マーケティング&コンサルテーションの富士キメラ総研は、これまでの部分最適による業務改革・デジタル化から、急速な環境変化や不確実性への対応に向け、全社的な戦略や意思決定に基づき進められているDX関連の国内市場(投資額)を調査。その結果を「2023 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編」と「同 ベンダー戦略編」にまとめた。
DXとは、AIやIoT、クラウドコンピューティングなどのデジタル技術を活用し、業務やビジネスモデルの変革、新規ビジネスの創出や顧客価値創出を目指す取り組みである。
市場編
DX関連市場(投資額)と、注目ソリューション9品目の市場動向
- 業種別:製造、流通/小売、金融、医療/介護、交通/運輸/物流、不動産/建設、自治体、教育、社会インフラ/その他業界
- 業種共通:営業・マーケティング、カスタマーサポート、コミュニケーション、バックオフィス、戦略/基盤
ベンダー戦略編
DX関連ソリューションベンダー41社のビジネス戦略や国内企業のDXの実施状況や推進体制、投資分野/予算、課題などを把握するために実施したユーザーアンケート
同調査結果の概要は、次のとおり。
DX関連の国内市場(投資額)
DXは企業価値向上を実現する重要な経営課題のひとつと位置付けられるとともに、最近では社会課題の解決につながる取り組みとしての認識が広がっている。大手企業を中心にDX戦略の策定および推進体制の構築が進んでおり、全社戦略として各部門や現場に合わせた具体的なDX施策に向けた投資が本格化している。
業種別9分野、業種共通5分野のDX関連市場(投資額)は2022年度で2兆7,277億円が見込まれ、2030年度には6兆5,195億円に拡大すると予測。なかでも、製造、流通/小売、金融、交通/運輸/物流、不動産/建設、バックオフィスなどの分野の伸びが注目される。
製造
環境変化への対応強化、技能継承/人材不足対策、脱炭素化への取り組みを軸に進められている。現状、 スマートファクトリーへの投資規模が大きい。他周辺システムとの連携を機にMES(製造実行システム)の更新 や新規投資などが増えている。中小企業でもIoTによる設備/機械監視など部分的なスマートファクトリーへ向けた投資が活発化している。生産現場のリアルなデータをバーチャルで構築・再現することで、業務効率化や品質向上を図るデジタルツインを活用するための投資が活性化するとみられる。
今後はデジタル現場支援や調達/購買DXなどが大きく伸びると予想される。デジタル現場支援は、技能継承や人に依存する作業品質の向上を目的として、スマートファクトリーとの連携を目指し、関連データの収集/蓄積や分析に関する投資増が期待される。調達/購買DXは、有事の際にその影響の迅速な把握や代替となる調達経路の確保へ向けたBCP対策の一環として、サプライヤー管理のニーズが高まったため、大手企業を中心に投資が拡大している。今後はグリーン調達の実現に向けた取り組みも進展するとみられる。
流通・小売
現状は次世代ショッピングの規模が大きい。実店舗の人手不足を補い、来店客の購買体験を改善・拡充するフルセルフレジ、また、食品スーパーや総合スーパーではタブレット端末付きショッピングカートの導入が進んでいる。今後は無人店舗ソリューションの伸びも期待される。ショッピング体験の拡充に向けては、小売事業者やSI、広告事業者がAR/VR技術を活用した展開を進めている。デジタルオペレーションでは、自動発注システムが食品や総合スーパーを中心に採用が広がっており、卸事業者のSCM向けの導入も期待され、また、需要予測システムは廃棄ロス削減やSDGs対応ニーズにより、全国展開する大手リテーラーで導入が進んでいる。
デジタル接客
業界再編や店舗業務の効率化が進むなかで、コミュニケーションロボットを活用した店舗の無人化や省力化を目的に伸びている。
交通/運輸/物流
MaaSやコネクティッドの規模が大きい。MaaSは、タクシー配車サービスなどの都市型MaaSを中心に投資が活発化している。一方、地方型MaaSは過疎地域における交通手段の確保などを目的に導入されている。将来的には移動データを統合的に管理/分析するプラットフォームの登場により、都市型と地方型が融合し、投資拡大につながるとみられる。コネクティッドは、車両の走行状況や位置情報、運転情報を収集し、走行状況などのデータをダッシュボード化することで、コスト削減や運転技術のスコアリングなどの利活用につなげるための投資が多い。CRMとの連携でフィールドサービス業における営業実績の可視化や、運転技術のスコアリング化による保険料の削減などでの活用もみられる。物流では、配送ルートの最適化やスマートロックを活用し、再配達業務の減少を目指した取り組みが進んでいる。
バックオフィス
経理や人事への投資規模が大きい。経理は、電子帳簿保存法改正やインボイス制度への対応やペーパーレス化による業務効率化/テレワーク対応などの需要が底堅い。今後は請求書のデジタル化やデジタルマネーによる給与支払い解禁などへの対応で伸びるとみられる。人事は、人的資本経営の認知度向上や従業員のリスキリングなどによる向上を目的とした導入増加が予想される。法務は、法改正などに加え、官公庁や業界団体が契約の電子化を推進する取り組みにより契約の電子化が進んでいる。それにともない、契約書の管理やチェックといった周辺業務でもデジタル化が進むとみられる。
調査概要
- 調査期間:2022年10月~2023年1月
- 調査方法:同社専門調査員によるヒアリングおよび関連文献、データベース活用による調査・分析
ユーザーアンケート調査概要
- 調査期間:2022年11月25日~28日
- 調査対象:年商10億円以上の企業に所属し、DXに関する自社の取り組みを把握している従業者
- 調査人数:612名
- 調査方法:インターネットリサーチ