ノース・モール、「顧客絶対主義」実現のためSalesforceを選択
2020年10月にECショッピングモール「Northmall(ノースモール)」が誕生した。「散歩のついでにぶらりと立ち寄った商店街の雑貨屋さんや、旅の合間にふらりと入り込んだ海外の市場のような、たくさんの商品があふれんばかりに並び、見ているだけでワクワクする、お気に入りとの出会いの場を提供する」をコンセプトに、従来扱っていた婦人服に加え、雑貨やインテリア、ペット用品、食料品などのラインナップを揃えるほか、ショッピングモールのイベントのような、ユーザーが楽しいひと時を過ごせる動画を集めた「Norcafe(ノルカフェ)」というコンテンツも更新。単なる物販サイトにとどまらない、ライフスタイル・メディアコマースを目指している。
運営するノース・モール株式会社は、1986年に婦人服のカタログ通販事業を営む住商オットーメールオーダー株式会社として設立。ドイツに本社を置くオットーグループに加わるなどの経緯を経て、2020年8月マネジメント・バイアウトの形でグループ会社から独立し、現在のノース・モールとなった。ECサイトも、旧「Otto」からリニューアルを行った形だ。通販企業として30年を超える歴史を持つことから、メイン顧客はカタログを見て電話で購入する60代以上の女性。今後はウェブ施策を中心に、ターゲットを拡大していく方針だと言う。
現在の代表が就任した際に行動規範「顧客絶対主義」が掲げられた。実現のために導入したのが、セールスフォース・ドットコムのService Cloud、Commerce Cloudだ。一部門で2015年から導入していたMarketing Cloudとも連携、3つのCloudがノース・モール事業の根幹を支えている。カタログ通販から始まった企業が、Salesforceを導入し、デジタルを活用することでいかに「顧客絶対主義」を実現したのか。導入プロジェクトを牽引した、小山欣泰さん、中西祥子さんに話を聞いた。
予想以上のおもてなしで次につなげるCRMのためSalesforce採用
「顧客絶対主義」の実現に向けたSalesforce導入は、同社のコールセンターであるコミュニケーションセンターへのService Cloudから始まった。ノース・モール事業部門でデジタルソリューション マネージャーを務める小山欣泰さんは、導入背景をこう語る。
「ノース・モールとして独立する以前のことですが、現代表が就任した際に行動規範として『顧客絶対主義』を掲げ、社内を改革することを明確にしました。たとえば自分が与えられた職務を全うしていても、お客様のためになっていなければ意味がないということです。社員の意識、業務の両面から改革が進められました。顧客絶対主義のもと業務を遂行するにあたり、喫緊の課題として、受注チャネルが複数あるため、ひとりのお客様の情報がチャネルごとに管理され、1本化したコミュニケーションを取ることができていないというものがありました。また、それぞれのチャネルを担当する部署ごとに業務やシステムを作り込んでいたことからコストが膨らみ、分析に用いるデータを集めるのにも時間がかかっていました。これらの課題を解決するためのCRMソリューションとして、Service Cloudを選択しました。並行してECサイトのリニューアルが進んでいましたが、顧客情報の連携のしやすさを基準に考えると、同じSalesforceのソリューションが良いという判断になり、Commerce Cloudを採用しました」
こうして2019年8月から、Service Cloud、Commerce Cloudが稼働する。マーケティングソリューションのMarketing Cloudについては、2015年より同社の一部門で活用されていたが、Service Cloud、Commerce Cloudの稼働に合わせ、一部リプレースを行った。かつては婦人服ブランドごとにサイトを運営していたが、ECサイトのリニューアルに伴いひとつのサイトに統合。マーケティング活動に必要なデータも一元化に向かっている。
カタログ通販から始まったことから、直近3ヵ月の受注チャネル比率は電話が50%、書面が12%、ウェブが38%となっている。カタログを見て電話で注文するやりかたを好む顧客が多いことから、すべてをデジタル化し、ECサイトのみで完結する体制は現時点では想定していない。
受注件数の5割を占める電話。ノース・モールでは自社でコールセンターを持ち、いわゆるオペレーターを「コミュニケーター」と呼ぶ。コミュニケーションセンター長の中西祥子さんは、実際に利用する立場から、Service Cloud導入背景をこう述べる。
「お客様を知り、知ったうえでお客様が予想されている以上のおもてなしをすることで、次回以降のご利用につなげていく。コミュニケーションセンターとして当たり前のことですが、当たり前ができておらず、この循環を作っていきたいと考えていました。たとえば、1年ぶりにお電話をくださったお客様と毎日のようにお電話をくださるお客様とは、当然ながら会話の内容が異なるはずです。従来のシステムでは、お客様のお名前、電話番号、ご購入頻度による簡単なランク程度の情報しかわからず、どのお客様にも一律同じ会話をするしかありませんでした。Service CloudとCommerce Cloudにより、コミュニケーターが電話を受ける際に必要とする情報がひと目でわかるようになりました。これまでも、研修等でお客様の潜在ニーズを探る重要性を学んできましたが、それを活かした施策をデータとして残すことができず、次につなげられずにいました。これまでできなかったことが可能になる、すごい武器をいただいたと受け止めています。導入後は、お客様から『丁寧な対応をありがとう』『お話しできて楽しかったわ』など、お褒めの声を多数いただくようになりました」
