元号が変われば景気も変わる? 平成のEC業界を振り返る
元号も令和となり、世間の雰囲気もなんとなくお祝い気分のような気がします。実は、100年前ぐらいに唱えられた経済学の議論に「景気心理説」というものがあります。有名な経済学者であるケインズは「アニマルスピリット」という言葉で論じていますが、要は景気の循環は世間の雰囲気=心理によって変動するという話です。難しい数式を使って一応「その可能性は十分にある」というところまでこの理論は証明されています。
基本的には元号が変わっても、4月と5月でとくにこれといって大きな経済環境の違いはないはずなのですが、巷の気分が少しだけ「新しいことを始めてみようかなっ♪」という雰囲気になり、一部の人が実際に何かを始めてみるごとくの小さな事象の積み重ねが経済全体を動かすということになるのでしょう。
言われてみれば経済循環の源となる個人消費にしても金融商品などへの投資にしても、あるいは企業の設備投資にしても新規採用を含む人材への投資にしても「未来は誰にもわからない」中で消費や投資、起業という行動を起こすかどうかによって経済循環の度合い=景気が異なってくるのは容易に想像がつきます。コップに半分の水(=景気)という現在の事実に対して、半分しかないと捉えるか半分もあると捉えるかによって、実際に近い将来の水の量自体が変化するごとくの事象でもあるわけです。
EC業界全体の“景気”を振り返ってみると、まさに景気心理説によって動かされていたような気がします。平成はほぼ私の社会人生活の期間と一致しているのですが、PCと通信=遠隔コミュニケーションの時代だったと言ってよいのではないでしょうか。新卒の時期には部署に1台ずつ文書と表グラフ作成用のパソコンがあり、別個にホストコンピューターに売上や経費などを入力するための白黒画面の“端末”(形はデスクトップPCに似ていますがモニターとキーボードだけが機能するようなもの)があり……という時代でした。入社後数年して元号が平成に変わったとほぼ同時に、Windowsパソコンが社員1人に1台与えられ、本支店間の諸連絡はイントラネット内のパソコン通信(社内間のみで使われるクローズドのメールのようなもの)で行うようにとの“社内通達”が出たことを記憶しています。強制力をもってPCでのコミュニケーションが義務付けられたのです。
時代としてはバブル後期。当然ながら世の中はイケイケドンドンという雰囲気でした。当時決して安い買い物ではなかったPCを社員全員に与え、システム制作への投資もかなりの額に上ったかと思います。売上の次は経費、その次に為替予約と社内間通信のシステムがほぼ同時に導入され、その後インターネット経由で社外とのメールのやりとりがOKとなり……という具合に投資が続けられたのです。もちろんこの投資は正解でした。現在ではネットを使わずにできる仕事は皆無と断言できるほどの重要なインフラになっているわけで、もしもこのインフラへの投資が行われなかったとしたら大きな遅れをとっていたことは間違いありません。