時代適応しながら『意味』を持たせる CITEN立ち上げの狙いと苦労
憧れのスーツを求めて訪れたユナイテッドアローズの接客に感動し、20歳で同社に派遣社員として入社した伊達さん。意欲を買われて正社員となった後は、大阪や東京の実店舗で経験を積み、2020年4月から新規事業準備室に異動。CITENには企画立ち上げ時から携わっていると言う。
CITEN立ち上げの話が動き始めたのは、2020年初頭。当初は成長戦略のひとつとして新ブランドをローンチする狙いだったそうだ。しかし、新型コロナウイルス感染症が人の動きや生活に変化をもたらし始めたことを踏まえ、目的の軸足はぶらさないようにしながらも「ブランドとしてのありかた」について議論を交わし、あるべき姿を模索していったと伊達さんは語る。
「こうした時代の中で、ユナイテッドアローズが新しいブランドを立ち上げる意味は何なのか。今、お客様がブランドに求めているものは何なのかをたくさん話し合いました。新しい生活様式の中で、お客様は何に困っているのか。何が今のアパレルに不足しているのか。時代の流れを汲みながらも、お客様に豊かな気持ちになっていただくにはどのようなことをすれば良いのか。議論の末に導き出されたのが、『FUTURE ESSENTIALS.』というコンセプトです」
平日は通勤列車に乗り、オフィスへ働きに行く。休日は家族や友人と外出する。出かける機会があれば、その場にふさわしい装い、つまり「人の目に触れること」を踏まえ、服装を選択していた人も多いだろう。ところが、この1年で人々の生活や時間の使いかたは大きく変わり、「家でも楽しい気持ちになる衣類」「自分にとって着心地が良い衣類」「身体のコンディションを整えるための衣類」に対する需要が高まった。ルームウェアやワンマイルウェア、伸縮性のある素材への注目が高まっていることもその裏づけと言えよう。
「もちろん、こうした需要に応える商品を作ることも大切ではあります。しかし、ユナイテッドアローズでやる以上、そこには『意味』が必要です。当社が商品や価値提供でどのように今の時代のお客様に寄り添うことができるか。ブランドとして意志や考えがあった上で商品を作っていることが、きちんと伝わるようにしなくてはならないと考えました」
同社では、長年心が豊かになるラグジュアリー感のある衣類を提供してきた。得意分野を活かしながらも、ある種「外」と「内(家の中)」との境目を作る役割として機能してきたこれまでの衣類のありかたを再定義する。家の中で心地良さを感じられる要素をふんだんに取り入れながらも、そのまま外に出ても違和感がない上質感を担保する。ファッション感度の高さはそのままにしながらも、リアルな日常に寄り添った価格帯で商品提供を行う。「CITENのこだわりをビジネスの中に落とし込むには、多くの調整を要した」と伊達さんは振り返る。
「もっとも苦労したのは、生産や物流も含めたCITENを取り巻く環境すべてにコンセプトを落とし込むことです。とくに価格設定の面では『なぜこの価格帯でないといけないのか』『この価格で質を担保するのは現実的には難しい』と、厳しい声も上がりました。新しいブランドとしてスタートさせる以上、継続的に成立するスキームを生み出さなくてはならないため、『今回だけは』と言って頼み込むことも不可能ですし、コンセプトを価格にも反映させなければブランドとして成立しません。また、価格訴求が行き過ぎてしまうと、既存のユナイテッドアローズのファンを裏切ることにもなりかねないため、ブランドをローンチしてからのことも考えました。現実的にどのようにすればブランドとして成立するのか。とくにこの点については、多方面と議論を重ねて進めていきました」