日本のモノづくりを発展させるコミュニティー「CRAHUG」事業
酒見氏は「CRAHUG」事業に携わる以前、オンワードグループが運営する公式ファッション通販サイト「ONWARD CROSSET」にて、同グループの基幹ブランド「23区」を中心にECにおける販売業務を約8年間担当してきた。業務内容は商品発注から売上・在庫管理、商品撮影、顧客データ分析、販促施策立案など多岐に亘るが、2020年以降のコロナ禍においては「さらなる成長に向けて、今までにない取り組みを行う必要性が生じた」と言う。
「コロナ禍でEC市場が拡大する中、オンワードグループでも急速にEC化を推進しようという動きが見られました。ただし、ONWARD CROSSETへの顧客流入数やブランドの規模、1品番あたりの販売数の上限などを考えると、従来どおりの販売方法を採るだけではいずれ限界に到達するのではないかという懸念もあり、これまで取り扱ってこなかった商品や、新たな販売方法が必要になると感じていました。」
EC売上の予算設定が高まる中、社内で「ほかのブランドとどう差別化を図るか」がひとつの課題となっていたオンワードグループ。また、そのほかに抱えていた課題として酒見氏は、新規顧客の獲得を挙げた。百貨店を中心にブランドを展開してきた同社では、X世代の顧客層が厚く、ECにおいても同様の傾向が見られたと言う。グループ全体の事業拡大を目指すのであれば、新たな世代・従来とは異なる層を顧客とすることも重要となる。
「新規顧客を獲得するためには、これまでオンワードグループが行っていなかったアプローチを考える必要があります。小規模でも顧客と直接的な接点を持つビジネスモデルを構築し、ファンコミュニティーを形成。ブランドや商品に対する思いを顧客1人ひとりと共有できる新規事業を立ち上げようと考えました」
顧客との持続的な関係を構築するためにD2C事業に着目したオンワードグループ。モノが溢れる時代、大量生産ではなく手間暇をかけて作られた商品の希少性や、そのストーリーに価値を感じる人が増加していると酒見氏は話す。こうしたモノづくりを行う日本の工場・生産者を支援し、顧客との新たな出会いを創出するのが「CRAHUG」事業だ。同事業を開始した背景には、オンワードホールディングスの代表取締役社長を務める保元道宣氏を始めとした、複数の人の「日本のモノづくりを発展させたい」という強い思いが存在する。
「生産体制を海外に持つ企業の増加により、日本のモノづくりの現場はなかなか発展しにくい状況にあります。保元は通商産業省(現:経済産業省)出身ということもあり、こうした状況にとくに危機感を持っていました。さらにコロナ禍で生産がストップするなど、打撃を受けた工場・生産者様が多いことを受け、今こそ日本のモノづくりの現場を支援しようという機運が高まりました。そんな中、国内繊維工場の支援事業を展開している株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO(以下、KDS)の代表取締役社長 梶原加奈子氏との出会いがあり、互いに協力して立ち上げたのが『CRAHUG』事業です」
KDSにて、商品を作るためのテキスタイル(素材)のデザイン設計、および商品の企画開発などを行っている梶原氏は現在、「CRAHUG」事業のクリエイティブディレクターとして、事業全体の監修を務めている。