コマースメディアに聞く、食品EC運営の「やってはいけない」
−−まずはコマースメディアの紹介をお願いします。
井澤 コマースメディアは2016年にできた会社で、現在は15名ほどでやっています。もともとは、ECコンサルティングを手がけていましたが、サイトの構築や運営も依頼されるようになり、今では総合的なEC事業を運営しています。Shopifyについては、日本に入ってきた当初から利用しており、日本で3社めのShopifyエキスパートに認定していただいています。モールと独自サイト、両方を運営できるのを強みとしており、両方の運営に関するご依頼を多数いただいています。
石田 食品ECの実績はいくつかありますが、たとえば「ゴーゴーカレー公式通販」は、コマースメディアで事業部を持ち、予算の管理から商品の発送まで、EC運営にかかわるすべての業務を担当しています。当社で運営するようになってから、EC売上が2倍以上に伸びました。他にも、ブラックサンダーで知られる有楽製菓様のモール、独自ECのサポートや、某お米屋さんのご支援ほか、自社でレトルトカレーのECも運営しています。
−−コロナ禍で、飲食店がECを始め、消費者はネットで食品を購入する機会が増加しました。コマースメディアへの相談も増えたかと思います。印象はいかがですか?
井澤 大手外食チェーン店さまはじめ、多くのご相談をいただきました。ECは簡単だと思っていらっしゃる方が多いのですが、片手間でやろうという意識で始めるところはなかなかうまくいきません。長期的な視野を持って、力を入れるところはうまくいっていると思います。ノウハウ的な話をすれば、食品は価格をそれほど高く設定できないため、日々の食事のような通常利用だけではなかなか軌道にのらない。お中元・お歳暮、バレンタイン等、ギフト用途の商品開発ができると強いですね。
石田 「うちの商品はおいしいから」と、自分のお店の商品がECでも売れると思っている方が多いのですが、なかなかそうはいきません。ギフト用途など、「ECで売れるものは何か」を考えるところから始める必要があります。すでにあるECサイトで売れているものを探し、需要があるものは何かを考えるという順番です。たとえば、リアルのしゃぶしゃぶ屋さんを運営している場合、お店で出しているしゃぶしゃぶセットをそのままECで売ろうとするのではなく、お肉だけ、スープだけで売ってはどうかと考えるわけです。自分のお店の商品のうち、ECで売れるものを見極め、販売していくことが重要だと思います。時間を限定してお肉を安売りするという取り組みがありますが、無料のカートシステムを使っても売上が立っているようです。お肉は価格もある程度高いですし、消費者はふるさと納税等でお肉をECで買うことに慣れていることが成功につながっているのではと考えています。
井澤 楽天時代に上司から言われた「お前だったら、これ買う?」という言葉にはハッとしました。ECで売れているもの、流行っているものを調べたうえで、自社商品が本当に戦えるのかを考えることだと思います。食品はたくさんありますが、ECで戦えるものはそう多くありませんから。
−−EC運営における、一番ネックになるポイントはありますか?
石田 在庫管理でしょうか。全部で100個の商品在庫があり、楽天、Yahoo!ショッピング、Amazonに出店するのに在庫連携システムを導入していないと、手作業で、たとえば楽天に50、Yahoo!に30、Amazonに20のように在庫を分散しますよね。その商品が楽天と相性が良く売り切れてしまった場合、他のモールに入れていた50の在庫がもったいないことになります。在庫は共通で持ち、すべてのモールに反映するシステムを入れると解決するのですが、初心者の方には難しいようです。つまり、ECは表側の目に見えるサイトの部分だけではなく、裏側に在庫をマネージしたり、物流倉庫とつながるシステムがあって成り立っています。この裏側の部分のイメージがつきにくいのだと思います。
井澤 新規のお客様の獲得です。リアルなお店が新たにECを始めた場合、リアル店のファンの方はついてきてくださいますが、新たなお客様に知っていただき、購入してもらうことが課題になります。食品の場合、楽天、Yahoo!ショッピングのふたつのモールが強いです。Shopifyへの注目もあって、独自サイトにSNSで連れてくることが注目されがちですが、集客の観点から言えばリアルなショッピングモール同様、多くの人がいる場所にお店を出し、広告を出稿するのは、比較的やりやすい手段のひとつですし、ボリュームが見込めると思います。モールである程度有名になってから、独自サイトを頑張るという選択肢もあるでしょう。