運用型広告運用のインハウス化が国内外のトレンドに
広告代理店として創業から10年以上にわたり、顧客企業のインハウス支援に取り組んできたオーリーズ。「とくにこの1年で、インハウス化についての問い合わせが急速に増えた実感がある」と漏田氏は言う。
その傾向は海外ですでに顕著であり、Bannerflow社がDigidayと共同で発表したインハウスレポート「State of In-Housing 2019」によると、2019年には91%の企業が「デジタルマーケティングの一部の業務をインハウス化している」と回答している。今後、オーリーズの顧客だけでなく日本全体で広告運用のインハウス化が進んでいくのは明らかと言えるだろう。ただし、漏田氏は「インハウス化と聞くと『すべて自社でやるもの』と思われがちだが、実態はそうではない」と語った上で、こう続ける。
「インハウス化を進めている企業では、同時に外部の広告代理店をうまく利用しています。『内製』と『外注』二項対立ではなく、『双方の協働』という考えかたが重要です。そして、こうした議論が生まれる背景を理解し、広告主と広告代理店のよりよい関係性を考え、さらに『広告運用代行』という考えかたをアップデートしていただければと思います」(漏田氏)
たしかに、GoogleやFacebookなどのプラットフォームが成長を遂げ、各種システムやテクノロジーの統合・民主化が進む中で、広告運用代行そのものの価値が変化しつつあることは間違いない。そもそも「需要が減少する」という言説以前に、日本では依然として成果にそぐわない多額の手数料に依存したり、運用型広告のポテンシャルを引き出せない運用を行ったりといった悪質な広告代理店の存在もないとは言い切れず、漏田氏は「時代と逆行しているケースも少なくない」と指摘する。
では実際、これからの時代に広告代理店が提供できる『本当の価値』とは何なのだろうか。漏田氏は「企業が広告運用をインハウス化するのは、広告代理店の提供価値を考えた際にさまざまな課題解決につながる選択肢のひとつであり、運用型広告の成果を高める上でも有効な打ち手と言える」と説明する。
そもそも、企業内で広告運用のインハウス化が検討される背景には、「成果の頭打ちを感じている」「広告代理店が踏み込んでこない」といったネガティブな理由と、「自社のデータと広告運用を連動させたい」「攻めの運用をしたい」といったポジティブな理由の双方が存在すると考えられる。これを踏まえ、さらに予算規模の大小という軸でマッピングすると、内製と外注でそれぞれ対応すべき事項が見えてくる。
右上の「ポジティブ×予算規模:大」のエリアについては、「データ統合・活用」「透明性の追求」などの項目が該当し、各広告チャネルとのAPI連携や企業が持つデータプラットフォームとの統合などが求められるため、個人情報保護の観点から広告代理店が踏み込むハードルは高いと考えられる。
右下の「ポジティブ×予算規模:小」に該当する「経験者在籍」については、ウェブサービスなどのスタートアップに多いケースだ。専任でなくとも、運用型広告の知見を持つ人材が内部にいれば自社で広告運用をまかなえるため、「外注する理由がなくなった」とも言える。これも、企業が事業成長する上では問題のない判断と言えるだろう。
目を向けるべきは左上の「ネガティブ×予算規模:大」と、左下の「ネガティブ×予算規模:小」だ。前者については「成果が頭打ち」「施策のマンネリ化」といった事項が該当し、広告代理店に求める期待値とのギャップから不満が生まれているケースである。後者は、広告代理店に依頼する予算の不足のみならず、経験者の確保も困難な状況で、仕方なく社内の人材が見様見真似で手を動かしている状況を浮かべると想像に容易いはずだ。
これら4つのタイプを端的に示すと、次のようなキーワードで分けることができる。
漏田氏によると、この中で広告代理店が目を向けるべきは、一定額の予算を持ちながらも「自社でやったほうがよさそう」と考えるタイプだと言う。
安定期において広告代理店と広告主の間に生まれる「期待値ギャップ」とは