進む一途のデジタル化により、カタログから始まった通販企業においても、すべてをECで完結しようという発想が出てきてもおかしくはない。電話で受注するコールセンターを、コストセンターとみなす人がいないわけでもない。ノース・モールでもかつて、積極的にECへ誘導する方針をとったこともあったが、それほど芳しい成果はあげられなかったそうだ。
「以前は、コミュニケーションセンターと本部の間で温度差がないわけではありませんでした。しかし『顧客絶対主義』を掲げたうえで、いちばんお客様に向き合っている部署はどこかを考えると、コミュニケーションセンターでした。今では、すべての社員が月に一度はコミュニケーションセンターへ行き、実際に電話での受注業務を行っています」(小山さん)
これは、顧客と対峙するコミュニケーションセンターの現場で何が起こっているかをリアルに知るためでもあるが、人的リソースの調整も兼ねている。新しいカタログを発送して数日間は電話の件数が跳ね上がるが、しばらくすると落ち着いてくるため、コミュニケーターの配置が難しいのだ。ピーク時にコミュニケーター以外の社員が応援に入ることで、過剰なリソース配分を防ぐことができるのだ。
顧客1人ひとりにあわせたレコメンドを実現しモチベーションもアップ
コミュニケーターがひと目で顧客を理解できる理由――。それは、コミュニケーターが受電したタイミングでServiceCloudにCTI(Computer Telephony Integration)連携を行い、即座に顧客情報を画面に表示することが可能となったからだ。さらにノース・モールの場合は、CommerceCloudの「代理ログイン機能」を用いることで、たとえばService Cloudの顧客管理画面から、Commerce Cloudの受注画面を利用するといったことが可能になる。同じSalesforceのCloudを導入しているからこその、スムーズな連携が実現している。
「たとえば、『ECサイトのID・パスワードがわからない』というお問い合わせをいただいた際、以前はコミュニケーターだけでは完結できず、お客様には一度電話を切ってお待ちいただき、『お問い合わせ票』という紙の書類にお問い合わせ内容を書き、申請して承認を得たのちに担当部署に書類が回るというフローでした。それが今では、代理ログインでコミュニケーターが自ら解決したり、Service Cloud上の画面から問い合わせ内容を記入した電子書類が立ち上がり、デジタル上で承認フローへ進め、専門部署へ申請することが可能になっています。コミュニケーターがその場で解決できない『二次対応』案件が減りましたし、スピードが上がったことで、予想以上のおもてなしをするために時間が使えるようになりました」(中西さん)
ノース・モールで活用している機能として「ケース」「顧客カルテ」がある。顧客との会話のやりとりを、コミュニケーターがログとして書き残し、蓄積していくものだ。過去のやりとりを見ることで、コミュニケーターはその時の問い合わせ内容も大方予測することができると言う。また、顧客の声は商品ID等に紐付けたデータ抽出が行えるため、たとえば品切れ商品が再入荷した際に「いかがですか?」とオススメする電話をコミュニケーター側からかけるといったアクションも可能になっている。さらに、顧客から寄せられたポジティブな声を積極的に記録するよう指導、それをもとにコミュニケーターを表彰するなど、モチベーションアップにつなげている。
なお、従来は紙に書き記すなどアナログな作業が中心だったことから、Service Cloud、Commerce Cloudが稼働する前に、デジタル入力にまつわる研修をコミュニケーターに実施。管理画面については、順を追ってボタンを押していけば顧客と話をしながらでも操作できるようUIを工夫した。コミュニケーターは新たなデジタルへの変化に戸惑うことなく、「システムが導入されたことで、より良いコミュニケーションが行える」という意識で、仕事に取り組むことができていると言う。
Salesforce導入の成果として、もっとも顕著に表れているのはコミュニケーターによる電話でのアップセルだ。以前は、たとえば最新のカタログに掲載されている3〜5点をレコメンド商品としてあらかじめ設定。すべての顧客に一律同じ商品を勧めていた。導入以降は、1人ひとりの顧客にあった商品を紹介できるようになったと言う。実は、レコメンド商品の充実化についても、Salesforceを導入する目的のひとつだった。
「お客様とお話ししながらコミュニケーターが見ている管理画面に、お客様のご注文商品から、そのお客様にオススメの商品が自動でいくつか表示されます。また、お客様の情報がひとめでわかるようになったことでお話しできる時間も増えましたから、ご興味ご関心もわかりやすくなりました。システムに表示されるレコメンド商品の他にも、コミュニケーターが自ら考えて『私はこれがオススメなのですが、いかがですか?』と自由に、ランダムにご提案できるようになっています。導入前の半年と直近の3ヵ月を比較したところ、コミュニケーターの電話によるアップセル売上金額は3〜4倍になりました。商品の種類については、導入前は決められた3〜5点に限られていたのが、200種類以上の商品を販売できています。お客様それぞれに合わせたご提案ができるようになったことは、『顧客絶対主義』の行動規範からも非常に良かったと思っています」(中西さん)
