複数のアパレルブランドを所有する株式会社ワールドは、アパレルの販売だけで事業が成立しているわけではありません。ファッション業界が長年抱えてきたサプライチェーンの課題解決に正面から取り組んだことで、複合的なビジネスモデルの確立や、ほかにはない企業の強みを獲得することができました。
今回は、アパレルの巨人といわれるワールドが構築した事業形態や、新型コロナウイルス以降の取り組みについて、注目すべきポイントをピックアップして解説します。
株式会社ワールドの企業情報
まずは、株式会社ワールドの基本的な情報について確認します。
株式会社ワールドの会社概要
株式会社ワールドの会社概要は、次のとおりです。
社名 | 株式会社ワールド |
---|---|
本社所在地 | 兵庫県神戸市中央区港島中町6丁目8番1 |
設立年月日 |
1959年1月13日 |
代表者名 |
代表取締役会長 上山 健二 |
株式公開 | 東証プライム市場上場 |
資本金 |
60億円 |
おもなグループ会社 | 株式会社ワールドインベストメントネットワーク 株式会社ワールドプラットフォームサービス 株式会社ワールドストアパートナーズ |
グループ会社はワールドが有する事業ごとに細分化されており、現在も買収などによって増加の一途をたどっています。
株式会社ワールドの事業内容
株式会社ワールドの事業は、大きく分けてブランド事業、デジタル事業、プラットフォーム事業の3つに分けることができます。
ブランド事業
ブランド事業は、アパレルを必要とする多様な年代層に向けて適切な商品を届けられるよう、およそ50(2020年6月末時点)の多彩なブランドを展開して成立しています。国内外に2,441店舗(2020年6月末時点)もの実店舗を持ち、EC経由でも展開するなど、業界では大きな影響力を有します。
デジタル事業
デジタル事業は、自社ブランドのECモール運営はもちろんのこと、他社ECショップの運営やファッション関連サービスの開発、ソリューション提供も行っています。
CtoC需要の高まりやクリエイター尊重の時代に合わせ、独自のシェアリングサービスやクリエイターサポートサービスを提供する「Neo-Economy(ネオエコノミー)」事業にも着手し、既存の領域にとらわれないビジネスモデルの構築を進めています。
プラットフォーム事業
プラットフォーム事業の領域においては、半世紀以上培ってきた自社ノウハウを活かした、ファッション産業の課題解決に向けたワンストップソリューションの提供に努めています。
アパレル商品開発はもちろん、空間デザインやアパレル販売代行、購買コスト削減コンサル、人材研修、ECプラットフォーム開発などの幅広い領域で活躍し、7つの領域と17のソリューションを組み合わせることで、クライアントの課題解決に取り組んでいます。
おもなブランドの紹介
多角的な事業展開はワールドの大きな強みのひとつですが、最大の特徴は約60のブランドを複合的に展開する引き出しの多さにあるといえるでしょう。同社では顧客ニーズに合わせたブランド展開を推進し、ターゲットへの訴求効果を高めています。
アパレルブランド
ワールドが展開するアパレルブランドは、テナントが入る商業施設の特徴や客層に合わせて豊富に展開されています。
たとえば百貨店では、来店者の年齢層が高く、購入単価も高いことが予想されるため、紳士服を扱う「タケオ・キクチ」や婦人服の「UNTITLED(アンタイトル)」、ゴルフウェアの「adabat(アダバット)」といったブランドが並びます。
また、大人のための上質なセレクトアイテムとオリジナルブランドを販売する「DRESSTERIOR(ドレステリア)」などは、百貨店だけでなく、駅ビルなどにも展開されています。
そのほかショッピングモールなどでは、ファミリー向けのニーズに合わせて、レディースやキッズ向けの服飾雑貨を取り扱う「SHOO-LA-RUE(シューラルー)」や、ティーンエイジャー向けの「PINK-latte(ピンク ラテ)」といったブランドを展開し、ファミリー層のニーズ解消に努めています。