漏田氏は「一定額の予算」を年間予算5,000万円程度~(月間予算500万円程度~)と定義づけ、十分な予算を確保しながらもインハウス化を考える理由について解説を進めた。企業がこうした動きをする背景には、広告代理店への課題感や不満を抱いているといった理由だけでなく、「媒体の自動化・寡占化」「施策の多様化」「広告枠の自由取引化」「市場の若さ・人材不足」といった広告・マーケティングの環境変化も作用していると言える。
「当社は広告代理店として、こうした動きを踏まえながら企業や運用型広告との向き合いかたを構造的に見直さなければならないと考えています。そこで意識しているのは、広告代理店の報酬形態とその裏側にあるビジネス設計です」(漏田氏)
多くの場合、広告代理店は広告費に連動して報酬額が決まる「手数料型」の報酬モデルで企業と契約を結んでいる。すると、契約開始時は顧客支援にかけるリソースが大きく、広告代理店側もともすればオーバーワークになりがちだ。主に施策初期段階で広告代理店が手掛ける業務は、次のとおりだ。
なお、運用が安定すれば少ないリソースで十分な利益(成果)を出すことが可能な「安定期」と呼ばれるフェーズに入る。ここで行う主な広告運用代行業務としては、次のようなものが該当する。
さまざまな角度から試行錯誤を重ね、できるだけ再現可能な方法を見出しパフォーマンスを安定させる──いわば「再現性」と「安定性」が手数料型のビジネスを採用する広告代理店にとって重要なキーワードとなるが、安定期がしばらく続くと広告主にとっては頭打ちに見えてしまう。
ここで頭打ちと表現されている状況は、「初期施策をやりきった」ことにほかならず、ある種目指すべき姿のひとつと言える。ここで漏田氏は「やりきった瞬間ではなく、『その後』の広告代理店の対応に問題がある」と指摘する。
多くの広告代理店は、広告配信費に手数料を上乗せする形で契約を結んでいるため、獲得報酬額は広告配信費に依存する。つまり、配信金額が伸びる見込みがなければ支援の内容を大きく変えようと動くことはなく、現状維持のための打ち手のみに終始するのも無理はないが、「これは意図的なものではなく、構造上の問題」だと漏田氏は続ける。
「広告代理店と広告主の利害が一致しないがゆえに、支援が後手となる。これが頭打ちと言える状況に陥る原因のひとつです。そして、自社の利にならないことを理由に広告主へ新たな提案を示さない広告代理店は広告主から『踏み込んで来ない』と思われ、広告主はインハウス化を検討し始める。期待値のギャップがこのような事態を生んでいるのです」(漏田氏)
期待値ギャップ解消に向けたインハウス化の進めかた
では、安定期において広告主は広告代理店に何を期待しているのだろうか。昨今は「広告運用」とひとことで表しても、課題と解決方法の多様化が進んでいる。
たとえば、「動画」「LPO(ランディングページ最適化)/EFO(入力フォーム最適化)」「DMP(Data Management Platform)」「Data Feed(データフィード)」「記事広告」「アトリビューション」と打ち手は多岐にわたり、用いる手段やツールも「BI」「統計解析」「CRM」「MA」などといったように、広告運用との境界が曖昧になっているのが実情だ。また、広告運用にも欠かせない「顧客を知る」「小さな改善を行う」といった施策展開には、データ活用が欠かせなくなっている。
つまり、広告代理店と広告主の間に生まれる期待値ギャップとは、広告主が持つ「データ活用をして、成果をより改善してほしい」という期待と、「課題解決のレイヤーを上げたい」という要望に、広告代理店が応えきれていないことから生じていると考えられる。
しかし、従来型のビジネスモデルで広告代理店がデータドリブンな広告運用を実践するのは困難である。広告運用と連動しないリソースが費やされることで、利益が減少してしまうからだ。また、成果に応じた金額を支払う「変額型」を導入するという方法も、広告代理店側の報酬が減少するリスクやリソース投入難度が上がることから現実的ではないと考えられる。
そこで、データ活用と課題解決のレイヤーを上げる手段として漏田氏がお薦めしているのが、インハウス化だと言う。同氏は『実践 インハウス・リスティング広告 「丸投げ体質」から脱却するSEM成功の新条件』(インプレス)を参考に、次の3つのレイヤーに分けた体制作りを提案した。