カスタマーサクセスに含まれるからサイト改善が継続して実施できる
Service Cloudとの連携により、コミュニケーターが本来の能力を発揮するのに貢献するのはもちろん、Commerce Cloudもコマースシステムとして、ノース・モールにさまざまな恩恵をもたらしている。
「当初の目的のとおり、各部署の業務フロー簡素化が実現しましたし、複数システムの管理を行う必要がなくなったことでそれに伴うコストが抑えられています。またITインフラの視点では、Commerce Cloud導入後はSalesforceに一任できますから、たとえばトラフィックが増加する際にサーバーのスケールを増やすといった作業がなくなり、他の業務に集中できるようになっています。プロモーション施策についても、Commerce Cloud内で一元管理が可能になりました。ブランドやチャネルごと独自に施策を実施していた頃には、トラブル等が発生した際には原因を突き止めるのに時間を要していましたが、そういった非効率も解消されました。また、システム部門に依頼せずとも、さまざまなプロモーション施策がユーザー部門で完結できるようになったのは大きいですね」(小山さん)
リニューアルに伴い、ドメインを変更したにもかかわらず、オーガニックを含むトラフィックに変動はなく、売上もそう落ち込んではいないと言う。SEOをはじめとしたデジタルマーケティングは慎重に検討を重ね、ティザーサイトも用意、顧客に対してはさまざまなメディアから何度もメッセージを送るなど、万全の事前準備を行ったことが功を奏した。
「Salesforceの専属カスタマーサクセスの方についていただいているため、月に一度、サイトの改善のご提案をいただいています。Commerce Cloud内の分析画面を見ながら、効果が出そうな改善から優先して実行しています。以前は、サイト改善を行う際には、専門のコンサルティング会社に依頼するなど都度費用がかかっていました。導入後は、Commerce Cloudのカスタマーサクセスの範囲内でご提案いただけるため、コストも下がりましたし、やるべき施策を自分たちで選択し、注力できるようになっています」(小山さん)
まだ売上に占める割合はそれほど大きくないが、Marketing Cloudを活用した施策による売上も伸びつつあり、これから本格的な活用を進めていく方針だ。
「Service Cloud、Commerce Cloudと連携し、カート放棄、ブラウザ放棄といった鉄板シナリオを実施しています。Service Cloudで管理している顧客情報から、特定のセグメントに向けたプッシュアクションも実施していますが、Salesforce同士で連携しているため、わざわざデータを取り込む等の下準備なしに施策を行えるのが良いですね。PIタグを用いることで、顧客の閲覧履歴などからメールコンテンツなどを変更するなど、One to Oneのコミュニケーションも実施できました」(小山さん)
強引なEC完結ではなく、買わなくとも楽しめるメディアコマースへ
Salesforceの導入により、行動規範である「顧客絶対主義」を遂行できる土台が整ったノース・モール。電話によるアップセル売上など、すでに目に見える形での実績が出ている。今後の展望をふたりに聞いた。
「『Northmall+(ノースモールプラス)』という、商材の1つひとつを詳しく掘り下げた記事や、Northmallのコンセプトである北欧にちなんだコラムの連載などを掲載している、ライフスタイル・メディアがあります。このメディアとECショッピングモール『Northmall』を融合し、商品を買うのが目的でなくともサイトを訪れ、楽しんでいただけるようなメディアコマースを目指しています。
売上アップにつなげる具体的なアクションとしては、Commerce Cloudとさらなる連携を進め、Marketing Cloudを今以上に活用していきます。たとえば、Commerce Cloudにある、顧客ごとのプロモーション施策への反応データをMarketing Cloudに自動連携することで、『この顧客には、次はこのような施策を行うと効果的ではないか』といったよりパーソナライズなプロモーション施策のPDCAを高速に回すことができればと思います」(小山さん)
「Salesforceを導入して1年3ヵ月、メイン顧客である電話注文のお客様の満足度を上げるべく取り組んできました。今後はECですべて完結するお客様も増えていくでしょうから、そのお客様たちをSalesforceを使ってどのようにおもてなししていくかを考えていきたいです。チャット機能を使ってみる、メールやLINEが苦手なお客様でもSMSに商品のリンクを飛ばしたら見ていただけるかもしれない等、すでに取り組んでみたいことはたくさんあります。強引なデジタル化ではなく、電話をご利用のお客様にとってもメリットがある形で、多くのお客様のECのご利用頻度を上げていければと考えています」(中西さん)
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