ライフスタイル
ワールドではアパレルブランドだけでなく、生活雑貨などをそろえるライフスタイルに焦点を当てたブランド展開も行われています。
キッチン雑貨を扱う「212 KITCHEN STORE(トゥーワントゥーキッチンストア)」やインテリアをそろえる「LAURA ASHLEY(ローラ アシュレイ)」、服飾雑貨やコスメなどを扱う「IT’SDEMO(イッツデモ)」など、衣食住に関する品々やブランドのラインナップが豊富です。
株式会社ワールドの沿革
ここで、株式会社ワールドの沿革についても簡単に振り返っておきましょう。同社が築いた60年以上の歴史を表にまとめると、以下のようになります。
年 | 沿革 |
---|---|
1959年 | ニット婦人セーターの卸売業株式会社ワールドを設立 |
1967年 | ニット単一商品からトータルコーディネートブランド「ワールドコーディネート」を開発 |
1970年 | ワールド商品のみを取り扱う専門店「オンリーショップ」制を導入 |
1974年 | 子供服分野へ進出 |
1978年 | メンズ分野へ進出 |
1980年 | 衣料品の製造及び製造企画を行う株式会社ワールドインダストリーを設立 |
1984年 | レストランやカフェを運営する株式会社ルモンデグルメを設立(2012年に全株式を譲渡) |
1987年 | 中国・上海に合弁会社を設立し、中国での生産、販売を開始 |
1993年 | 初のSPAブランド「オゾック」で百貨店SPA業態を開発し、本格的に小売事業の展開を開始 |
2002年 | ダイレクトマーケティング事業へ参入 |
2005年 | インテリア事業及びホームファッション事業に参入 企業価値の最大化を図るためMBOによる株式の公開買付けを行い、上場を廃止 |
2011年 | 新たなECプラットフォーム事業の構築を目指し、株式会社ファッション・コ・ラボを設立。 |
2015年 | ジャージ製品メーカーである株式会社センワをグループ会社に迎え、国内生産基盤を強化。 |
2017年 | 株式会社ワールドを持株会社とする、事業持株会社体制へ移行 |
2021年 | 英国ライフスタイルブランド「ローラ アシュレイ」直営店の出店開始 個人の作り手・発信者に向けてプラットフォームを提供するワールド・ファッション・クラウドを始動 |
今でこそ自社ブランド製品の販売が主流である株式会社ワールドですが、創業当初は卸売業を手掛け、後に衣料品の自社製造、ダイレクトマーケティング事業へ参入していることがわかります。インテリア事業などアパレルの周辺領域にも進出を見せ、幅広く需要を取り込むことで事業規模を拡大させてきました。
2021年からはクラウドプラットフォームにも進出するなど、SaaS事業の可能性に注目し始めていることがわかります。
株式会社ワールドの強みや特徴
以上のような沿革や事業展開を踏まえ、株式会社ワールドが独自に有する企業としての強みや特徴を確認しましょう。
ビジネスモデル
株式会社ワールドのビジネスモデルは、前述のブランド事業とデジタル事業、そしてプラットフォーム事業という3つの軸を中心に据えたものです。
直接消費者と接点を持ち、最先端の需要に応えるためにブランド事業を育てながら、商品をより確実に届けるため、そしてファッションの領域で活躍する他社の問題解決を進めるべくデジタル事業にも注力します。
さらに「ファッション産業が抱える根本的な課題解決」という、より抽象度の高い問題解決と、まだ見ぬ価値創造を実現するためプラットフォーム事業に着手し、ソリューションのワンストップ提供に向けた活動を進めています。
デジタル事業とプラットフォーム事業への投資は近年ワールドが加速している2大事業です。デジタル事業においては、自社ECにおいて他社のブランドの扱いを開始し、ECサイトの「モール化」を進めたことや、外部ECとの取引の拡大によって売上高の向上に貢献しています。
一方のプラットフォーム事業では、他社の店舗設計デザインや商品のOEM・ODM、コスト削減コンサルティングなどを、新しい子会社であるワールドプラットフォームサービスに一本化しました。