- ヘビー:広告運用のすべてを自社で行う
- ミドル:運用は自社で行い、戦略・作戦・戦術を広告代理店と協働する
- ライト:戦略は自社で考え、作戦は広告代理店と協働、戦術・運用を広告代理店に依頼する
「いずれも共通して重要となるのは、アカウントや各種ツールのデータオーナーは自社が務めることです」(漏田氏)
さらに漏田氏は、インハウスに関する「よくある誤解」として、セッション冒頭で説明した「すべて自社でやることととらえること」に加え、「計画的に進行できるととらえること」を挙げた。広告主側の企業としては、ついライトタイプから開始してミドル、ヘビーと徐々に自社が手掛ける領域を拡大させるイメージを描きがちだが、「そう順調にいくものではない」と説明する。
たとえばオーリーズが手掛けたある企業では、予算の増加にともないヘビーレイヤーでのインハウス化を検討。運用スキルを持つ人材を採用した上で自社でアカウントを保有し、リスティング広告から内製化を開始したが、ディスプレイ広告への移管のタイミングで予算増加や施策が多様化し、運用の難易度がアップしたことから、ミドルでの運用体制を継続する道を選んだ。同社はその後、リスティング広告の内製化メリットを感じることができず、最終的にライトに戻ったと言う。
「インハウスの運用体制は揺れ動くケースがほとんどであり、計画に沿って進捗し、継続的にインハウスを実現できているケースはごく稀です。インハウス化は組織の変化そのものであり、さまざまな影響を受けることがその原因と言えます」(漏田氏)
5つのサービスを用意し、さまざまなインハウスニーズに対応
漏田氏は、「このように可変的なインハウスニーズに対応するべく、オーリーズでは次の5つのサービス形態を用意している」と紹介する。
- コンサルティング─固定型:インハウスを実現・維持するための目的に応じた伴走型コンサルティングサービス
- コンサルティング─チケット型:必要なタイミングでニーズに応じて広告運用に関する相談に乗るアドバイザーサービス
- ブースター代行:短期でも依頼可能であり、広告運用に関連するさまざまな作業代行を担うサービス
- トレーニング:広告運用やアドテクノロジーに関するトレーニング(座学と実践)を行うサービス
- オプションサービス:各種ツール・システムの導入支援、分析サービス
同社では、次のようなロジックツリーに沿ってヒアリングを行い、広告主の要望に応じたカスタムメイドなサービスを提供している。
ここで漏田氏が、とくにインハウス化を目指す広告主からの相談として多いケースをふたつ挙げた。
インハウスに向けてできることから進めたい、透明性を高めたいケース
検索広告・動画広告の運用は外注、ディスプレイ広告は自社で運用しているが、すべての領域をインハウス化したいと考えている。社内リソースの確保が難しく進捗が芳しくないが、できるだけ早く広告データとCRMデータを連携させて効果分析を行いたい。
このケースでは、オーリーズがブースター代行を実施し、「10ヵ月ほど経過したところで広告運用担当者の採用が叶い、現在は検索広告・動画広告の内製化を実現できている」と漏田氏は説明した。
将来的なインハウスを見据えた広告代行パターン
直近で大きな資金調達を行ったスタートアップ企業。今後の資金調達に向けて、ユーザー獲得を成功させるべく広告運用のインハウス化を検討しているが、採用活動に苦戦している。
このケースでは、オーリーズがブースター代行を実施し、アカウントの立ち上げから支援。将来的なインハウス化を見据えた支援を行っていると言う。
最後に漏田氏は次のように語り、セッションを締めくくった。
「インハウスは課題解決のひとつの選択肢であり、運用型広告の成果を高める有効な打ち手と言えます。実現するには、広告主と広告代理店が手を取り、中長期で体制構築するシナリオを設計することが重要です。
オーリーズは『あなたを、叶える』をモットーに、パートナーとして深い協業関係を築きながら、手法にとらわれずに目標達成への最短距離を描いていく広告代理店です。アジャイル思考で成功へと導けるよう、チャレンジを通じて広告運用のあるべき理想形を今後も体現していきます」(漏田氏)