースを、残念ながら私はほぼ見たことがありません。こうした有効活用できる機能を適切に提案すれば、利用率を上げるだけでなく、コンバージョンにも寄与するなど高い効果が期待できます。顧客に一方的に使いかたを学んでもらおうとするのではなく、提案型で一緒に覚えてもらう。こうすることで、着実に成果へとつなげることができます」(深田氏)
2. アプリの利便性を案内
本事例では、アプリの存在を周知する目的のパターンAと、ダウンロードキャンペーンの訴求を行うパターンBのふたつのポップアップでA/Bテストを実施。パターンAのほうが成果が大きく、顧客の多くはアプリの存在を知らない、もしくはあまり理解していないことが判明した。そこで、パターンAに絞って訴求したところ、アプリダウンロードボタンのCTRが250%以上を記録したと言う。
深田氏は、「顧客に自ら見て動いてもらう」といったセルフサービスの考えが通用しなくなった背景には、「コロナ禍によるECサイト利用者層の拡大や、情報との付き合いかたが受動的なデジタルネイティブ世代の動きが関係している」と説明する。
「YouTubeやTikTokなど、積極的にレコメンドを行うチャネルに慣れている顧客は、むしろこうした体験に気持ち良さを感じているとうかがえます。つまり、自己解決してくれることを期待しても、動いてくれる可能性は低いということです。提案・提示して行動を促す視点や発想が、今後ますます重要になると言えるでしょう」(深田氏)
実店舗の接客同様、顧客が聞いてくれるタイミングを逃さない
提案や提示が求められる時代であっても、タイミングを誤れば顧客の体験を損ねてしまう。そこで鍵となるのが、顧客の行動やその意図をリアルタイムで読み解きながら、耳を傾けてもらえるタイミングを見極めて、適切な提案を行うことだ。深田氏は、ここで3つの事例を紹介した。
1. リピート顧客に向け、検索結果ページのソート方法を案内
商品検索を利用した顧客が、検索結果件数の多さから離脱する状況を避けるべく、検索結果表示直後にソート方法を案内。購入完了改善率は112%を記録した。
2. 困っている顧客にチャットを案内
商品詳細ページに一定時間以上滞在する顧客に疑問点や困りごとを解決できるチャット機能の活用を提案。チャット起動改善率128%、購入完了改善率116%を記録した。
3. 購入後に再訪した顧客へレビューを依頼
購入検討意欲が高まっている再訪顧客に向け、レビュー投稿で次回以降の買い物に使えるポイント付与がある旨を訴求。レビュー投稿完了改善率は138%を記録した。
「いずれも適切なタイミングを見計らって提案し、成果につなげています。こうした施策を検討する際に必要となる考えは、実店舗の接客と同様です。『様子を見てお声がけする』というアプローチは、オンラインでも有効に働きます」(深田氏)
Sprocketではこの発想を突き詰め、より複雑なマルチステップWeb接客を展開できる機能を提供している。あるアパレルECサイトでは、顧客が来訪したタイミングで10秒程度の新商品に関するティザー動画を表示。続けて、商品詳細ページへ誘導するリンクを表示してパーミッションを取り、遷移した顧客にはさらに長尺の動画を表示する。「声をかける→質問を投げかける→店内の奥へと案内する」という実店舗接客のノウハウを活かしたステップを踏むことで、購入完了改善率は114%を記録した。
「こちらから働きかけなければ商品に気づかない、買うまでに至らない顧客であったとしても、上手に魅力を伝えて理解していただくことができれば、購入に至る好例だと思います。こうしたECサイト上でのアプローチは、まだまだできることがあると言えるでしょう」(深田氏)
ここまで、「フリクションレスな体験を作る」「こちらから解決方法を提示する」「耳を傾けてもらえるタイミングを考える」といった体験設計で重要なポイントを3つ紹介してきたが、深田氏はここで「もうひとつ押さえておきたいポイントがある」と補足。それは、「Web接客のポップアップUIが、悪い体験になってしまう可能性もある」という点だ。
「きちんとした設計なしにポップアップでの訴求を行うと、悪い体験を生み出すことにつながってしまいます。ポップアップ作りにおいては、『閉じやすい』『誤クリックが起きない』『邪魔にならない』の3つを意識することが欠かせません。いずれにせよ大切になのは、顧客よりも先回りする発想であると言えます」(深田氏)
Sprocketは、こうした発想を基にWeb上で良質な顧客体験を提供するさまざまな機能を取り揃えている。効果測定においても、A/Bテストの結果を分析するだけでなく、テストパターン別のCVRの時系列推移やマルチステップWeb接客におけるドリルダウン分析など、詳細まで可視化しながらPDCAを回すことが可能だ。また、顧客ごとのページのパーソナライゼーションや他社データとの連携も実現できる。
加えて、コンバージョンに至る行動パターンを発見するゴールデンルート分析、顧客の離脱ポイントを探すヒートマップ分析など、仮説を導くための分析機能を有する点も特徴と言える。深田氏は最後にこのように語り、セッションを締めくくった。
「Sprocketは、今後も充実した支援体制・機能を提供し、顧客と導入企業の長期的な関係構築と成果にコミットしていきます」(深田氏)
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バナーやボタン、ポップアップは、ちょっとした違いで成果が変わってきます。本資料では注意を引く見せ方・訴求のポイントを、クイズ形式で解説しています。