従来分野ごとに別個の子会社が対応してきたプラットフォーム事業を1つの会社にまとめたことで、アパレル販売ソリューションを一気通貫で対応する仕組みを整えています。
事業の強み
株式会社ワールドの最大の強みといえるのが、アパレル系の企業でありながらデジタル面のソリューション開発が盛んに行われている点です。ECシステムを自前で構築しているのはもちろん、事業の一環として自社のECパッケージや関連ソリューションを他社に提供することもあるなど、高度なノウハウが形成されている様子がわかります。
このような強力なシステム開発環境が整備されるきっかけとなったのが、衣料品領域におけるサプライチェーン開拓です。2000年代前半、変化の速いトレンドを有するファッション業界において、市場の需要に2週間以内に対応し、期中商品を販売できるアパレル企業は世界でZARAとワールド以外になかったといわれています。
顧客が求める洋服を、顧客が求めている間に提供するためのサービス作りに力を入れるべく、ワールドは情報システムの整備に早期から多大な投資を行いました。その結果として、サービスの実現とノウハウの蓄積を進めることとなり、独自の強みを強化していったのです。
近年の大きな取り組み
アパレルECの台頭や新型コロナの感染拡大といった社会の大きな変化に対応すべく、株式会社ワールドもさまざまなアプローチで危機を脱し、売上拡大に向けた取り組みを進めています。
構造改革に伴う事業規模の縮小
新型コロナの感染拡大を受け、まず株式会社ワールドが取り組んだのが事業規模の縮小です。2020年8月、同社は5ブランドの収束と358店舗の閉店、早期退職者の募集を進め、供給過剰に陥っていたビジネスモデルの矛盾の見直しを進めました。
同社はこのような大規模な構造改革にかかるコストとして同期に57億円の費用を計上し、再スタートに向けかじを切っています。
子供服メーカー「ナルミヤ」の買収
株式会社ワールドはただ事業の規模を小さくするだけではなく、社会の変化に応じて生まれた新しい需要にも目を向けていることがわかります。
同社は子供服メーカーの株式会社ナルミヤ・インターナショナルを2022年1月に買収し、子供服需要の取り込みに力を入れています。
子供服開拓は他社でも見直しが進んでおり、株式会社ユニクロを傘下に持つ株式会社ファーストリテイリングは、2021年よりベビー服事業に参入しています。買い替え需要や贈答品として底堅い需要があることから、アパレル不況といわれる時代において重宝されている分野です。
国内生産への回帰
海外生産拠点の引き揚げや国内生産への回帰が進んでいる点も、株式会社ワールドの大きな変化のひとつといえます。
現状、ワールドが販売する高価格帯商品の約4割を国内で生産していますが、円安や人件費の高騰に伴い、同社では今後3年から5年ほどで高価格帯商品の大半を国内生産に切り替える予定です。また、今後も同じようなトレンドが続けば、国内生産の割合はますます大きくなると考えられます。
目を通しておきたい株式会社ワールドのトピックス
2024年3月11日:ワールド、新業態のOMO型ストアを有楽町・国分寺マルイにオープン ブランドの垣根なきサービス提供へ
ワールドは、グループ公式サイトと連動したOMO型ストア「THE GALLERY WORLD ONLINE STORE(ザ ギャラリー ワールド オンラインストア)」の1号店を有楽町マルイ、2号店を国分寺マルイにオープンした。
2023年8月1日:ユーズドセレクトショップ「RAGTAG(ラグタグ)」白洋舍と買取サービスをスタート~循環型社会の実現を目指した異業種との取り組み~
ワールドグループでブランド古着の販売と買取を行うティンパンアレイが、白洋舍と提携し、衣料品の買取サービスを開始すると発表。顧客の所有する衣類を白洋舍のクリーニング・リペア技術で蘇らせ、古着買取サービスで二次流通させることで、「持続可能な衣料品のライフサイクル」を推進する。
2023年2月2日:―ファッション産業の多様性と持続可能な社会を目指して―「GHGを可視化したサステナブル新素材」を開発 環境省事業を通じて企業を横断して成果創出
ワールドグループは、昨年8月に選定された「環境省 令和4年度サプライチェーンの脱炭素化推進モデル事業」の取り組みのひとつとして、サプライヤーと共にGHG(温室効果ガス)削減に向けたサステナブル素材の共同開発を行い、従来の素材と比較をしたGHG排出量の削減率を明確にしました。
2022年11月28日:注目の人気デザイナー達と商品を企画 「world creators project」を始動
ワールドは、国内コレクションブランドのデザイナー達と共同で「world creators project」をスタートし、ブランド開発を行うことを発表した。
2022年9月8日:ハウス オブ ローゼが運営する「Oh!Baby」のポップアップ店舗に、ワールドがプラットフォーム事業で空間デザインと販売をサポート
ワールドグループは、ハウス オブ ローゼが展開する化粧品、バス・ボディケア商品の「Oh!Baby」の期間限定店舗において、空間・店舗デザインと販売サポートのプラットフォームサービスを提供している。
2022年8月11日:ワールド、第1四半期は「EC販路が好調」 取扱高は23.7%増の103億円
ワールドの2022年4‐6月期(第1四半期)における、ECの取扱高は、前年同期比23.7%増の103億5500万円。EC化率は前期比0・17ポイント減の20.54%となった
2022年8月2日:~ワールドのユニフォーム/アパレル企画製造~ 甲子園救護班のユニフォームを生産 医療法人 明和病院のスタッフが夏の甲子園で着用
ワールドグループは、「全国高等学校野球選手権大会」で高校球児および観客の救護班をつとめる、明和病院のスタッフが着用するユニフォームのデザインと生産を手掛けた。
2022年6月21日:衣料品引き取りリサイクル 「ワールド エコロモ キャンペーン」~こども達の未来のために累計 104,930,827円を寄付~
ワールドグループは、2021年秋冬シーズンに全国の百貨店53店舗との共催、ならびにショッピングセンター、アウトレットモール10店舗で開催した、衣料品引き取りリサイクル 「ワールド エコロモ キャンペーン」(2021年9月3日~2022年1月31日)で553,357点の衣料品を回収し、収益金1,806,897円を5箇所に寄付した。
2022年6月9日:ファッション・コ・ラボが 「IT導入補助金2022」の導入支援事業者に採択 ~販売と物流のDXソリューションの導入に~
ワールドグループのファッション・コ・ラボは、経済産業省が推進する「IT導入補助金2022」の支援事業者として採択された。
2022年5月10日:年初来高値を更新。今期純利益23倍の見通し
アパレル大手のワールドは、2023年3月期(今期)の連結純利益(国際会計基準)が前期比23倍の55億円になりそうだと発表した。
2022年3月4日:ファッション企業がつくる新たなオフィス空間 ワールドのノウハウで今春 オフィスデザイン・施工の外販拡大
ワールドグループのワールドスペースソリューションズは、2016年から手掛ける法人向けBtoBサービスのうち店舗づくりで培った「空間・店舗デザイン・VMD」のノウハウを活かし、今春から新たにオフィス空間のデザイン・施工を開始した。
まとめ
株式会社ワールドは数々のアパレルブランドを所有するアパレルの巨人と称されていますが、事業構造としては、デジタル事業やプラットフォーム事業がビジネスモデルの構築に大きく寄与していることがわかります。
また、必要とあれば大胆な構造改革にも着手し、確実に黒字化を進められる意思決定能力や確かな判断力も示すなど、スタートアップ企業のような思い切りのよいアクションが行える点も強みのひとつです。
巨人と化した大企業から学べることは少ないといわれることもありますが、常に時代の差異先端を切り拓いてきたワールドはその限りではなく、これからのアパレル業を考えるうえでは興味深いケースであるといえるでしょう。